森ゆうこ議員の通告問題:議会質問はなんのためにするものか?

高橋 富人

今般の森ゆうこ議員の通告に関する振る舞いをみて、「これはダメだ」と思った。
と同時に、国政地方問わず、こういう戦術を使う議員がいることの、構造的問題を考えさせられた。

国民民主党サイトより:編集部

ここで、簡単に「議会での質問」と「通告」及び「レク」についておさらいしたい。

議会での質問は、議員が行政の執行状況や将来の方針、課題などを執行者に直接質す場である。また、その際適宜「こうしたほうがいいんじゃないか?」と、現状に対するカウンターの案なり意見なりを述べて、その是非を問う場と心得ている。

佐倉市議会議員である私でいえば、例えば「災害時の避難所の備え」や「若者の市政参画」など、現状の千葉県佐倉市が「手薄」だと感じる点について、「なぜ手薄と考えるか」という根拠を数字や事実で証明するために、「議員質問→市役所答弁」というやりとりを重ね、「やっぱり手薄だよね」となったところで(できる限り財源案も含め)私案を提案する。

その結果、確かにそうだということならその方向に進むし、それは無理だね、となったら進まない。そういうシンプルでロジカルな場である。

もちろん、質問のやりとりで、議員と役人との間でどうしても意見が合致しない場合は、議員としては何らかの手法で議決にもっていき白黒をつけることになるが、それは質問以降の手続きの話だ。

その「質問」のやりとりは、専門的であったり、精緻な内容が含まれる。そのため、ぶっつけ本番で「議員質問→市役所答弁」をやっていては、市役所はほとんどの質問に「今情報がないから、あとから調べてお知らせします」ということになる。それを避けるために、あらかじめどんな質問をするのか、というのを役所側に通知するのが「通告」であり、さらに役人の方々に自分の質問内容の意図を知ってもらい、議会での質疑を実りあるものにするための機会が、通告後の「レク」だ。

さて、今回森氏は、その通告を「あいまい」かつ「定刻より遅れて」提出したようだ。「あいまい」であればあるほど、「どんな質問が飛んでくるかわからない」ために、官僚側は膨大な時間を使いあらゆる関連情報を集めなければならない。

そのため、今回の森氏のケースでは、官僚たちは台風が迫る中、深夜まで情報収集する必要が生じた(森氏は、深夜にダラダラ送付したFAXは「レク」なのだ、という屁理屈を述べているらしい。いずれにしても、自分の質問の全貌を官僚に明らかにしない目くらましをしていることには変わりない愚かな行為だ)。

では、なぜ森氏はそのようなふるまいにおよんだのか?もう少し広い議論にして、なぜそのようなふるまいをする議員が存在するのか?

答えは簡単で、質問に答弁する大臣などの閣僚や、その準備をする官僚を「あたふた」させ、いびり倒すためなのだ。

つまり、自分の質問内容に自信がないために、せめて答弁をする大臣をまごつかせよう。そうすることで、テレビに映る国会で「悪を倒す正義の味方」であるかのようにふるまうことができ、一部の支持者へアピールすることとあわせ、一瞬のカタルシスを味わうためにやっている。

その行動の背景にあるのは「なんとなく国会で勝っているように見せることができれば、国民は支持してくれる」という、国民を衆愚とみなす傲慢で愚かな政治家の思惑である。

またさらに、原口一博国対委員長はTwitterで「レクは、官僚の労力を最小化するために、議員の配慮で行っている」という趣旨の、トンチンカンにして情けない意見表明をした。先述のとおり、レクは「質問内容の相互理解を深め、議会でのやりとりを実りあるものにする」ための行為であって、「官僚が膨大な労力を使うのが忍びない」から、議員の配慮でやるものではない。

また、それならば深夜までダラダラと送付された、森氏が言うところのいわゆる「レクペーパー」は、さぞや「官僚の労力を最小化」するのに役立つ、豊富な内容が書かれたものだったであろうと思うのだが、池田信夫氏の論考によれば「その内容は14項目の見出しだけだったようだ」とある。もしそれが事実ならば、原口氏はどのような言い訳をするつもりだろうか。

なお、原口氏のSNSの結びが「お勧めに従って自民党に今後、レクチャーはしないが良いかと伝えても良いです。感謝!」とあるが、これはどういう意味だろう?国会の場合、質問通告やレクは官僚や閣僚(いわゆる行政側)ではなく自民党にしているのだろうか?市議会議員の私には理解しかねる。

またさらに、彼のこの発言は「レクは、しなくていいならしたくない」と言っているに等しい。つまり原口氏は、そもそも議会質問を「実りある議論」にするつもりはなくて、突然の質問で「騒ぎを起こす」ことの道具に使っている、と表明しているに等しい。

私は、自民党を支持しているわけではない。
しかしながら、こんな認識の国会対策委員長がいる政党に、政権をとってほしいとも思えない。

高橋 富人
千葉県佐倉市議会議員。佐倉市生まれ、佐倉市育ち。國學院大學法学部卒。リクルート「じゃらん事業部」にて広告業務に携わり、後に経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で広報を担当。2018年9月末、退職。出版を主業種とする任意団体「欅通信舎」代表。著書に「地方議会議員の選び方」などがある。