昨日から物議を醸している小泉進次郎環境相の「セクシー」発言を巡っては、気候変動枠組条約のフィゲレス元事務局長のコメントに呼応しただけという切り取り批判や、海外メディアの記者から「二酸化炭素や火力発電を減らしますか?」と突っ込まれて、お茶を濁したという「真意」の解説が取りざたもされている。
しかし、どちらにせよ、小泉氏が、マスコミでも話題になり始めたツイッター大喜利「#小泉進次郎に言ってもらいたい中身のない台詞」を、国際舞台で自作自演したことに変わりはない。肝心の記者への答えはキャッチーでも空虚なものだったからだ。
小泉氏の処理水対応、菅氏は…
折しも、この週末、筆者は、小泉氏の入閣を主導した菅官房長官の講話を久々に生で聴く機会があった。
菅氏は言論テレビ主催の公開収録イベントの目玉ゲスト、筆者は過去に同社番組のゲストで出たご縁で観覧席に招待されたのだが、菅氏は、櫻井よしこ氏、花田紀凱氏らとの対談で初入閣の小泉氏について水を向けられた。
福島第一原発の処理水の対応についても尋ねられたが、菅長官は持ち前のスキのない答弁術でかわし、「こんなにしっかりしている政治家は見たことがない」と小泉氏を持ち上げた。野党時代に、郵政民営化を見直した郵政民営化改正案に一緒に造反して反対したことや、党農林部会長として60年ぶりに農協法改正を実現したことを挙げ、今回の入閣を機に「本人も成長していく」と期待を込めるだけだった。
菅氏の発言の全容は27日21時からオンエアされるそうなので、関心のある人は確認していただければと思う(意外に踏み込む場面も…)。
そして、興味深かったのは、休日とはいえ菅氏が2時間も割いて登壇するほど重視している保守論壇界隈でも、小泉氏の人気は恐ろしいほどになかったことだ。菅氏も厳しい空気を感じたことだろう。菅氏と小泉氏との関係性にどう影響するのか注目したくなった。
維新の「小泉潰し説」!?
とかく風評が科学に勝ってしまいがちなご時世にあって、維新側が火中の栗を拾いにきたのは政局的な思惑が全くないかというと微妙にも思うが、もし、その勇気が「本気」かつ「純粋」だったとしても、処理水問題で政権与党が(ましてや左派野党も)先送りに逃げようとするところに待ったをかけたことで、小泉氏の株を下げる政治的効果は実質生じてしまっている。
振り返れば、参院選直後の真夏の政界の話題は、N国党のお騒がせと、れいわ新選組の障害者議員受け入れ問題に終始しそうだったが、小泉氏の結婚発表以後、政治報道の風景は一変。そのおめでたさもあって政界の大衆的注目を自民党が引き戻し、N国が炎上マーケでネットを中心に健闘、れいわの存在感はすっかり霞んでしまった。
そして9月に入り、入閣なる?ならない?で再び話題が小泉氏と自民党に集まった末に環境相に就任。野党は、小泉人気に乗じた年内解散のシナリオを最も恐れており、ここにきて立民、国民の統一会派結成の急接近となっている。大阪を中心に独自の戦いを進める維新にとっても、小泉人気でボルテージが上がった状態での年内解散は、避けたいシナリオのはずだ。
ネット発、止まらないブランドの剥落
しかし、維新による小泉潰しという“謀略説”の真偽に関わりなく、小泉ブランドの剥落が止まらなくなっている。その発信源はネットだ。
処理水への対応のまずさについては、ツイッターを中心にしたSNSが発起点となり、アゴラなどのネット媒体がそれを理論付け。そして、夕刊フジが展開し、産経本紙の社説に横展開。ここまでは蓮舫氏の国籍問題の時と同じパターンだ。
ところが、小泉批判で風景が変わったと思うのはそこからだ。小泉氏に「甘い」と見られていた民放の報道番組でも「新環境相の試練」といった、ネットよりも控えめな切り口ながら小泉氏には少しずつ逆風が吹き始めている。
さらに驚いたのは共同通信だ。ここ最近、ツイッターで大喜利「#小泉進次郎に言ってもらいたい中身のない台詞」が話題になっているが、そうしたネット世論の動きを記事化。これを地方紙やスポーツ紙でも配信したことでさらに大喜利が盛り上がる展開となった。
小泉氏クラスの注目度の高い政治家とはいえ、ツイッター大喜利がマスコミでここまで話題になるとは筆者も予想を超える展開だ。
いずれにせよ、ネット世論で先行したテレビ人気のある政治家へのブーイングがリアル世論に転化するまで、3年前の蓮舫問題の時より加速している。小泉氏は急速に変わり始めた世評を再びポジティブに戻すことができるのだろうか….しかし、そう思った矢先で、今回のセクシー発言、もはやブランドの自壊がとどまるところを知らなくなりつつある。
彼のPRブレーンは、元博報堂のコンサルタントなどの存在がこれまでネットや週刊誌で指摘されているが、ブランディングでお化粧したところでメディア対策や選挙は乗り切れても、大臣の責務まではごまかしきれまい。とどのつまり、政治姿勢、中身がやはり問われる。
だからと言って中身の方もブレーンありきでは早晩限界が生じる。「未来の総理にお近づきになりたい」という各省庁の若手、中堅官僚らのアプローチが盛んだったという話も伝わっているが、最後は政治家として本人の決断力、覚悟があるのかどうか、国民が見ているのはそこなのだ。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」