習近平は現代のスターリン主義者か

「スターリン主義」とは何か

中国・習近平政権の内政・外交政策を見ると、旧ソ連のスターリン主義と多くの共通点があり、習近平氏の思想と行動は現代のスターリン主義を連想させる。

Wikipediaより

スターリン主義は、1924年から1953年までソ連の最高指導者を務めたヨシフ・スターリンの思想と行動の総体である。すなわち、

(1) 最高指導者に対する絶対的な「個人崇拝」
(2) 「一国社会主義」のもと、マルクス・レーニン主義とロシア民族主義を融合させた軍事力による「対外拡張政策」
(3) 「人民の敵」を名目とした大粛清・銃殺・強制収容所などの「恐怖政治」
(4) 厳しい検閲による徹底した「言論統制」と「人権弾圧」
(5) 「スパイ活動」による科学技術情報や軍事情報等の窃取
(6) 民主集中制による最高指導者への「絶対的権力集中」
などを特徴とする。

「個人崇拝」を確立した習近平政権

習近平氏は、2018年3月の「全国人民代表大会」(全人代)で国家主席の任期が撤廃されたため、30年間絶対的権力を掌握したスターリンと同様に、終身主席への道を開いた。「中華民族の偉大な復興」の現実化をスローガンとする習近平氏の政治思想「新時代中国の特色ある社会主義思想」が職場や学校で学習され、「習主席語録」も出回り、毛沢東以来の「個人崇拝」が広がっている(2018年7月16日産経新聞)。これはスターリンの個人崇拝と異ならない。

「個人崇拝」の危険な点は、最高指導者が誤った判断をした場合でも、その是正が著しく困難であり、国家・国民に甚大な被害や犠牲が生じることである。スターリンの「人民の敵」「階級闘争激化論」による大粛清、銃殺、強制収容所、毛沢東の「大躍進政策」「文化大革命」による甚大な被害や犠牲、などがその事例である。

「対外拡張政策」を押し進める習近平政権

習近平政権による軍事力を背景とした「対外拡張政策」としては、国際法を無視した南シナ海での人工島軍事基地建設、東シナ海尖閣諸島への常態化した領海侵入、台湾武力併合への野望、西太平洋への軍事的覇権拡大などがあり、経済力を背景とした「対外拡張政策」としては、発展途上国を支配する「一帯一路」構想、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などがある。

これらは、スターリンによる北方領土軍事占領、ポーランド軍事占領、軍事力を背景とした東欧諸国の衛星国化などと同様に、習近平政権は、軍事力を背景とした「対外拡張政策」のスターリン主義を実践するものと言える。

「人権弾圧」と「言論統制」を躊躇しない習近平政権

習近平政権による、特に少数民族のチベット族やウイグル族に対する徹底した「同化政策」とそれに伴う残虐な人権弾圧は国際的にも問題視されている。

これらの少数民族に対しては、街中に膨大な数の防犯カメラを張り巡らせ、人々の行動を24時間監視。政治犯は容赦なく強制収容所に送り、同化政策を強行しており、「人権弾圧」のスターリン主義を忠実に実践していると言える。

また、国内の習近平政権に対する批判は「国家転覆罪」等に問われ、共産党による検閲等の言論統制は徹底している。中国の民主化運動に取り組む人権派弁護士が逮捕拘束される事件は後を絶たない。最近の香港における大規模デモは、民主化運動を弾圧する習近平政権に対する危機感が根底にあると言えよう。

「スパイ活動」による先端技術の窃取

スターリン時代を含め、ソ連がスパイ活動によって、日本など西側諸国から科学技術情報や軍事情報を窃取していた事実は、「平成3年版警察白書」に記載されている。「米中貿易戦争」においても、米国の先端技術が中国人従業員や中国人留学生のスパイ活動によって窃取されていた事実は、「知的財産権侵害」として、米国側が厳しく追及している。

このようにスパイ活動による先端技術の窃取についても、習近平政権はスターリン主義と重なるのである。

習近平は現代のスターリン主義者か

このように見てくると、習近平政権はスターリン主義を忠実に実践しており、現代のスターリン主義者と言えよう。

しかし、チベット族やウィグル族など少数民族に対する残虐な人権弾圧、香港への強権的干渉、国内の民主化運動弾圧、台湾武力併合への野望などは、かつての「スターリン批判」と同様に、将来に禍根を残すことになるであろう。とりわけ、21世紀世界の覇権をかけた「米中貿易戦争」は、習近平政権にとって存続をも左右する最大の試練となるであろう。

日本としては、国民の人権を抑圧し、少数民族を弾圧し、軍事力を拡大し、対外拡張政策を押し進める共産党一党独裁の習近平政権に対しては、米国、カナダ、豪州、インド、英国、フランスなどの、「自由と民主主義」及び「法の支配」の理念を共有するインド・太平洋諸国と緊密に連携して、習近平政権による軍事的覇権を阻止しなければならない。

それを許せば、アジア・太平洋地域における「自由と民主主義」の死をもたらす恐れがあるからである。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。