安全保障の「タスクフォース」を組成すべきとき
我が国は、日本版「国土安全保障省」を設立し、安全保障に関係する省庁の統合と必要部署の新設をすべき時である。
その理由は3つある。理由①安全保障環境の激変、理由②安全保障関連技術の画期的進化、理由③我が国の体制が変化対応できていないことである。
ちなみに国土安全保障省とは
米国は、9.11同時多発テロを防げなかった理由の一つを「CIAや軍などの連邦政府機関の連携不足」と考えた。その反省から2003年1月24日に「Department of Homeland Security(国土安全保障省)」を発足させ、ばらばらだった多数の所管事項を統合した。
その背景には、「国土は安全である」と信じてきたアメリカ国民が同時多発テロから受けた衝撃と大量破壊兵器流出リスクの増大があった。同省は、連邦緊急事態管理庁、沿岸警備隊、税関、移民局など国土安全保障に関係する22の政府機関を統合し、国境と交通の安全、緊急事態対応、化学・生物・放射性・核兵器攻撃への対処、情報分析・インフラ防護の四つの部局で構成される。1947年に国防総省を発足させた時以来の大規模な政府組織の改編だった。(コトバンク 日本大百科全書 小学館を参照し筆者が要約した。太字も筆者)
理由① 安全保障環境の激変
米国は、「国土は安全である」と信じてきたが9.11同時多発テロという「そうではない事実」に直面した。現在日本も「日本列島は安全である」と信じているが、「安全ではない事実」に直面しながら目を逸らしている。
米国は、「大量破壊兵器流出リスクの増大」も懸念して同省の設置に動いたが、日本も「核兵器・生物化学兵器・サイバー攻撃」という大量破壊・殺傷兵器の脅威が実際に増大している。
北朝鮮は、(略)核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる。
更にここ最近、韓国による北朝鮮への急接近やそれを通じた中華圏への帰属先変更の意図が鮮明になってきた。可能性の評価は慎重にすべきだが、中国に督戦された韓国が「関ケ原における小早川秀秋」になる可能性は十分にあり、もはやそれも想定に入れた国土防衛体制を検討すべきときである。
理由② 安全保障関連技術の画期的進化
また、従来の深刻な脅威に加え、下記のような関連技術の進化は著しい。
宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域の利用の急速な拡大は、陸・海・空という従来の物理的な領域における対応を重視してきたこれまでの国家の安全保障の在り方を根本から変えようとしている。
(前掲安全保障会議決定より抜粋)
例えば電磁パルス攻撃のような、非殺傷兵器ながらも社会システムの破壊力が甚大な兵器のリスクが現実にある。中国・ロシア・北朝鮮が既に保有しているとみられ、高度な社会であればあるほどその被害は甚大になると考えられる。
これらの脅威については、実は防衛省も国家安全保障会議も現実をソフトにしか説明しておらず、マスメディアを通した今のような告知では国民には伝わらない。
参考:「電磁パルス攻撃」の脅威とは? 高高度の核爆発で日本全土が機能不全に 防護対策進まず…(産経ニュース)
理由③ 現状の我が国の体制では変化対応できていない
従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力(略)特に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域については、我が国としての優位性を獲得することが死活的に重要となっており、陸・海・空という従来の区分に依拠した発想から完全に脱却し、全ての領域を横断的に連携させた新たな防衛力の構築に向け、従来とは抜本的に異なる速度で変革を図っていく必要がある。
(略)北朝鮮は、非対称的な軍事能力として、サイバー領域について、大規模な部隊を保持するとともに、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられる。これらに加え、大規模な特殊部隊を保持している。
(前掲安全保障会議決定より抜粋、太字は筆者)
上記のように国家安全保障会議決定で明確に「現在の延長線上では対応できない」「北朝鮮には大規模なサイバー部隊と大規模な特殊部隊がある」と分析されているが、これに対応する国内の動きは非常に遅い。マスメディアの報道姿勢、国内教育の不備を背景として、国民自身にその必要性を感じる「受容器官」が欠落しているからである。
米国でさえ9.11という悲劇的なテロの被害を受けるまで状況認識が甘かった。それから類推すると、日本も実際に大規模破壊攻撃が起きないと変わらないのだろう。「1発ならば誤射かも知れない」という評価もあるそうなので、最悪の場合、第一撃だけでは変わらないのかもしれない。
「国土安全保障省」新設のメリット
防衛省・自衛隊が職務分掌を拡大するのではなく統合部門を設立する大きなメリットは、次の2つが考えられる。1)日本の強いセクショナリズムを抑制し、統合戦体制をとることができる。2)予算が別枠で設定できる。
なにも情報収集と分析部門の経費まで防衛予算の縛りを受けることはない。同じ意味でサイバー部隊も自衛隊の中ではなく別組織とすることなども検討すべきであろう。
デメリット
最大のデメリットはコストである。必要経費がどこまで膨らむかも解らない上、高度な機密性を楯にした個人的または組織的な利得行為の排除は困難だろう。
さらに、防衛省・自衛隊や海上保安庁など現実に過酷な役務を担う部署との役割分担と連携には、どれほど手を尽くしても摩擦や齟齬は残るだろう。その他、筆者の貧弱な知識と想像力では全く想定できないデメリットも豊富にあるだろう。
現在は「準戦時」状態
日本を取り巻く安全保障環境が激変したので、日本は「平時」から「準戦時」への意識のシフトをすべき時である。
今は事実として「日本は戦争をしていない」と言われれば、当然その通りである。しかし経済制裁とは、砲弾を交えないだけで実質的には「交戦状態」である。例えば、1941年12月の真珠湾とマレー作戦による開戦より前に、「資産凍結」「屑鉄等重要物資の禁輸」「石油禁輸」で締め上げられた日本は、実質的には既に対米英蘭戦争をしていた。(ただし、義勇軍や物資支援という形で中国エリアにおける日米間の戦闘はあった。)
現在、米国主導で日本も同調して北朝鮮に実施している経済制裁も「平和的」経済制裁などではなく、実際には「砲弾をやり取りしない戦争」である。そして北朝鮮から見れば、日本は「米国陣営の弱点」であり、日本への攻撃には十分なインセンティブがある。現在の親北政権である文大統領の一連の動き(レーダー照射~疑惑の人物の法務部長官任命)には北朝鮮の意図が反映されていると仮定すれば、納得感がある。そもそも大きな背景として、一連の米中貿易交渉もその文脈で言えば既に「交戦中」である。
まとめ
ソ連は資金面で破綻したが、中国にはその兆候はまだない。資金が続く限りはあの体制も継続されると見るべきである。パクス・ロマーナ、パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナは歴史的事実だが、「パクスシニカ(Pax Sinica)」時代が将来出現するのだろうか。その時、日本は国民と国土の安全をどのように守るのだろうか。
田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。