トランプ政権の移民規則強化案、米国の潜在成長率への影響は?

安田 佐和子

トランプ政権は不法移民に対して厳しい姿勢を貫いてきましたが、合法移民への態度も硬化しつつあります。

(カバー写真:veranyc/Flickr)

国土安全保障省が8月12日837pに及ぶ文書によれば、“公共の負担(public charge)”の定義が厳格化されます。つまり、生活保護制度を利用した移民は永住権(グリーンカード)の取得資格を失う見通しなのですよ。

新たな規制が施行されるのは10月15日の予定で、“公共の負担”の定義を「過去36カ月間、12ヵ月以上にわたって1回以上の福利厚生を受給した者」とします。今回新たに定義された“公共の負担”の対象は、低所得者向け公的医療保険の“メディケイド”(21歳以下、妊婦、緊急治療患者などを除く)のほか、食料費支援の“食料費補助対策フードスタンプ)”、そして住宅補助の利用者など。その他、所得水準、英語技能レベル、学歴が審査で考慮される見通しです。

一方で、学校での給食制度利用者のほかホームレス向け支援施設利用者、食料配給所利用者、米国の低所得者子供向け公的医療保険(CHIP)受給者、難民制度利用者は対象外となります。また、10月15日の施行以前の該当者を含みません。それでも、移民保護団体の試算によれば少なくとも90万人が対象となりかねないといいます。

今回の規制が施行される以前から、トランプ政権は“公共の負担”を理由に移民ビザを却下してきました。政治情報サイトのポリティコが入手した米国務省のデータによれば、メキシコを始め中国、インドを始め幅広く移民ビザの付与を見送ってきたといいます。

オバマ政権の2016年度には申請却下件数は1,033件でしたが、2019年は7月29日までに1万2,179件へ急増。国別では、メキシコ人への却下件数が著しく2019年に5,342件に及びます。中国やインドでもトランプ政権に入って増加傾向がみられるが、2018年ほどではありません。

(作成:My Big Apple NY)

シンクタンクのセンター・オン・バジェット・アンド・ポリシー・プライオリティーによれば、生活保護制度利用者への永住権付与が見送られることで、労働市場が圧迫されかねません。労働人口とされる18~64歳の割合は、外国生まれの成人で78%ですが、米国生まれは59%に過ぎないのですよ。

さらに2018年の労働参加率をみると、外国生まれの成人で65.7%に対し米国生まれは62.3%でした。就業率も外国生まれの成人が63.4%と、米国生まれの59.0%を上回ります。

それでも、低賃金を余儀なくされているためか、2017年にフードスタンプなど生活保護制度を利用した外国生まれの成人、あるいはこうした人々を配偶者にもつ者の割合は77%でした。

こうした人々の移民ビザが却下されれば、足元で人手不足が深刻化する業種の状況が一段と悪化してもおかしくありません、高卒以下の外国生まれの労働者比率が高い第一次産業(36%)、清掃・メンテナンス(36%)、繊維・服飾(29%)、食品調理(27%)などが該当することでしょう。

移民ビザの却下に加え永住権付与見送りが進めば、労働生産性の低下につながり、成長も押し下げうる。それでも、トランプ政権は公共の負担となりうる移民の流入を抑制し、国力を高めることで勝算があると読んでいるようです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年9月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。