わかっているけど進まない再結集
15日に行われた立憲民主党と国民民主党の会派の合流に関する協議は、両党の主張に隔たりが大きく結論が出ませんでした。(毎日新聞記事)
この話は、参院選後にそれまでの姿勢を変化させて立憲民主党が野党共闘を重視する路線に転換し、国民民主党などに衆院会派合流を呼びかけたのが発端でした。その後国民民主側が、衆参両会派での合流などを求めて政策協議を要請していました。(時事通信記事)
政党の合流や統一会派の結成というのは難しい話です。政策の違いなどが大きいと言われますが、過去の経緯などに由来する感情的な問題や、選挙で戦った相手を一夜にして「仲間」とすることに対する心理的な抵抗感も各議員や支援者の中では大きいでしょう。
二大政党に有利な設計である小選挙区制度においては野党がバラバラで戦うというのは戦術上は無理があります。このため衆院の小選挙区における幅広い野党間協力を実現するということは旧民主党系にとっては悲願です。
つまり選挙で勝利するためには選挙協力や合流が必要で、一方で過去に分裂した際のわだかまりも超えがたいというジレンマで交渉が進まないのが現状でしょう。まとまらないといけないのは頭でわかっているけど、気持ちがついていかないようです。
M&A的視点で考える
まとまるのが簡単ではないのは企業間のM&A(合併や買収)でも同じです。経営の方向性を一致させたり、システムの統合など二つの企業が一体化するには高いハードルがいくつもあります。それでも業界によってはM&Aにより巨大企業が誕生してくるのは合併によるメリットが無視できないほど大きいからです。
合併によるメリットとして最近話題に上がるのは「研究開発費の確保」です。例えば製薬会社は近年世界規模でM&Aが進み、巨大企業が次々と誕生しています。そしてそれらの合併の主な動機は「研究開発費の確保」です。業界にもよりますが、商品開発に莫大な研究開発努力が必要な場合、合併・提携などによりとにかく「規模」を確保しないと生存がままならないのです。
選挙対策や政治資金面そして過去の感情のもつれ、などが強調される政党間の合流話ですが、この「研究開発能力」という視点から考えられることは少ないです。政党にとっての選挙における「商品」は「政策や公約」になります。もちろん候補者個人の人間的魅力も重要です。
しかし、いかに弁舌に長けていて魅力的な風貌であったとしても、一度政権についてしまうと、政策の優劣でマスコミからも有権者からも厳しく判断されてしまいます。一回の風を吹かせるためにはイメージ戦略も重要ですが、政権を担うつもりであれば、政策立案能力、実現可能かつ魅力的な公約づくりなどが重要です。
与党にとっての公約や政策立案は既存の政策をベースに作れますし、実質的に行政のサポートも得られます。また多数派である「与党」なわけですから人数も当然多く、政策立案に人的資源を投入することが容易です。
一方野党は政権交代を訴えるためには現行の政策を否定して、よりよい政策を提案しなければいけません。政策立案を外注するにも費用的な制約があります。歴史のある党だと、それまでの政策論議の蓄積からある程度政策の骨子が必然的に固まるのでまだ良いのですが、現在の野党のように最近立党された党が中心だと「政策の貯蓄」もありません。
さらに、まとまらずにバラバラだと政策立案に充てる人数が限られてしまい、結果的に現実的な政策や公約が作れない状況になります。
このように現在の立憲民主党と国民民主党は政策立案能力において「ないないづくし」な厳しい状況です。議員は政策立案において各々の得意分野があり、いかに「優秀」な議員でも一人で全ての政策を網羅して立案することは不可能です。
ひらったく言ってしまえば、まっとうな政策を作りたいのであれば、必要最低限の「規模の確保」のために合流してとにかく政策立案に人数を投下すべきです。政策の良し悪しは結局は「投下人数×費やした時間」という掛け算に比例すると思います。個々人の能力や知識の違いなども当然あるのでしょうけど、基本的には「努力は裏切らない」世界でしょう。(一部には「政策のプロ」を自称する議員もいますが、個別案件でなく全分野での公約づくりとなる上記の「投入量」が物を言う)。
一部の少数政党のように、政党としての存在意義を「絞った政策」の実現に注力して「政権担当能力」を諦めるという選択肢もあります。同様に政権担当を視野に入れないのであれば「行政の監視」という機能に特化することも考えられます。要は企業戦略でいうところの「集中と選択」ですね。政策的に特化した政党になるか、全方位の政策をカバーして将来の政権担当能力を担保するか、政党の方向性を決めなくてはいけないでしょう。
将来の非自民での政権交代を視野に入れるのであれば、自らの政策立案・公約作成能力の向上は避けて通れません。一方政権交代には世論への訴えも必要で、ときにはイメージ戦略も重要になるでしょう。マスコミ受けの良い議員による広報活動や幹事長・選対チームによる選挙協力体制の確保などにも一定の人数をさけなければいけないでしょう。
政党にはこのように一定数の政策以外の仕事をする議員が絶対に必要です。ですので、なおさら「政策」を担当する議員を増やしたければ「規模」を追求する以外に手はないのです。
よく「政策」で一致しないと合流はできない、という議論もありますが、そもそも政策を深化させるためにはある程度の時間と人数をかけて議論するべきです。厳しい言い方をするならば、立憲民主党も国民民主党も立党から2年弱しか経ってなく、経済政策など様々な分野で立案能力が足りていないのが実情です。
ニッチな政策や政権批判に特化する手もありますが、政権担当能力を標榜したいのであれば「総合的かつ広範な立案能力」を有権者にアピールする必要があります。一部の「得意分野」の政策に固執して独自路線を維持したい気持ちもわかりますが、「広範囲な政策立案能力向上のための規模の追求」という観点も必要ではないでしょうか。
1975年東京生まれ。英国ケンブリッジ大学経済学部卒業後、外資系証券会社に入社し、東京・香港・パリでの勤務を経験。2016年、自民党東京都連の政経塾で学び、2017年の千代田区長選出馬(次点)から政治活動を本格化。財務相、官房長官を歴任した故・与謝野馨氏は伯父にあたる。2019年4月、氷河期世代支援の政策形成をめざすロビー団体「パラダイムシフト」を発足した。与謝野信 Official Website:Twitter「@Makoto_Yosano」:Facebook