本日の日経1面トップ記事は「人民元、やまぬ売り圧力 需給反映なら10元割れも」という記事。記事には「実際、中国は過去3、4年の間、人民元を高めに操作してきた」とある。たしかに、そうかもしれないが、大きな流れをみると違う姿が見えてくる。
中国は1980年に1ドル=1.5人民元だった元を大幅に安値誘導してきた。1994年には今よりはるかに安い8.7人民元をつけたことさえある。それが30年間でGDPを57.7倍、40年間で220倍にも拡大できた最大の理由だ(1ドル=100円が1ドル=580円になった日本を考えていただきたい。世界の工場になっている)と私は思う。
ちなみに日本のGDPは30年間1.5倍、40年間2.5倍と世界ダントツのビリ成長だ。日本円が国力に比べて強すぎたせいだ。
米国は過去、「人民元安の修正」を何度も中国に要求したが、中国は、米国の要求にお茶を濁す程度にしか反応しなかった。日本経済が「国力に比べて強すぎる円」で沈没した事実で学習したせいだ。
中国が米国からの要求をはねつけた理由は
①軍事力を持っているので、日本のように米国の言うなりにならずともよい
②完全雇用によるインフレ圧力には通貨切り上げくらいしか有効な手段がない。この点で日本にも円切り上げのメリットがあったが中国は完全雇用からほど遠く、人民元切り上げのメリットがない
….からだ。
いままでお茶を濁す程度にしか米国に反論してこなかった中国が貿易戦争になった以上、元を公然と引き下げ、米国の関税引き上げを相殺しようという行動にでるのは当然の動きだ。新聞には「元の秩序無き暴落」を危惧する声もあるとあるが、中国はもともと資本規制(海外への資金流出制限)をしてきた国だ。
日経新聞に「(中国の」富裕層などが資産を海外にどう逃がすかを常に考えているためだ」と書いてある通り、中国人は海外に資産を送ろうとするモチベーションが強い。現在、実需であることを証明しないと元を海外に持ち出せない。そこで富裕層は(例えば)中国で盛んな仮想通貨のマイニングをするマイナー業者から仮想通貨を購入し、海外に送り、そこで海外資産を購入するなど苦労をしながら海外送金している。
このような国で、当局が(仮想通貨を除いて)資本規制強化策(海外送金禁止)を打ち出すのは簡単だ。完璧な規制に変えれば済む話なので中国当局は元暴落を怖がっているとは思わない。
元モルガン銀行東京支店長。ジョージ・ソロス氏アドバイザーを歴任。一橋大学卒、ケロッグ経営大学院修了 MBA取得。学校法人東洋学園大学理事。仮想通貨税制を変える会会長。2013年〜19年、参議院議員を務めた。オフィシャルウェブサイト、Twitter「@fujimaki_takesi」
編集部より:この記事は、経済評論家、参議院議員の藤巻健史氏(比例、日本維新の会)のFacebook 2019年8月18日の記事をアゴラ用に加筆・編集したものを掲載しました。藤巻氏に心より御礼申し上げます。