関西電力裏金受領事件:やっぱり「お天道様は見ている」

山口 利昭

先週金曜日あたりから大きく報じられております「関西電力の経営トップら20名への裏金受領事件」ですが、29日の朝日新聞系のネットニュースによりますと「本件は告発文書が今年3月頃から出回っており、その告発文書をAERAが独占入手した」とのこと。(※動画はANNニュースより、編集部)

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私は、本件ニュースの初報以降、今回の一連の事件がどこでどうやって報道されるに至ったのか、とても関心がありました。上記記事によりますと、社内から「告発文書」の存在(及び文書自体)が記者に情報提供されているわけですから、告発者(社内とはかぎりませんが)が拡散させたのか、それともこういった「告発文書」の存在を知った社員の方がマスコミに情報提供した、というところが真実ではないでしょうか。

そのあたりの経緯も時間の経過とともに明らかになると思いますが、私はこれまでの報道から、いくつか関電のガバナンスについての意見を述べたいと思います。

まずは29日の読売朝刊1面で報じられているように「経営トップらが原子力発電関連の業務において不適切な金品を受領していたこと、そして国税庁の指摘を契機に社内調査委員会を設置したこと、調査の結果を受けて社内処分を行ったこと」が取締役会に報告されていなかった、という事実です(一部の取締役の方の証言もあるようです)。

経営者も関与する問題について、外部の弁護士3名を含む6人の調査委員会を設置するにあたり、いくら巨大な組織とはいえ、取締役会で報告もしくは承認がなされないということは通常あり得ません。経営トップの不正行為を調査する社内調査委員会を設置するにあたり、取締役会で審議・検討しない、というのはあまりにも不自然です。

次に、経営トップの金員受領は、(違法かどうかは別として)それが明るみに出るとなると関電の信用を大きく毀損する問題ですから、当事者を含め、本件を知った取締役は会社法357条により「会社に著しい損害を発生させるおそれのある事項」として監査役会への報告義務が生じます(会社法コンメンタール8商事法務 92頁)。

監査役会に報告が上がっていたのかどうかは不明ですが、監査役会としては(報告があれば)当然問題にするはずなので、おそらく報告をされていなかったと推測します。たしか関電の社外監査役さんには刑事事件のプロでいらっしゃる方(元高検検事長)がおられたと思いますが、社内調査委員会の設置を検討するよりもまず刑事法のプロでいらっしゃる社外監査役さんに相談するのが筋ではないかと。

さらに、社長さんの記者会見では「違法性はないので公表する必要はないと判断した」と述べておられますが、どのような法律を対象として「違法性」を検討されたのでしょうか。普通に考えますと、会社役員の職務に関連しての金品受領について、会社法967条の「取締役等の贈収賄罪」を対象とした違法性判断ではないかと思われます(新聞等でコメントされている有識者の方々も、会社法967条違反事件を前提として、要件が公務員収賄罪よりも厳格なため、立件はむずかしいと述べておられます)。

ところで、私は刑事事件の専門ではないので確信はありませんが、電力会社の役職員の方の収賄には「経済関係罰則の整備に関する法律」が適用されるのではないでしょうか(たとえば古い判例ではありますが、電力会社の従業員に贈賄した人に対して同法が適用された事例があるようです)。

そうなりますと、不正調査の範囲は取締役だけでなく、原子力部門に関わる従業員も対象となり、また「不正な請託」は要件ではないので違法性判断も変わってくるように思います(最新の六法全書にも掲載されている法令なので生きている法律だとは思いますが…すいません、間違っておりましたら訂正いたします)。

ちなみに関電トップの人たちに金品を供与したとされる元高浜町助役だった方は、資金をねん出した建設会社の顧問だったそうで、当建設会社はこの5年で売上を6倍も伸ばしているそうです。

なお、他社であれば、違法性の有無で公表の要否を判断してもよいかもしれませんが、関西電力は「たとえ違法性がなくても、その疑いがあれば公表すべき」と考えます。なぜなら原子力部門を持つ特殊な事業者だからです。少しでも「情報開示に後ろ向きである」といった企業の姿勢を国民に見せてはいけない。むしろ「そんなことまで開示するの?」といった姿勢が必要です。

以前、JR西日本で福知山線事故付近におけるATS故障が発生し、これを同社が開示しなかったことで批判を浴びました。2010年10月の当ブログエントリー(JR西日本・脱線現場でのATS作動に関する公表の要否)でも書きましたが、他社ではこの程度の故障まで開示する必要はなくても、重大事故を発生させたがゆえに開示しなければならない…というのが世間の感覚だったと記憶しています。

今回の一連の公表姿勢は、今後の同社の原子力発電所の事業戦略に大きな影を落とす可能性も出てきます。したがって、このたびの金品受領の件については、徹底した調査とその調査結果の開示が求められますし、これを自主的に行うことが重要だと思います(なお、最新のニュースによりますと、関電は社内調査報告書の多くの部分を自主的に開示する予定とのこと。ぜひそうしていただきたい)。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。