石破 茂 です。
このたびの豪雨で被災された皆様に、お見舞いを申し上げます。
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ドイツは今日に至るまで公式にはニュルンベルグ裁判を受け入れておらず、独自に自国の刑法により戦争関係者約9千人を刑事訴追しています。
「戦勝国による裁判」を明記したポツダム宣言を受け入れた以上、東京裁判が、法の常識である罪刑法定主義法に反した事後法で裁くというものであったとしても、結果に異議を唱えられるものではないのでしょう。しかし独立回復後、回復した日本国の主権に基づいて戦争を総括する選択肢はあったと考えますし、これは憲法改正についても同じ構図と思われます。
戦争の総括をアメリカを中心とする連合国の手に委ね、自国で行わなかったことの代償は大きいことを自覚しなくてはなりません。
多くのご意見を頂戴しておりますが、これは中国や韓国がどうのといった問題では全くありませんし、他国に言われてやることでもありません。独立主権国家・日本国としての、日本国民としての、果たすべき責任と矜持の問題だと、私はずっと思っております。
第二次大戦でイタリアと共に枢軸国として三国同盟を組み、同じ敗戦国となったドイツと日本とは何故戦後の歩みがかくも異なるのか、ここ10年以上にわたってずっと考えています。
すでに何度か本欄にも記しましたが、防衛庁長官退任後、文民統制の在り方について研究するため2回ドイツを訪問し、関係する国会議員らと面談した際、右派のキリスト教民主同盟から左派の緑の党まで全ての議員が「ドイツが徴兵制を堅持するのは、二度とナチスによる支配を繰り返さないために必要だからである。軍人は軍人である前に市民でなければならない。市民と軍人が乖離したことがナチスを生んだのだ」と述べて徴兵制を支持し、「戦争に行くのは軍人であり、自分は関係ない、という市民の感覚が戦争への道を開くのだ」と語ったことに強い衝撃を受けました。
現在でもドイツにおいては、徴兵制は「停止」されているのであって「廃止」されているのではありません。私は徴兵制を支持するものではありませんが、このような考え方があるのだ、と彼我の意識の差を痛感したことでした。
またドイツは、「これがドイツの国益である」として個別的自衛権を行使することは原則として行わず、あくまでNATOの集団安全保障に参加するという安全保障政策を採っています。「アメリカだけが唯一の同盟国である」としながら「集団的自衛権を全面的に容認すればアメリカの戦争に付き合うことになり認められないし、集団安全保障に参加して武力行使を行うこともない(ゆえに原則として個別的自衛権で対応する)」という我が国の立場とはほぼ真逆と言ってよいでしょう。
結局この差は「国家の独立とは何か」という問題に帰着するように思われます。
「自衛隊は必要最小限度の実力しか保持せず、権限も行使しないので憲法の禁ずる『戦力』には当たらず、従って軍隊ではない」などという曖昧な論理を用いて現実を直視せず、「今更そもそも論を言っても仕方ない」という姿勢を続けることは、いつの日にか恐ろしい災厄を我が民族にもたらすことを強く危惧しています。
国家の独立を守る組織が「軍隊」なのであり、その力は相対的に強くなければならないこと。そして国内最強の集団であればこそ、司法・立法・行政の三権による厳格な統制に服し、最も厳しい規律を保持するとともに、それに相応しい高い栄誉が与えられなくてはならない、という論理的に透徹した思考を欠き、嫌なことから目を背けて情緒的に物事を律する姿勢からはいつか脱却しなくてはなりません。
なお、ドイツについては石田勇治・東大教授の一連の論考から多くの示唆を受けました。自分が知らないことがいかに多いかを思い知らされるとともに、新聞や雑誌、ネットの記事を鵜呑みにしたり、孫引きで済ませてしまったりしたことがあったのを恥じています。
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25日からオイスカ議連会長としてインドを訪問して参りました。
ニューデリーでの駐印日本大使や防衛駐在官との意見交換や、世界最古の都であり、ヒンドゥー教の最大の聖地であり、仏教の聖地でもあるガンジス河畔のバラナシ市における現地視察や、市民や学生たちとのミーティングはとても有意義かつ印象的なものでした。
13億の国民を擁し、今後の発展が期待されるインドを理解するためにはヒンドゥー教についての理解が不可欠ですが、それが全く足りないことも大いに反省させられました。故・小室直樹博士や、その系譜を引く橋爪大三郎・東工大名誉教授の膨大な著作を少しでも読み、理解に努めることも国会閉会中の大きな課題だと思っております。
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週末は31日土曜日が鳥取県ファンの集いin関西に出席した後、鳥取県中部1市4町の「元気な中部を創る議員の会」で講演。
9月1日日曜日は神奈川県小田原市での政策集団「水月会」の研修会に参加します。
来週からは9月に入ります。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。
編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2019年8月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。