盟友・中川淳一郎に約20年前から言われ続けていることがある。「お前は、小泉純一郎に似ている」と。目が細いこと、髪型、顔の輪郭などが似ているらしい。イデオロギーはまったく似ていないのだが。
小泉純一郎の息子、政治家の小泉進次郎とタレントの滝川クリステルが結婚を発表した。滝川は妊娠しているという(この妊娠しているか否かという報道は嫌いなのだが)。
特にお祝いコメントを言うつもりはない。3世代に渡り反自民であり、娘もあいちトリエンナーレに連れて行くなど、英才教育をしている左系知識人としては、ここでお祝いするわけにはいかない。
むしろ、本人たちも触れてはいたものの、官邸での会見の公私混同ぶり、それに対するお祝いムード、騒ぎすぎなメディアに私は危機感を抱いている。結婚発表がプロパガンダそのものなのだ。このようにして、「普通の家族」幻想を庶民に刷り込もうとしているのである。
いや、実は当の2人以上に、メディアが踊らされ、それにより国民も扇動されていないか。親父譲りの劇場型ポピュリズムの危機が予感される。
「未来の総理」「官邸での会見は、入閣アピールか」などとも言われているが、バカバカしい。人気があることは認める。ただ、小泉進次郎は実績も実力も未知数である。芸能人と結婚するだけで日本国首相になれるのではないかという珍妙きわまりない情勢認識が開陳されているのだ。
だいたい結婚を日本国首相に報告しにいく必要などあるのか。自由に恋愛をしてはいけないのか。安倍一強なる幻想を自己目的的に追求してきたことの必然的結果にほかならない。
とはいえ、これだけ注目を集める夫婦も珍しい。一つだけ注文をつけるならば、小泉滝川の2人には、仕事と家庭のあり方について、根本から問い直す闘いにうって出てほしい。
人生の、結婚の先輩として、小泉進次郎・滝川クリステルにこの檄を叩きつける。小泉進次郎は「主夫」を名のる勇気があるのか。
私は1日6時間主夫をしている。毎日、働きながら、だ。私は男らしさも父性も徹底的に捨てることにより、また主夫をすることにより、生きづらさを卒業することができた。自宅では、召使いペット猫のバニラちゃんと呼ばれている。妻にも娘にも、バニラちゃんと呼ばれ、人間リモコン、仲居さんとして生きている。父らしさも、男らしさも捨て去った。どうだ、羨ましいだろう。
そんな主夫生活のすべてを、昨日発売された拙著『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』(自由国民社)に書き綴った。「いま、この国で中年男子が父親になるということ」「イクメンは、無理ゲーだ!」「育児は労働だ!」「ワンオペではなく、シェアオペ!」「いざ、主夫をしてみたら、色々すごかった」これがこの本のテーマだ。
子供が欲しいと思ってから、現在までの7年間、私が直面し、考えてきたことのすべてがまとまっている。妊活、出生前診断、無痛分娩など、最近、論争を呼んでいる件はすべて取り組んだ。イクメンという言葉の欺瞞を暴きつつ、会社と社会にとって育児とは何なのか、これからの家庭のあり方など、もろもろ斬っている。尊敬する漫画家宮川さとしさんとの対談も収録している。
小泉進次郎と滝川クリステルにもぜひ、読んでもらいたい1冊だ。
小泉進次郎は、横須賀から政治家になり、多摩川をわたった。今度はルビコン川を渡るほどの決意で、日本の家族像を革命的に、根本から変える勇気を持つべきではないか。
おそらく、男性政治家として育休をとるのかどうかなどが論争になるだろう。ただ、それだけではなく、日々、どのように育児・家事に参加するのか、身をもって実践してほしい。日本の主夫に必要なのはおもてなしだ。ワンオペではなく、シェアオペの育児を目指して欲しい。
お祝いをするつもりはまったくないが、人生の先輩としてこの言葉を捧げる。
人生、山あり、谷あり、モハメド・アリ。
上を向かなくてもいいから、前に進んで欲しい。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。