ライフライン災害と傷病者の移送

台風19号の上陸がほぼ確実となっています。


昔は、台風災害といえば、建物の倒壊や洪水や浸水や土砂崩れのことでした。

しかし、今年上陸した台風15号で問題になったのは、通信交通電力水道ガスの機能障害、いわゆるライフライン災害でした。このことは、地震災害の研究でも意識されるようになってきました。

ライフラインは、人体でいえば、血管や神経のようなものです。ケガがなくても、重要な血管が一本詰まるだけで人が死ぬように、建物が壊れなくても、ライフラインが停止すると、都市は機能停止していしまいます。

健常者にとっては、ライフライン災害は、生活が不自由になる、アメニティが下がるくらいの問題で、直ちに生命の危機にはなりませんが、傷病者はそうではありません。

人工呼吸器や人工透析を使っている人にとっては、停電は直ちに生死の問題となるし、物流停止で薬や医療材料が届かなくなると、傷病者は簡単に死んでしまいます。台風15号災害では、熱中症で亡くなった人もいました。

傷病者は環境変化に弱く、エアコンが停止するだけでも死ぬのです。食事も、特定の流動食しか取れない人がいて、自衛隊が炊き出しをすればなんとかなるというものでもありません。

傷病者は、避難所に集めてめんどうをみることはできなくて、ライフラインが生きている地域の病院や施設に移送するしかないのです。

しかし、この問題について、政府は何の対策もとっていません。災害が起きるたびに、病院施設家庭が、個別に対応してきたのです。

日本は世界一の高齢化国であり、ある意味では、傷病者比率が世界一です。政府が総合的な対策を取らねばならない。

傷病者移送の準備を事前に行わないと、ライフライン災害によって、膨大な死傷者が出る可能性があります。

井上 晃宏(医師)