問題教師を市の教育委員会がクビ(懲戒免職)にできない理由

教師同士のいじめがクローズアップされています。

公立の小中学校の教師が問題を起こすと、まずは当該学校の校長や教頭が、続いて、その学校が所属する市町村の教育委員会が記者会見することをよく見ます。

はむぱん/写真AC

そのような折には「教師をクビに」などの反応を、度々見ます。

しかし、校長も市町村の教育委員会も、教員をクビ(懲戒免職)にすることはありません。
というよりも、できません。なぜか。

校長や市町村の教育委員会に、人事権などそのような権限がないからです。
市長にもありません。

人事権は、都道府県の教育委員会にあります
(※名古屋市や浜松市など、政令市の教育委員会は人事権あり)

オピニオン 越直美大津市長:時事ドットコム

(3)市教育委員会と県教育委員会
市町村立学校の県費負担教職員(以下、「教職員」)の任命権および懲戒権は、都道府県教育委員会に属する(37条1項)。従って、大津市立中学校の教職員の任命権および懲戒権は滋賀県教育委員会に属し、滋賀県教育委員会が、当該中学校の教職員の任命や懲戒を行うこととなる。

この点、本件への対応において、市民の皆さまや市外の方々から、市長に対して当該中学校の教員の処分を求める意見も多く寄せられた。しかし、実際は、かかる処分を行う権限は、市長ではなく、滋賀県教育委員会にある

「二つの顔」を持つ公立小・中学校教員

公立小・中学校の教員の身分は所属する学校の設置者である市町村の職員だが、実際の採用・異動・処分などの教員の人事権は都道府県教委(政令指定都市教委を含む)が持っている。これは、公立小・中学校教員の給与の3分の1を国、残り3分の2を都道府県が負担し、市町村は一切を負担していないという教員給与負担の仕組みによるものだ。つまり公立小・中学校の教員には、形式的には市町村職員、実質的には都道府県職員という二つの顔がある。

教員人事権を市町村教委へ移譲? – 教育ウォッチ | 学びの場.com

つまり、ぼくの地元で言えば、豊橋市の小中学校で働く先生のほとんどは、愛知県が採用し、愛知県が給与を出しています。
(正確には、非常勤の先生など、一部に市町村が採用する先生もいます。)

もし、公立小中学校の教員として愛知県で働きたい場合、基本的に愛知県か名古屋市の採用試験を受けることになります。
愛知県採用の教員は「名古屋市以外の愛知県内」で働き、名古屋市採用の教員が「名古屋市内」で働きます。

採用(任命)以外にも、懲戒などの人事権も、愛知県教育委員会や名古屋市教育委員会です。

豊橋市でも、2017年度に体罰事案がありました。
これを受けて、当時の議会でのやり取りは次の通りです。

◆中村竜彦委員
(略)では、次に、当該教員は現在どのようになっているのか伺います。

◎学校教育課主幹
医師の診断により、療養休暇をとっております。
以上でございます。

◆中村竜彦委員
医師の診断で、今、療養休暇ということですが、これは療養休暇でなければ出勤がされるものなのでしょうか。確認します。

◎学校教育課長
当該教諭が年休により休むことも考えられます。
本人が出勤すると言うのであれば、処分が出るまではそれをとめることはできません
以上でございます。

◆中村竜彦委員
仮に出勤した場合には、教壇に立たせるのでしょうか。

◎学校教育課長
子どもたちの状況、本人の状態、事実が与えた影響を考慮し、校長の判断によりさまざまな対応が考えられますが、今回の場合、校長は立たせないと考えておりますし、その旨は市教委からも学校長へ指導してまいります。
以上でございます。

◆中村竜彦委員
現在、県教委からの処分待ちですけれども、その間、謹慎をさせるということはできないのでしょうか。

◎学校教育課長
謹慎をさせることはできません
本人の判断で出勤した場合には、校長判断として子どもと会わせないように別室で事務作業などを行わせることになります
以上でございます。

◆中村竜彦委員
県教委の処分は、いつ決まるのでしょうか。

◎学校教育課長
処分の日程については、まだわかっておりません。
以上でございます。

◆中村竜彦委員
県教委が処分をするまでの間、今後も問題を起こした教職員というのはどのように過ごすべきなのか。市教委にその人事権がないのであれば、県教委がきちんと決めておくべきだと思います。これは私は不備だと思います。
言わんとすることもわかります。例えば、戒告、減給、停職、免職というような処分が下るのだろうと思いますけれども、謹慎にしてしまったら停職と同等ですから、もしかしたら軽い処分の前に重い処分を下すことにもなりかねませんから、それは一定理解はしますけれども、やはり、どのように過ごすべきなのか、事の度合いにもよりますので、ここは市に言ってもしょうがありませんけれども、県教委がきちんと整備されることではないかと感じました。

– 豊橋市  平成29年12月 福祉教育委員会  12月01日-01号

いかがでしょう。

本人が出勤すると言うのであれば、処分が出るまではそれをとめることはできません。
謹慎をさせることはできません。
本人の判断で出勤した場合には、校長判断として子どもと会わせないように別室で事務作業などを行わせることになります。

など、市教委が対応できる限界が、垣間見えます。

メディアのみなさま、先の大津市長のオピニオンにもありましたが、学校や市教委、市役所に懲戒処分について聞かれましても、その権限がなく困ってしまいます。人事権は県教委です、ご理解いただければと存じます。

では。


長坂 尚登    愛知県豊橋市議会議員(無所属)
1983年豊橋市生まれ。地元の時習館高校卒業後、東京大進学、コンサルティング会社で働き、10年間東京で過ごす。2012年Uターン、商店街マネージャーとして、豊橋の街づくりに奔走。2013年から内閣官房より地域活性化伝道師を拝命。 2015年商店街マネージャーを退職し、豊橋市議に最年少・無所属で立候補、新人トップ当選(全体8位)。