IAEAで福島第一原発の処理水に苦情。韓国よ、大人になれ!

長谷川 良

ウィーンで16日から5日間の日程で国際原子力機関(IAEA)第63回年次総会(加盟国171カ国)が開催中だが、初日から日韓両国代表の間で衝突がみられた。原子力発電所から放出される処理水に含まれるトリチウムの処理についてだ。

▲IAEA第63回年次総会の全景(2019年9月16日、ウィーンで)

▲IAEA第63回年次総会の全景(2019年9月16日、ウィーンで)

先手を打ったのは今回は日本だ。誤解を避けるために年次総会のプロトコルを説明する。年次総会での基調演説の順序は代表者の国の地位の高低で決まる。大統領は首相より、閣僚は次官より早い順序で演説できる。日本代表は竹本直一・科学技術担当相、韓国は文美玉・科学技術情報通信省第一次官だった。大臣は第一次官よりランクが上だから、竹本科学技術担当相が先に演説できたわけだ。

▲年次総会で日本の福島第一原発の汚染水処理問題を批判した韓国の文美玉・科学技術情報通信第一次官(2019年9月17日、IAEAで)

▲年次総会で日本の福島第一原発の汚染水処理問題を批判した韓国の文美玉・科学技術情報通信第一次官(2019年9月17日、IAEAで)

竹本科学技術担当相は、「事実や科学的根拠に基づかない批判の声がある」と韓国側を暗に批判。文美玉第一次官は、「世界の海洋に影響を与える事態が懸念される」と反論した。

トリチウムを含む処理水の処理問題は原子力発電所を保有する全ての加盟国が直面しているテーマだ。IAEAによれば、世界に450の原発が操業中であり、52の原発が現在建設中だ。世界電力量の約10%を原子力エネルギーが供給している。

問題は、韓国側が福島第一原発から排出される処理水の処理問題をわざわざIAEA年次総会の舞台に持ち出し、日本側の処理について苦情を呈した点だ。

その姿を見ていると、残念ながら韓国は相手の痛み、苦境に対しては理解できない、非情な国だという印象を受けざるを得ない。自身の痛み、困難に対しては大声で叫ぶが、相手の痛み、苦境に対しては理解しようとしない。なぜならば、韓国は常に「被害者、犠牲国だ」という誤った歴史観が根付いているからだ。

福島に住む住民は歴代最大級の地震に直面し、それから誘発した津波で東電の福島原発が大きな被害を受け、一部、放射能の放出もあった。多くの福島の住民は家族を失い、家を失い、ほぼ全てを失った。大惨事から8年が経過したが、家には戻れない住民が多いという。一方、被害を受けた福島第一原発の関係者は昼夜を追わず、その復旧に没頭してきた。

処理水をタンクに保管しているが、もはや場所的にも一杯だ。処理水を水で薄めて海洋に処理する方法が最善といわれる。実際、韓国の月城原発では処理水を久しく日本海に流してきた。その量は福島第一原発が保管する処理水のトリチウムの8倍という報告が専門家から聞かれる。

韓国側が隣国日本の原発の処理水を懸念するのならば、これまで培ってきた体験を報告し、アドバイスすれば済む問題だ。それを韓国側は“ここぞ”とばかり、福島第一原発から放出される処理水、トリチウムへの懸念を国際社会に向かってアピールする手段に出てしまったのだ。

原発保有国である限り、処理水、トリチウムの処理問題は出てくる。韓国は大量のトリチウムを海洋に流してきたが、幸い、それが起因で漁業とか住民に被害が出たという報告は韓国側からは聞かない。すなわち、水に薄めて海洋に流したとしても問題がないことを韓国側は体験を通して知っているわけだ。

それではなぜ、福島第一原発だけは例外で、「世界の海洋が危険だ」という論理になるのだろうか。危険なのは、日本憎しでとにかく日本を批判したいという思いが優先し、冷静に事を検証できない韓国側のメンタリティーだろう。

韓国側には福島の住民への思いやりが感じられない。韓国が騒ぎ立てて起こる風評で福島産の海産物が更にダメージを受けることは必至だ。韓国側はそんなことはどうでもいいのだ。「わが国は世界の海洋の安全問題を指摘しているだけだ」と正論を発しているように振舞うが、そこは偽善だ。

韓国が福島第一原発の処理水の行方を本当に心配するならば、福島第一原発関係者に月城原発で体験した処理方法を助言すればいいだけだ。この問題は歴史問題ではない。これこそ世界の海洋の安全保持のための共同の知恵として利用すべきだ。

韓国の外交には悪い習慣がある。2カ国間の問題をすぐに国連や国際機関の舞台でアピールすることだ。慰安婦問題をすぐにジュネーブの国連人権理事会に持ち込み、そこで相手側を批判する。多くの国は詳細な経緯を知らないから、アピールする側が一方的にプロパガンダを展開してもその是非を判断できない。

韓国側は「日本が聞く耳がないからだ」と主張するが、日本との冷静な対話、協議では論理性、一貫性のない韓国側は守勢を余儀なくされるからだ。

韓国は世界の経済国だ。豊かな文化を誇る国だ。反日は韓国民族の成長を妨げている。韓国よ、大人になれ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月18日の記事に一部加筆。