リクルートキャリア社が、例の内定辞退率予測問題に関して、お詫びとご説明のページを立ち上げた。
あくまでリクルートキャリア社視点での、現在、公にできる範囲でのお詫びと経緯説明が行われている。なるほど、低姿勢で、丁寧な説明をしようと試みている。しかし、不十分だと言わざるを得ない。言葉の端々に、同社が就活する学生を食い物にして、甘い汁を吸ってきたことが赤裸々に綴られているのだ。
同サイトには冒頭に
「本来であれば学生の皆さまの視点に十分に寄り添うことを第一にすべきだったと重く受け止めております。」
とあるが、これは同社の新卒関連のサービスが学生に寄り添っていなかったことを宣言するようなものである。いわば、「学生を食い物にしていた」宣言なのだ。
その後も「内定辞退率予測」に関するサービス説明が行われているが、肝心の運用がどうだったかについての調査結果については全く触れられていない。運用についても肝心な部分が触れられていない。
たとえば
なお、『リクナビDMPフォロー』をご利用いただく契約企業には、当社から提供したスコアを、選考における合否判断の根拠には使用しないようお約束いただき、また、本サービスを提供する事前と事後に、当社担当者が実際の活用方法を確認しておりました。
活用方法の確認はどのように行うのか?企業にデータが渡っているのだから、リクルートキャリア社の目を盗んで合否判定に使うなどの運用は可能ではないか。このスコアの活用状況の監視が完全に行うことができる理由を同社は説明できるのか。詭弁に詭弁を重ねており、疑問の声を圧殺すべく狂奔しているようにしか見えない。
今後、同社は「新卒事業検討プロジェクト」を立ち上げるという。社長直轄であることを強くアピールしている。
しかし、これこそが欺瞞性に満ちたものである。そもそも、リクルートキャリア社の小林大三社長は経営企画畑が長く、落下傘的にリクルートキャリア社にやってきた。テクノロジーを担う機能会社の社長だったこともあり、より仕組み化したビジネス、ITを駆使したビジネスにすることが彼のミッションであることは想像に難くない。彼、直轄の組織ということは、ますます学生の視点が不在となったものにならないか。
このあたりについては記事にまとめたので、ご覧頂きたい。
「リクナビ内定辞退予測」問題でリクルートOBの僕が伝えたいこと
第三者の視点を取り入れる体制も不十分であると言わざるを得ない。リリース分をまとめると、要するに今までとは違う体制で検討しますということ以上のことを言っていない。
つまり、何も反省していないというのは言い過ぎだが、あまり反省していないというのが正しい。根本的に学生不在であり、これからも不在だと宣言しているようなものではないか。
謝罪の記者会見でも触れたように、同社の新卒事業は存亡の危機に立たされている。いや、リクルートグループ全体で、国内メディア事業が手離れのよい仕組み化した事業を目指している中、手間暇がかかり、競争も激しい新卒事業は売却もあり得ると私は見ている。
小林大三社長と同社のより深い反省と具体的な対策を期待する。元社員の私が第三者かどうかは判断を任せるが、例えば、私のような厳しい視点を持った者の意見をなぜ聞こうとしないのか。
ここからは私の意識の高い決意表明である。私は5年以内に、就職情報会社への規制強化、許認可制への移行を実現したいと考えている。そのために、政治家や官僚などにも提案を行ってきた。
マイナビ、リクナビという就活プラットフォーマーの存在意義とは何か。有象無象にある人材ベンチャーは果たして求人情報や個人情報を適切に扱っているのか。求職者が安心して仕事を探すことができ、クライアント企業も納得感のある採用活動ができるという当たり前のことを実現するために、これらのビジネスの健全化を図りたい。
これは私のライフワークだ。チャラチャラした仕事をしすぎたけれど、学校から職業への移行研究、その中でも、就活プラットフォーマー研究こそ私がしなければならないことであり、私でしかできないことだと直覚した次第だ。
これまでも、私は古巣のリクルート社の検証本を書いたり、参議院の委員会で「就職情報会社を許認可制に」と提言してきた。この提言について、委員長であり、同世代の政治家である川田龍平先生に国会での代表質問でも取り上げて頂いたりもした。
今後、様々なかたちでこの議論を誘発し、5年以内に「就職情報会社の許認可制への移行」を実現したいというのが私のビジョンだ。リクナビ事件は、この議論の発火点に十分なっている。
この原点は、1年だけいた『とらばーゆ』編集部時代にさかのぼる。この時代は、ビジネス人生でも最悪の時代であり、また、正直、嫌な想いもたくさんした。女性の活躍を応援する『とらばーゆ』などというものは幻想で、非正規雇用者を増やすプロパガンダ媒体の色もあった、今思うと。
ある日、深夜残業をしていたときに、編集部に電話がかかってきた。男性からだった。完全に取り乱し、泣き叫んでいた。交際相手が『とらばーゆ』で探した求人で転職し、職場でひどい目にあった、と。
もちろん、このようなトラブルはよく調べなくてはわからない。求人広告「だけ」が原因だとは断定できない。しかし、掲載された求人により、人を傷つけてしまった、働く人生を楽しくないものにしてしまった、という原体験だ。
この手の話をすると、リクルートに対して忘恩的だと言われるかもしれないが、実際、恩はないが、いまや上場し、グローバルな企業になった同社に健全な経営が求められるのは当然だ。古巣をより健全にするための私なりの取組みでもある。自由な競争を阻害するという話にもなるが、人材ビジネス企業自体、規制を受けたら困るくらいの自由な仕事をしているのか?
私は恐ろしくビジネスができない。人の上にたったこともない。一論者、一教育者として、目の前の人やコトと向き合うことしかできない。
というわけで、私なりの社会貢献、社会運動として取り組んでいきたい。別に応援はいらない。自然に支持される動きにしたい。日本が安心して就職、転職できるようになったのは、あの変化のおかげと言われるように、頑張るのだ。
まあ、リクルートHD、リクルート、リクルートキャリアの経営幹部は、より根本的な対策をした上で、責任をとるべきだろう。同社の経営幹部たちの一部からは在籍中もやめたあとも、何度も馬鹿にされたし、未だに同社の関係者からはいなかったこと扱いされている私だけど、個人的な怒りはおいておいて、今回の件は断じて許さない。十分な対策をとるように。
リクナビで面白くない想いをした諸君、闘いを全国からまきおこし、打倒へと攻めのぼれ。団結した闘いをもって、火消しに狂奔するリクルート関係者を震撼せしめよ。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。