科学者エマヌエル・スウェーデンボルグ(1688年~1772年)には霊界との通信を記述した「霊界日誌」がある。当時一流の科学者が書いた「あの世」の実相がここにきて改めて大きな関心を呼び起こしている。一方、当方の大好きなシャーロック・ホームズの生みの親、作家アーサー・コナン・ドイル〈1859~1930年)は早く亡くなった息子の声をもう一度聞きたくて米国心霊現象研究協会入りして霊界について大きな関心を寄せた話は有名だ。
ところで、21世紀の今日、フェイスブック(Facebook)が「あの世」へのリンク先という。独週刊誌シュピーゲル最新号(8月24日号)には「あの世へのリンク」(Link ins Jenseits)というタイトルの記事が掲載されている。そこで「亡くなった人はFacebook、LinkedIn、Instagramなどに多くのデジタルな足跡を残している。そのヴィジュアルな遺産は誰に属するか」と問いかけている。
これまでの葬儀では遺体とその人が愛した遺物、思い出を綴った写真などを棺に入れたり、家族が保管して慰霊するのが普通だった。デジタルな今日、多くの人はFacebookやWhats Appに生の声を残し、Instagramに夏季休暇を過ごした時の写真などを載せている。だから、愛する人の声、写真などをもう一度聞きたい、見たいと思えば、故人のFacebookなどを開ければ無数のデジタル化された思い出が再現できる。
シュピーゲル誌は、娘さんを亡くしたが、病床で録音した彼女の心臓の音を毎晩、聞きながら娘さんに話しかけているというエピソードを紹介している。墓石にQRコードを彫り、墓を訪ねる度に家族はそのコードを通じて死んだ家族の生々しい姿、声、思い出を再現しながら時を過ごすことができる。
コナン・ドイルが21世紀のデジタル時代に生きていたならば、米国心霊現象研究協会に入会しなくても、亡くなった息子がデジタルな世界に残していったメール、写真、声などを再現しながら、息子さんといつでも再会できる、というわけだ。
オックスフォード大学インターネット研究所に勤務する社会学者カール・エーマン氏は、「今世紀末までにファイスブックは世界中で亡くなった49億人の会員のプロフィールを保管するだろう。Facebookが一種の墓地となって、そこに行けば、故人と再会できる」という。
デジタル遺産は遺族関係者にとって非常に貴重なデータだ。その一方、「亡くなった会員のデジタル遺産を保存するFacebookのデータ・メモリーは時間の経過と共に拡大し、機能がブロックされることが予想される。そのうえ、企業側には何の広告収入も入らない」という事態が考えられる。
近い将来、「遺族関係者にとって貴重なデジタル遺産」と「魂のないアルゴリズムの企業側」の利益関係が大きな問題となってくることが予想される。そこでエーマン氏は、「社会は死後のデジタル生命を安全に保全する倫理的な枠組みを構築しなければならない」と提言している。
Facebookに保管された無数のデジタル遺産を通じて故人と交流するという意味でFacebookは「あの世」へのリンク先だが、Facebookが提示する「あの世」はあくまでも物質的霊界だ。現代人は神への信仰を失ったが、永遠に生きたいという羨望は失っていないから、神が約束した「天国」の代わりに、視覚的な霊界をつくりあげ、そこで愛する人と過ごした思い出を再現し、永遠に生きようとしているのかもしれない。
現代人は忘れられることを極端に恐れる。人は思い出を通じて永遠に生きる。それを助けるのがFacebookが提供する「モダンな仮想霊界」というわけだ。興味深いトレンドは、「死」がタブーから解放され、人生の終わりを祝おうとする傾向がここにきて見られだしたことだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月31日の記事に一部加筆。