フィデューシャリー・デューティーのもとで、販売会社の責任はどうあるべきか。
理念的には、資産運用会社は、信託の受託者を指名して、投資信託を設定する。投資家は、資産運用の委託者として、資金を信託し、信託の受益者になる。投資信託の受託者は、投資家の資金が専らに投資家の利益のために運用されることを監視する責務を負う。この責務がフィデューシャリー・デューティーである。
受託者は制度の番人としての責任を負うものであって、資産運用、事務管理、販売等を行うものではない。そのような専門分野については、受託者は、専門家に業務を委任する。採用された専門家は、受託者と連帯して、フィデューシャリー・デューティーを負う。連帯するからこそ、相互監視が働き、フィデューシャリー・デューティーに履行強制力が生まれるのである。
こうして、販売会社も連帯してフィデューシャリー・デューティーを負うわけである。
ところで、販売会社は投資信託に必須のものではない。原理的には、投資家を募る行為は運用会社自身が行うべきものである。しかし、現実的には、運用会社は運用に専念し、投資家を募る業務を販売会社に任せるのが普通だし、それによって分業による効率化が図れるのも事実である。
原理的には、販売会社は運用会社の委任を受けて投資家を募っている立場にあるから、運用会社は、自己のフィデューシャリー・デューティーのもと、販売会社の行為を統制する責任を負い、逆に、販売会社は、その統制に服する義務を負う。
さて、理念形としての投資信託に対して、日本の現実の投資信託は、歴史的な経緯として、証券会社の事業として始まったので、現在に至るも、販売会社主導の色彩が著しく強い。また、投資信託の受託者の責任が不明確で、関係当事者間の責任の連帯性もない。特に問題なのは、主導している販売会社の責任である。
故に、金融庁は、販売会社に対して、フィデューシャリー・デューティーの徹底を求めたわけだが、さて、制度の抜本的な改革を抜きにして、どこまで実効性があるか疑問である。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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