アメリカが中国を為替操作国として認定しました。心理的節目の対ドルで7元を超える元安になったからです。これに対して為替操作国に指定された中国の中央銀行である中国人民銀行はその翌日、中心レートを6.9683元と比較的元高気味に設定しましたがそれは中国としても過度の元安は非常に困るからでありましょう。
私には中国が今回、為替操作をしたというより、中国元の防衛を放置したか、管理を緩めたのではないかとみています。つまり、為替は為替に聞け、ぐらいのつもりでトランプ大統領が撒いた種をなぜ、中国政府が支えなくてはいけないのだ、ぐらいの論理だろうと思います。
ただ、7元を切るのは「劇薬」だということは中国もよくわかっているはずです。それは中国の資本流出が加速し、国内金融市場が制御できなくなる可能性を秘めているからです。そうなれば中国人の海外での消費にも更なる厳しい制約を課すことも考えられます。よってフリーフォールしないよう、結局、元の下落を防止する「為替操作」せざるを得ないことになりそうです。
世界経済において為替というのは基本的に自由な市場の中で需要と供給で決まるようになっていますが、通貨供給量の差によりβ(ベータ)値が違うため、弱小国の通貨の振れ幅はより大きくなる傾向があります。一方で輸出に頼るβ値の高い新興国は為替の急激な変動は輸出の利益を一気に吹き飛ばすほどの脅威となり、なるべく安定した為替を求めたいところでしょう。このあたりがジレンマであります。
例えばタイのバーツは経済成長と国の安定感から長期的に買われてアジア通貨の中では突出した通貨高を演じています。結果として輸出がGDPの5割を占める同国の経済にじわっと影響を与えてきています。これに対してタイ政府は投機的資金の流入を防ぐべく対策を取り、過度のバーツ高を阻止せざるを得ない状況になっています。
一方で韓国ウォンは3年5カ月ぶりの通貨安となっていますが、海外投資家の冷静な見方としては現在の文政権の向かうところがどこにもなく、やみくもに国民をたきつけているが経済対策が全く不十分でその理由をすべて日本に押し付けようとしていることを読み込んでいるようです。
韓国のメディアなどを通じて日本のメディアは韓国政府がかなり感情的になり、日本製品不買運動も増えていると報じていますが、私の知る限り、それ以上に文政権に対する不満の声が実情となりつつあり、大統領の任期がまだ3年近くあるのにこれでは国が持たないという判断故の通貨安だとみています。
通貨安を恣意的に行うのはもちろん現代の金融市場ではタブーでありますが、ある程度の操作は国家を守るうえではやむを得ない状況にあります。私はこの為替の不安定さが世界経済の発展に大きな障害となっているとみています
例えば中国は米ドルを奈落の底に落とす方法を知っています。それは中国が持つ117兆円規模のアメリカ国債を放出するというとんでもない劇薬であります。戦争でいえば核爆弾ほどの威力がありますが、これを行えばアメリカも中国もひとたまりもない状態になるでしょう。この話には続きがあって、仮に中国がアメリカ国債を売ったら何を買うのか、という質問であります。これほどの金額を投じるところはない、というのも現実であります。
例えば金(ゴールド)は世界に50メートルプール3-4杯分しかない中で中国やロシアが今、買い続けていることもあり、相場はそれこそ飛び跳ねてしまうのです。そうなると次の資金の行き先は仮想通貨、なのかもしれません。
もしも中国が中国元を担保とする仮想通貨をつくれば別次元の戦いが生み出されます。そんなことが起こるか、といえば何が起きてもおかしくないとみています。新通貨圏としてステーブルコインの仮想通貨圏を中国、ロシア、アフリカ圏が始めたとしたらどうでしょうか?恐ろしいことです。
そうなると本日のブログのお題であるリブラを利する、につながります。つまり、リブラをドル/ユーロ/円経済圏の代替通貨として流通させざるを得ないという流れです。
仮想通貨はいくらでも生み出すことができますが、私は時間はかかるものの割と限定された数に淘汰されるものとみています。クレジットカードがVisa,MC,Amexにほぼ集約されているように、であります。
世の中、混乱すればするほど新しい対策や知恵が出てくるものです。米中通商戦争はその典型です。これからは何が出てくるかわからない時代だと思って身構えておく必要がありそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月7日の記事より転載させていただきました。