100万人デモから2ヵ月半、一向に収拾への途が見えない香港市民に強力な助っ人がついに現れた。米国大統領ドナルド・トランプだ。これまで香港問題にはほとんど発言がなかったトランプが15日、満を持してツイートした。
初めの2本にはこう書いている。(1本にバインド。太字と翻訳は筆者)
先日、中国との電話会議で良い話があった。彼らは通貨を切り下げてシステムに金を「注ぎ込み」、関税の穴埋めをしている。米国の消費者は9月であろうがなかろうか問題ないが、12月まで少し延ばせばもっと良いことがあるだろう。実は我々より中国の助けになるが、それはお互い様。中国が失った何百万もの雇用が他の関税のない国々に行っている。何千もの企業が去っている。もちろん中国は取引したがっている。まずは香港と人道的にやったらどうか!
通貨切り下げで関税を穴埋めしている件で、米国は今月5日に中国を為替操作国に認定した。米国の法律は、貿易相手国による為替操作の判断基準3項目、即ち、多額の経常黒字と対米貿易黒字及び継続的で一方的な為替介入を定め、かつ米財務省が相手国に是正協議を求めることを義務付けている。
12月までの延期とは、13日に米政府が発表した中国製スマホなどへの追加関税発動を12月15日まで延ばす件だ。「健康、安全、国家安全保障その他」を理由に挙げて、スマホの他、ラップトップ、ビデオゲーム、玩具、コンピューターモニター、靴、衣類など対象だ。そして香港への言及を付け加えた。
さらにこの27分後に以下をツイートした。
私は中国の習近平主席をよく知っている。 彼は多くの国民に尊敬されている偉大なリーダーだ。彼は「タフなビジネス」の上手い人物でもある。習主席が香港の問題を迅速かつ人道的に解決しようと思えば、彼にはそれができることに私は全く疑いを持たない。個人的に会うかい?
まさに極めの付いた褒め殺しだ。トランプのツイートの特徴は、まず相手を褒め称えて、相手がそうする、あるいはそう出来ることを自分は信じる、という構成をとることだ。内心は決してそうは思っていないに違いない相手、すなわち、金正恩、習近平そして文在寅などに対しては特に入念にそうする。
さて、その香港だが、15日午後にAFPは「動画:中国治安部隊、香港境界近くでパレード AFPのカメラが捉える」との見出しで、香港に接する深圳の競技場に中国治安部隊が装甲車やトラックと共に集結している様子を捉えた動画を配信した。
見る者に30年前の天安門の惨劇を思い出させるに十分な画像だ。早速、ボルトン大統領補佐官がVOAのインタビューで、「米国民は戦車の前に男性が立ちはだかる映像を覚えている」、「そうした記憶が香港で新たに生まれるなら、それは大きな過ちだ」と天安門事件に触れて、中国を牽制した。
14日のFOX Newsも、「What Hong Kong unrest tells us about China’s plans for the rest of the world:香港社会の混乱は世界の残りの部分に対する中国の計画について我々に何を語るか(拙訳)」と題するヘリテージ財団の外交防衛政策研究所副所長James Carafano氏の寄稿を載せている。
FOX Newsもヘリテージ財団も反中国で知られているので、その言説を100%鵜呑みにすることは禁物だが、筆者はそれらの主張の多くに得心する。VOAなどでもトランプのツイートを機に香港の報道が増えた。漸く米国がこの問題に深く入り始めた証だ。以下にCarafano論考のポイントをさらってみる。
彼はまず、「自由の原則を守ることが問題であると主張すること以外、外野からは香港の自由の未来を保証することはできない」という。そう、そこが歯痒いのだ。が、彼は「それでも地域の700万人以上の魂の苦境は、我々に中国が世界の他の地域で何を考えているか-それは良くないことだー、についての重要な教訓を教えてくれる」と続ける。
中国本土に住む人々の心境に関する彼の描写はとても興味深い。「北京が香港をいじめるのが大いに嬉しい一方、過酷な軍事行動で抗議を鎮圧するほど急いでいないだろうという思考の緊張がある」というのだ。ソ連がそれをして世界の拒絶反応を招き、最終的にソ連崩壊に繋がったからだ。
が、世界の人々は「北京がデモ参加者に介入し取り締まることを恐れている。ソ連の崩壊は人民解放軍が戦車を天安門広場に転がらせるのを止めなかった」からだと彼は言う。だが、30年前と違って目下の香港の様子はほぼリアルタイムで世界が注視している。
彼は「香港のデモがCIAによって作られたというプロパガンダほど、馬鹿にした中国の態度を反映するものはない」とし、「彼らは世界の正しい考えの人がこれを信じないことを知っているが気にしない。 中国人がこの説明を受け入れることを知っているからだ」とする。
だが香港人は中国人とは違う。香港人は香港がそういう社会になることを忌避して、抗議を続けている。彼は「香港は世界への警告だ。世界は注意を払うべきだ」と述べて論考を結んでいる。全く同感だ。
他方、16日のチャイナデイリー紙は「法の支配に戻ることが、香港の現在の問題を解決する唯一の方法だ、と香港のサイレントマジョリティーが暴力に対して声を上げたとして、木曜日に本土の有力な立法者と法学者が述べた」と報じた。
しかし、中国が一体どの口で「法の支配」などと言うのか。「内政干渉」などもそうだが、こちらのセリフを中国や韓国から先に言われると、人の好い日本人は不意を突かれてつい狼狽えてしまうところがある。こんなプロパガンダにはたじろがずに、世界の人々と共に香港に注意を払わねばならない。
「Committee on the Present Danger: China(CPDC)」(「現在の危機に関する委員会:中国」)も「大統領-香港と共に立つ」とのトランプのツイートを受けた次のような趣旨の声明を発した。
昨日、トランプ大統領はコメントとツイートで連続して「香港のこと」を述べた。…彼は誰も傷つかず自由のために良い結果がでるよう希望した。…明らかに大統領は地雷原を進んでいる。…中国共産党のプロパガンダ手段は、中国自身の鎮圧行為というよりも香港大衆の暴動のために、すでに彼とアメリカを非難している。
ますます可能性が高いと思われる通り、北京が暴力によって(香港に)対応する場合--目下、そのために集結している制服勢力によって、あるいは潜入工作員の暴力的な行動を通じて--トランプ大統領が高いコストを伴うからとして、そのような弾圧を抑止することを拒否した場合、広く非難されるでしょう。大統領、今ですよ。
CPDCに釘を刺された格好のトランプもこうなったら後には引けまい。今回の香港の抗議デモは、天安門の時の学生や若者のみならず、彼らの親たちや公務員、銀行員、客室乗務員、教師などあらゆる職業の香港住民が参加している。中国の出方に注意を払いつつ、トランプの今後に期待したい。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。