とくにこの本をだした最大の動機は、1965年に合意に達した日韓基本条約やそれに伴う請求権協定を、交渉の原点から検証していけば、国際法や国際慣習に照らし、非常識に日本に不利なものであって、韓国が卓袱台返しするならのぞむところであり、正々堂々と反撃し、とられたものは取り返すことを要求すべきだと言うことだ。
たしかに、最後の段階では、保守政権同士の合意に対し、韓国の革新派は猛反対した。日本の方は革新派が少し反対したが、その理由は主として韓国とだけ条約をむずぶことへの反対だった。
日本が譲歩しすぎて不利な条件を呑んだことへの反対は、自民党内のなかでの議論で説得されたので表に出なかっただけである。
にもかかわらず、韓国だけでなく、日本の国内の事典などでも、そのことにまったく触れていない。その背景には、日本における韓国問題の専門家の極めて大きな部分が在日韓国人だったりする特殊事情がある。そもそも、韓国語を本格的に学んでいる人のかなりの割合がそうだと思う。
しかも、通名など使われると誰がそうかも分からないし、テレビなどは、それでも足らずに韓国から日本の大学などに来て日本語ができるコメンテーターを出している。こんなことは他の国ではありえないのである。
つねづねいっていることだが、日韓問題については、日本の立場に立った専門家による外交評論も歴史もほとんど存在していないに等しいのである。中国についてだってそんなことないのである。
日本は終戦の時、まさか在韓日本人が引き揚げなくてはならないとか、財産を補償もなしに没収されるなど思いもしていなかった。まったく国際常識としてあえりえないことだったからだ。
さらに日韓交渉では、在韓資産への補償を要求したし、在日韓国人の退去も当然と考えていた。また、たとえ、在留を認めるとしても、一般外国人と同じ条件だという理解だったのである。
それを、差引勘定では日本が補償されるべきなのに、経済協力という名目ながら莫大な援助をし、特別永住者としての地位を与えたのである。
文在寅大統領が卓袱台返しするなら、誠に好都合。原点に戻った主張をすべきだ。また、そのことは、北朝鮮に対して、韓国と同じレベルの経済協力をするという馬鹿げた小泉首相の日朝平壌宣言の履行にあたってもよい影響を及ぼす。
ぜひ、文在寅大統領には、もらったものに利子つけてかえしてもらいたいものだ。
といっても、実際に財産や協力金が帰ってくるとも、在日の人々に帰って欲しいとも思っていないが、原則論をはっきりしたうえで堂々たる議論を展開したいのである。
そういう趣旨で、本書では日韓交渉を原点からきっちり検証した。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授