金田正一さん訃報:発表元がロッテではなく巨人で驚き

新田 哲史

プロ野球の国鉄(現ヤクルト)、巨人で活躍し、投手として歴代最多の通算400勝を挙げた金田正一(まさいち)さん(86歳)が6日、急性胆管炎による敗血症により亡くなった。ご高齢だったとはいえ、近年も公の場で元気な姿を見せていたことから、日本プロ野球の「レジェンド中のレジェンド」の突然の訃報にはさすがに仰天した。

Wikipediaより

ひとくちに400勝といっても、現役生活の20年で毎年平均で20勝も挙げたことになる。今年(2019年)の最多勝投手はセ・リーグの巨人・山口、パ・リーグの日本ハム・有原が共に15勝だったから優に上回る。先発投手が週1登板となった現在の野球と異なり、かつては「今日も明日も金田」状態で毎試合のように投げた時代だったとはいえ、その頑健さも含めて不世出の偉業とはまさにこのことだ。

しかも400勝のうち200勝は25歳(9年目)の時点で到達。この年はシーズン自己最多の31勝(!)だった。「伝説の大投手」という称号がこれほど板につく英雄はいないだろう。なお、敗戦298も歴代最多。所属チームが万年最下位の国鉄で、1点差負けの数も枚挙にいとまがないそうだから、ある意味、これも“もうひとつの勲章”と言えるかもしれない。

その人柄は豪放磊落。金田さんの時代はスピードガンがなかったが、私が子どもの頃に見たテレビのインタビューで「160キロは出ていた」と豪語する姿から、「金田さんなら本当に投げていたのでは」と胸を躍らされたものだ。

ちなみに、国鉄時代の女房役、根来広光さん(2009年、73歳で死去)はあまりの球威を長年受け続けたことで、体はボロボロだった。後年、金田さんがロッテで監督を務めた際には根来さんをコーチに招聘したが、現役時代に阿吽の呼吸で信頼していただけではなく、そのあたりの「恩義」にこたえた人事でもあったのだろう。

ロッテ番の記者だった時代、二度ほど球場でお見かけした。金田さんは元監督でもあり、その当時は球団取締役に名を連ねていた。現役時代の身長は184センチだったそうだが、その頃、間近に取材した196センチのダルビッシュ投手(当時日本ハム)にも匹敵する存在感は、今でも脳裏に焼き付いている。その日は巨人との交流戦で始球式に臨み、1番打者の坂本に対して、体躯を活かした豪快なフォームを披露。現役だったら坂本にどんな球を投げたのか、つい想像を膨らませて短い記事に「時空を超えた対戦」と書いたのを覚えている。

筆者が訃報の第一報を知ったのは、NHKニュースのスマホアプリの速報通知だったが、あとで巨人の広報が発表したと聞いて少々驚いた。ロッテ球団のHPも深夜になって訃報を掲載したようだが、各メディアが訃報ニュースの典拠にしたのは巨人の発表だったことに違和感はややある(例:時事通信)。もちろん、金田さんの選手としての最終在籍球団は、巨人だったが、前述したように取締役を務めたロッテが最終所属球団という認識だったためだ。

実際、ネットでも、巨人嫌いの多いロッテファンが金田さんを偲びながらも、「なぜ巨人の発表だったのか」と複雑な思いを覗かせる人を散見した。

日刊スポーツの元ロッテ番記者の追悼コラムによると、金田さんは2017年シーズンで取締役を退任していたという。それでも、金田さんとロッテが「特別な関係」だったことは野球に詳しい人ならご存知の通りだ。

1974年に監督としてリーグ優勝に導いたという戦績もさることながら、プロ野球に入ってしばらく韓国籍だった金田さん(両親が韓国・慶尚北道出身、のちに帰化)と、ロッテオーナーの重光家(韓国名・辛家)は文字通りの同胞だ。韓国メディアの関心はやはり高く、聯合ニュースも6日深夜の時点で訃報を配信していた。

だからこそ、現在は取締役ではないとはいえ、本来ならロッテが「窓口」を務めてもおかしくないのだが、プロ野球界を離れて久しいので、そのあたりの裏事情は知る由もない。

ただ、近年のロッテを取り巻く出来事を振り返ると、重光家のお家騒動も一因にあったのだろうか。創業者の武雄氏は96歳の現在はソウルで静かに余生を送っている。お家騒動に勝利して経営権を奪取した武雄氏の次男、昭夫氏は韓国の贈収賄事件で有罪判決を受け、実質的なオーナーとして君臨した球団の経営を離れている。

一方、古巣の巨人は近年も金田氏をイベントに招いており関係が続いていたことを印象付けた。「無所属」だったプロ野球最強レジェンドの訃報は、球界保守本流の読売巨人軍が預かるようになったのだろうか。それとも、たまたま巨人の広報の即応体制が整っていただけなのだろうか。

いずれにしても、そうした球界の力学であったり、オーナー家のお家事情をも想起させるほど、金田さんの存在感が強烈だったことには間違いはない。始球式などの催事で永久欠番の背番号34のユニホームに袖を通した勇姿を見れることは、もう二度とない。心よりお悔やみ申し上げます。合掌。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」