9月24日の日経イブニングスクープでは「物言う株主、日本に攻勢 統治・還元に改善圧力」と題する特集記事が掲載されました。「人財とネットワーク」が企業のもっとも重要な投資対象と言われ、グラスルイス社がガバナンス・データ分析会社と業務提携する中で、日本企業のガバナンスはもはや「無形資産」として評価されるようになったといえます(9月16日、17日のNeo Economyに関する日経新聞記事参照)。
いま話題のウィーワーク社のように、米国企業では種類株式によって経営者は保身を図りますが、日本の上場会社ではほとんど認められておりません。日本企業は世界のアクティビストと丸腰で相対しなければならないわけですから、物言う株主が日本に攻勢をかけるのは当然のことでしょう(議決権行使結果の個別開示や政策保有株式の縮減等、攻勢をかけるべき土壌もほぼ整いつつあります)。
そのような中、9月24日のWSJ(ウォールストリートジャーナル)のニュース「ゴーン氏巡る日産の内部調査、社内弁護士が利益相反を懸念」は新事実満載で、驚くべき内容です(WSJ又は毎日新聞の有料会員のみ閲覧できます)。
もちろん海外の機関投資家の方々も、すでに上記記事の内容を把握していると思いますが、この記事内容がある程度の信ぴょう性があるとするならば、日産のガバナンスはかなりヤバい状況です。社内調査に関連する利益相反問題を指摘する内部通報が人事部に滞留しており、通報の名宛人である取締役には届かない状況、とのこと(ホンマかいな💦!?)。
昨日のエントリーで書いた内容と同じであり、経営トップに恥をかかせないために、部下が「汚れ仕事」を引受けて自身の評価を上げる…ということでしょうか(あくまでも私の推測ですが…)。まさかとは思いますが、このWSJの記事がウソとも思えません。。。
そもそも、日産と長年の付き合いのある法律事務所が(身内の不正に関わる)社内調査を担当する、ということからみて「中立公正な調査」は期待できません。社内調査の時点で、社内の法律顧問から問題提起を受けたにもかかわらず、どうして強行したのでしょうか。
また、当該法律顧問の方によれば、(別の)日米ふたつの法律事務所から「利益相反リスクに関する文書」が日産の取締役宛てに送付されているにもかかわらず、これが名宛人の取締役に届いておらず、さらに当法律顧問が名宛人の取締役に「他の取締役と文書を共有せよ」と要請したにもかかわらず、なんら返答がなかった、とあります(ホ、ホンマかいな😵!?)
もちろん、日本人的な感覚では「そんなに騒ぐほどのことではないでしょう。我々だって利益相反のリスクがあることくらいは社内調査の時点でわかっていましたよ。でも、我々も、そして担当法律事務所も、そういったリスクは承知のうえで、慎重に調査をしたのですから、利益相反関係から生じうる弊害が全くないことを確信しています」ということだと思います。
したがって、このWSJの記事に追随する日本のマスコミも出てこないかもしれません。ただ、機関投資家も海外の感覚をもった人たちでしょう。欧米の企業にとって利益相反の解消は、日本企業とは比較にならないほど厳しく要求されるはず。そして、日産のガバナンスに対する評価に大きく影響するはずです。
毎度拙稿をお読みいただいている方々はご承知のとおり、私はゴーン氏の逮捕劇勃発のときから「まず明らかにすべきは日産のガバナンス問題ではないか」と言い続けてきました。日産としては米国SECとの証券詐欺禁止法違反に関する和解が成立して「やれやれ」というところだったと思いますが、このWSJへの内部告発記事のインパクトは大きい。
日産は、10月末までに次のCEOを選任しなければならないわけですが、もはや社内からの昇格者ではもたないのではないでしょうか。もし日産のガバナンスという「無形資産」に大きな価値があるとするならば、まずはこのWSJの記事(法律顧問の内部告発)について真摯に説明すべきと考えますが、いかがでしょうか。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。