キヤノン絶体絶命の危機?ソニー、東京五輪の最終兵器「α9 II」発売へ

長井 利尚

2019年10月4日、ソニーは、フルサイズミラーレス一眼の旗艦機として2代目となる「α9 II」を11月1日に発売することを発表した。初代「α9」が発売されたのは、2017年5月26日だったので、わずか2年5か月でモデルチェンジすることになる。

α9 II(ソニー公式YouTubeカメラチャンネルより:編集部)

一眼カメラの旗艦機のモデルチェンジとしては、異例とも言える早さ(五輪開催スケジュールの関係で、旗艦機は4年程度でモデルチェンジすることが一般的)で、初代の欠点を克服し、長所を伸ばした2代目を投入するソニーの開発力には驚いてしまう。来年に迫った東京五輪の晴れ舞台に、どうしても、第一線で活躍するスポーツカメラマンに選んでもらいたいという、ソニーの強い熱意が伝わってくる。

「α9 II」は、AF/AE追従最高20fpsのブラックアウトフリー連続撮影という、他社のカメラの追従を許さない高速連続撮影機能を備えるが、これは、電子シャッター使用時に限られる。電子シャッターと、従来型のメカシャッターを比較すると、電子シャッターには、連写速度を速くでき、無音で撮影でき、物理的に動く幕を使用しないのでブレにくいメリットがある。しかし、デメリットもある。最大のデメリットは、「動体歪み」(「ローリングシャッター歪み」とも言う)という現象が発生することだ。

あなたのスマホ(メカシャッターを装備せず、電子シャッターのみ)で、高速で走っている電車を真横から撮影してみてほしい。電車が歪んで写るはずだ。失敗が許されないカメラマンの現場では、被写体が歪んで写ってしまったら、そのカメラは使い物にならない。

初代「α9」は、「動体歪み」を極小化するための特別な技術開発がなされたので、ミドルクラスの「α7」シリーズと比べると、電子シャッターを使用して撮影しても、ほとんど「動体歪み」が出ない、驚異的なカメラに仕上がっている。それでも、「動体歪み」は、ゼロではないのだ。

(「ローリングシャッター」ではなく、「グローバルシャッター」という電子シャッターを採用したイメージセンサーを採用すれば、電子シャッター使用時にも「動体歪み」は発生しない。しかし、そのようなフルサイズミラーレス一眼は、まだ市場には存在しない。)

そのため、フルサイズミラーレス一眼は、スマホとは違い、電子シャッターだけではなく、メカシャッターも搭載している。メカシャッター使用時、「α9」の連写速度は、最高でも5fpsに制限されていた。これは、電子シャッター使用時の1/4の連写速度だ。1990年頃のフィルム式一眼レフの旗艦機の連写速度が5fps程度だったので、個人的には、このメカシャッター使用時の前時代的な遅さが「α9」最大のウィークポイントだった。

高速で動く被写体を連写するのに、ストレスのない連写速度は、個人差はもちろんあるものの、10fpsが一つの目安になると思う。そういう認識がソニー開発陣にもあったようで、新型「α9 II」は、メカシャッター使用時の連写速度を10fpsに上げてきた。これは、地味で注目されにくいが、私は、かなり重要なポイントだと思っている。

「α9 II」で撮影した写真(ソニー公式サイトより:編集部)

五輪会場での撮影は、失敗が許されないので、スポーツカメラマンは、使用する機材の扱いに習熟しておく必要がある。2020年東京五輪の開催よりも8か月以上前に「α9 II」は発売されるので、咄嗟の場面で反射的に扱えるように体で覚える練習時間は十二分にあると断言しても良いと思う。

ソニー公式サイトより:編集部

ニコンのフルサイズミラーレス一眼初の旗艦機の市場投入の時期は明言されていないが、おそらく、来年の春頃だと思われる。しかしながら、ニコンのフルサイズミラーレス一眼の旗艦機はまだ市場に存在していないので、できれば来年初め頃までには発売した方が良い。

ソニー「α9」の扱いに慣れたカメラマンが「α9 II」の操作に習熟するのに必要な時間と、ニコンのフルサイズ一眼レフ旗艦機「D5」を使っていたカメラマンがニコンのフルサイズミラーレス一眼旗艦機の操作に慣れるのに必要な時間を比べれば、前者より後者の方が、かなり長くなりそうなことは、ニコンのフルサイズミラーレス一眼「Z6」「Z7」を見ていると容易に想像できる。

五輪の被写体は、高速で動く場合が多く、イレギュラーな動きをする可能性も排除できない。以上の理由から、五輪会場で撮影をするカメラマンは、使用するカメラ機材を、自分の手足のように、自由自在に扱える状態になっていなければならない。

問題山積なのは、キヤノンだ。キヤノンのフルサイズミラーレス一眼初の旗艦機の投入時期が2021年になることを、日刊工業新聞は伝えている。重大な経営判断ミスにより、2020年東京五輪には、もう絶対に間に合わないことを白状せざるを得ないところまで追い込まれているのだ。

キヤノンのフルサイズミラーレス一眼初号機「EOS R」(公式サイトより:編集部)

2021年には、ソニーはフルサイズミラーレス一眼旗艦機の3代目を市場に投入しているかもしれない。ソニーは、五輪やF1のような、高速で動く被写体を撮影するカメラマンに絶大な支持を得てきたキヤノンが惰眠を貪っているうちに、キヤノンを周回遅れにするどころか、さらに引き離すつもりなのは間違いないだろう。

ソニー「α9 II」は、これまでのソニーのフルサイズミラーレス一眼全般に指摘された弱点を修正してきている。例えば、防塵防滴性能、グリップのホールド性、グローブ装着時でも間違いなく操作できるクリック感やボタンの配置など、地味ではあるが、真剣に写真を撮る上では極めて重要なポイントだ。

これらが弱かったのは、スポーツや報道のような「戦場」で、ミノルタの一眼レフカメラ「α」が使われたことはほとんどなかったからであり、仕方のないことであった。それでも、ソニーは、「α9 II」発売のプレスリリースに書かれているように、カメラマンの「期待に応え、その声を反映しながら、αシステムの開発を続けて」きたのだ。この真面目に顧客の方を向いた姿勢は、賞賛されて然るべきだと私は考えている。

一方、王者キヤノンは、なぜここまで転落をしてしまったのだろうか?

(次回につづく)

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo OfficeAmazon著者ページ