テニスの大坂なおみ選手が日本国籍を選択したそうだが、嬉しいことだ。実は、この問題について今月下旬に出す『ありがとう、「反日国家」韓国 – 文在寅は〝最高の大統領〟である!』(ワニブックス)のなかでもこの問題を取り上げている。
というのは、二重国籍を認めろという人々の本当の狙いは、日韓・日朝二重国籍だと思うからだ。それが認められたら、韓国・朝鮮籍のまま国会議員になれるわけで、上手にやれば数人の国会議員が誕生すると思う。その危険が論じられていないのは、おかしい。
それはともかくとして、大坂選手の二重国籍の可能性についても書いてるので、その要旨を転載する。
大坂選手に「二重国籍を認めて上げてよいのではないか?」という世論調査をしたら、圧倒的に「イエス」が多いだろう。私も個別問題としてプラスマイナスを論じるなら日本にメリットが多いと思う。
ところが、個別論を認めてしまうと、一般論の変更まで迫るものになりかねないので、その整合性をきちんと取っていかなくてはならない。「大坂選手の二重国籍は認めるけれど、在日の外国人には二重国籍は認めない」というのも難しくなりかねない。
ひとつの考え方として、韓国が採用しているように、文化や経済に特別に功労がある人には特別に国籍を認めるというものがある。私としては。こういう「新自由主義的」な政策はあまり気が進まない方法だが、それで国籍取得者を限定できるなら、検討の余地はあると思う。
ただし、その場合は両国政府が互いに二重国籍者の情報を細かく共有すべきで、テロや脱税の温床にしてはいけない。選挙権の二重行使を防ぐとか、パスポートはいちどに所持できるのは片方だけにすればいい。
また、大坂選手はアメリカの国籍の方がいいことが多いのに日本国籍を選んでくれたことは嬉しい。
アメリカは、外国人のアメリカでの活動に厳しい制限をかけることがある。アメリカでの生活や仕事を望む人にとっては、アメリカ国籍はとても値打ちのある権益となる。だから、大坂選手本人がアメリカ国籍と日本国籍のあいだでアメリカ国籍を望んだとしたら、理解できる。
ただ、仮に日本とアメリカの二重国籍が認められるとしたら、グローバルなビジネスを展開する場合、日本国籍だけの人よりも、アメリカ国籍も持っている人のほうが圧倒的に有利になる。
会社員であろうが事業家であろうが、ここに日本だけの国籍の人と日米二重国籍の人がいれば、圧倒的に二重国籍の人は有利にビジネスを進めたり、アメリカ中学や駐在のチャンスを得ることができる。
私はリベラル、ないし穏健左派の視点として、そういうのはフェアでないという考えだ。韓国で二重国籍を限定的に認めたのが、李明博政権だったことはその象徴だ。あの政権は、かなり極端な新自由主義的経済政策をとって大企業優遇と批判されていた。
韓国では二重国籍、兵役逃れ、海外移住、タックスヘブンを使っての節税といったことにリベラルな政治勢力はネガティブなのだ。日本でも東京などの富裕層や政財官界の有力者には二重国籍容認論が強いのは、家族や友人に欧米などとの二重国籍を使っておいしい目をしたいと考えている人が多いからではないのか。
私が二重国籍に反対だというと友人や、とくに霞ヶ関のかつての仲間から、「うちの子や孫が二重国籍認めてくれると便利だというので反対するのを止めてくれませんか」と陳情される。しかし、これは正義に関わることだから譲るつもりはない。
理想は各国の制度が統一され、単一国籍の原則を確立しつつ、両親が違う国籍だとか、国際結婚とか、政治亡命や難民だとかについて適切な対処ができるように措置することだ。
二重国籍を認めても、パスポートはひとつの国のものだけを使い、それに他の国籍も記入するという方法であるべきだ。「それなら意味はない」という人は「義務は一人分、権利は二人分」望んでいるだけでそんな人の希望は聞く必要ない。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授