自治体は自衛隊にたよらず自前の野外炊飯設備など持つべき

清谷 信一

未だ千葉県では電力の復旧がかなっていないようです。
災害のたびに給食や風呂は自衛隊に頼っています。

ところが自衛隊の兵站は極めて貧弱です。現場では避難民に温かい飯を食べさせ、風呂にいれさせて、自衛官は冷たい飯を食って風呂にも入れない。これを美談に持ち上げて、自衛隊すげーといっている人たちがいますが、それは単に自衛隊の給食能力が低いからです。

陸自の野外炊具(防衛省サイトより:編集部)

中隊規模の200名ぐらい用の野戦キッチンしかもっておらず、演習では人手が足りないから飯時になると戦闘部隊から応援を派遣するという体たらくです。

他国ではトルコなどの途上国でもより大きいコンテナ式のキッチンや食堂を持っています。単に規模が大きいだけではなく、天候に左右されず、炊事できて、食べることもできます。自衛隊にはありませんが、野戦ベーカリーもあります。外国人も増え、パン食に親しんだ世代も増えています。

風呂ではなくシャワーも必要でしょう。しっかり温まれないにしてもシャワーの方が効率がいい。清潔を保つという目的からすれば十分です。他国の軍隊で野戦風呂を持っている例をぼくは知りません。

千葉の入浴支援で展開した野戦風呂(防衛省サイトより:編集部)

更に申せば、コンテナ式ランドリーも必要です。風呂やシャワーで使うタオルをはしから乾かさないと行けないし、被災者の下着なども洗う必要があります。

このような装備はもっと自衛隊が充実させるべきですが、せいぜい中隊レベルの演習を仕事としているために充実しません。予算は他国の8倍もする低性能の小火器などで無駄使いしていますし、兵站の隊員も足りない。戦闘部隊を縮小してでも兵站を充実させるべきです。戦闘部隊だけでは戦えません。十分な兵站が維持できないなら戦闘部隊を減らすべきです。

戦車や火砲なんで各100両もあれば十分です。どうせ本格的な上陸戦は起こらない。であれば小規模でも最先端の装備と厚い兵站をもった組織に変えるべきです。

ところが自衛隊は意識が変わらない。東日本大震災で陸自のUAVは一回も飛べない屑だと露呈したのに、その後スキャンイーグルの調達が予算化されるのは来年度の予算からです。一定数は揃うのは数年先です。

無線も震災で通じつ、その理由の一つが軍用無線にあっていない周波数帯をあてがわれているからですが、それすら見直さずにそのままコータム(野外通信システム)を導入してしまった。自衛隊を頼るのは百年河清を俟つ、です。

それはおいておいても、自治体も学習力がなさすぎです。災害時には自衛隊に丸投げという発想をいい加減にやめてはどうでしょうか。野戦キッチン、ベイカリー、シャワー、ランドリーなどを例えば県単位で持つべきです。そして災害時はそれを互いに融通する協定を結んでおく。

こんなもの高々数億円もあれば調達できるでしょう。馬鹿なオリンピックだの、不要な議員の視察旅行、いらない箱物たためば簡単に捻出できる金額です。自衛隊用の装備は高いので外国から輸入すれば安価に揃うでしょう。

維持費に関しては平時はイベントなどに貸し出せばいい。NPOなどに使い方を教えて貸し出したりすれば、有事のボランティアのオペレーターも増やすことができる。牽引式のシステムは免許の関係で使いづらいならば、システムを日本でトラックに載せればいい。

動かす人間は自衛隊の退職者を雇えばいい。任期制自衛官や曹クラス、幹部は30~40代で予備役にして自治体に転職させればよろしい。人件費は例えば、2割を防衛省が持つ。その代わり一定の訓練を義務課して、有事には彼らを装備ごと招集する。そうであれば装備調達費用は半分ぐらい防衛省が持ってもいいでしょう。

有事に安価に兵站を厚くできるし、平時の維持費は自治体餅なら防衛省は維持予算が必要ない。
そうすれば自衛隊の再雇用もかなり楽になるでしょう。自衛隊が嫌いだという自治体は自前で揃えばいい。

また毛布、ベッド、テント、ストーブなどは欧米のミリタリーサープラスの卸業者から買えばかなり安くなります。なんなら自治体が直接買いつければよろしい。アフリカなどの軍隊ではこういう業者から調達しています。

これは民間防衛としてぜひとも必要だと思います。東海や首都圏でも大きな地震が起こる可能性が高いわけで、住民は自分たちで守るという意識をもっと持ったほうがよろしいかと思います。

■本日の市ヶ谷の噂■
水陸機動団の隊員が海自の艦艇に乗り込むことが増えているが、陸自の隊員のために航海手当がでない。陸幕は何が問題と涼しい顔だが、現場の隊員の間から不公平だと不満がでて士気が低下しているとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。