「住民は住所で被災する」を前提とする台東区

山田 肇

台風19号が接近した際に台東区の避難所が路上生活者を「住所ない人は受け入れない」と断ったことが問題になっている。どうしてこのような対応をしたのか。台東区の地域防災計画を読んでみた。

台東区役所(Wikipedia)

台東区は避難所を「災害により住居が倒壊または焼失するなどの被害を受けた住民または被害を受けるおそれのある住民を受入れ、食料等の提供、医療救護、宿泊等の救援を行うために開設する学校等の建物をいう」と定義している。避難所は「避難所運営委員会」によって運営され、この委員会の中心メンバーは町会等とされている。

避難所は住民しか対象にしていないから、住民ではないし、町会に加入しているわけでもない路上生活者は受け入れられないという理屈になる。

しかし、このような規定では路上生活者だけでなく、多くの人々に問題が生じる。上野の森の動物園や美術館への来訪者。他に住所を持ち台東区で就労している人々。訪日観光客。偶然に台東区にいるときに被災した彼らも住民ではないから避難所は使えない。

地域防災計画はこれらの人々を帰宅困難者として扱い、帰宅困難者には、避難所とは別に、一時滞在施設が用意されることになっている。一時滞在施設が用意されないときには、帰宅困難者は自力で帰宅するしかない。

それは、高齢者や障害者といった避難行動要支援者と分類される人々も同じ。避難行動要支援者には多様な支援が与えられる計画になっているが、それは区内の高齢者や障害者が区内で被災した場合に限られる。

他区の高齢者が台東区内の病院に通院中に被災しても、その高齢者は単なる帰宅困難者に過ぎず、自力で帰宅して当然と扱われる。

人々は様々な地域を行き来しながら生活している。埼玉県に住んで台東区に通勤・通学している人もいるだろう。台東区の住民も、他区に通勤・通学しているだろうし、旅行をする場合もある。

しかし、台東区の地域防災計画は「住民は住所でだけ被災する」という非現実的な想定の下に書かれている。地方公共団体が相互に連携して被災者の情報を交換し、住民かどうかに関わらず支援するように書き直す必要がある。

ところで、「火災の延焼などで危険が迫った場合に、集団を形成して、避難所または避難場所へ避難するために一時的に集合する場所」を台東区は「一時集合場所」と定義している。

これは何と読むだろうか。

地域防災計画には「いっとき」と丁寧にひらがなが添えてあるが、ちゃんと読めるだろうか。一時滞在施設の読み方は計画に書かれていないが、「いっとき」か「いちじ」か。地域防災計画について知識を持った人にしか読み取れない地域防災計画はいざという時に役立つだろうか。

路上生活者の受入だけでなく、このような問題も含めて、台東区の地域防災計画は全面的に見直すべきである。

山田 肇