結論から申し上げたい。
今月末にも日米両首脳間で署名しようとしている日米貿易協定は、いまのままの内容ならWTO協定違反だ。大問題である。
その理由を説明する前に、この1年間の動きを少し振り返ってみたい。
昨年9月に安倍総理とトランプ大統領との首脳会談で日米貿易交渉について合意した。
そして、日本側は、それをTAG(Trade Agreement on Goods)という聞いたこともない名称で呼びはじめた。FTA(Free Trade Agreement)のような包括的な貿易交渉ではなく、特定の物品(Goods)だけに関する交渉であることを強調するために日本側が作った造語で、アメリカ側ではTAGなどという言葉は一度も使っていない。
では、なぜこんな造語を作ってまで、手の込んだ誤魔化しに手を染めたのか。
理由は簡単である。
安倍政権は、12か国の間でTPP交渉を進める際に、二国間での日米FTAはやらないと何度も国会で言ってきたので、約束違反になるFTA交渉を始めたと批判されることを避けたかったからだ。
しかし、トランプ大統領がTPPから抜けてしまったので、結局、やらないと言っていた二国間交渉をやらざるを得なくなり、苦肉の策でTAGという造語を生み出したわけである。
しかし、そもそもTAGは無理筋だった。
なぜなら、TAGが意味するような「特定の国に対して特定の物品だけ有利な取り扱いをする貿易協定」は、実は、WTO協定に違反するからだ。
詳しく解説しよう。
WTO協定は、「特定の国に与えた有利な貿易条件は全ての加盟国に平等に与えるべき」とする“最恵国待遇”を原則としており、どうしても、特定の国に対してのみ関税引き下げをする場合には、GATT24条にあるとおり「実質的にすべての貿易」について関税撤廃することが条件として求められる。
【参考1】最恵国待遇
特定の国に与えた有利な貿易条件は、全ての加盟国に平等に与えるべきとする原則
【参考2】GATT24条(関税同盟及び自由貿易地域)「関税を・・・実質上のすべての貿易について、廃止すること。」
したがって、TAGなどと言っても、そんな都合のいい「つまみ食い」は、WTO協定上認められないので、結局、TAGは、FTAにならざるを得ないのではないかと、私は指摘をしてきたわけだ。
ところが、驚いた。あり得ないことが起こった。安倍政権は、今まさに、WTO協定違反の合意を結ぼうとしているのだ。
ここで、GATT24条が求める「実質的にすべての貿易」が具体的にどれくらいかについては、過去の国会答弁などを踏まえれば、先進国では約9割以上というのが相場だ。
例えば、TPPでは、日本側は95%、他国側は99〜100%の関税撤廃率だ。日EU間のEPAでも日本側は94%、EU側は99%だ。
では、今回の合意内容はどうか。
日本の対米輸出の3割を占めている完成車の関税撤廃をアメリカ側から拒否された結果、関税撤廃率は、どんなに積み上げても7割程度にしかならず、9割には全く届かない内容となっている。
つまり、今回の日米貿易協定では、「実質的にすべての貿易」について関税撤廃となっておらず、WTO協定違反となる。
WTO協定を米国と一緒になって無視するようなことになれば、自由貿易秩序の軽視に加担することになるし、これからの日本の通商戦略にも根本的、致命的な悪影響を与える。
日本こそがWTO重視、ルール重視を主張すべきなのに、アメリカと一緒になってWTO協定違反を犯せば、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの交渉で、日本は関係国に対して高い関税撤廃率を求めることができなくなる。
アジアの交渉相手国などから「日本はアメリカに対して自動車の関税撤廃は求めなかった。それなら、私たちにも無理を言わないでください」と言われるだろう。
今回の日米貿易交渉に関するメディアの報道は、
「農産物でTPPの水準を守れた」とか、
「自動車に対する追加関税や数量規制を回避できた」など
政権側の主張をそのまま垂れ流している。
しかし、これらは目くらましだ。
最も本質的な問題は、今回の日米合意がWTO協定に違反しているという点である。
今月末にも安倍総理とトランプ大統領の間で署名するようだが、トランプ大統領との関係を重視するあまり、我が国の将来に禍根を残すような合意に署名すべきではない。
今からでも遅くはない。関税撤廃率9割を実現するよう、完成車に対する関税の撤廃をアメリカ側に強く働きかけるべきだ。それができないなら、WTO協定違反の合意は出来ませんと席を立てばいい。
1日も早く国会を開き、国益に反する協定に署名する前に、国会でしっかり議論させてもらいたい。
編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2019年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。