森ゆうこ議員による通告パワハラ問題自体は、国益の観点からすれば小さな話に過ぎない。ただの「国益を自らの保身のために毀損する偽選良」の暴走である。(もちろん、当事者の官僚とご家族にとっては生命財産にかかわる重大案件だ。)
しかし政府と国会は、これらの醜悪な振る舞いを止めることができない。更に深刻なのは、議論の時間が浪費されることで、結果として建設的な議論がなされないまま終わってしまうことである。これは国会の構造的な欠陥だ。これこそが、日本の国政を遅滞迷走させ、国民を危機にさらし続けている原因である。
今回のむなしい騒動を奇貨として、与野党ともに力を合わせて国会改革を推進すべきである。その改革には、国益第一の議員は協力できるだろうし、自己保身第一の議員は抵抗勢力となるだろう。そういう意味で、副産物として、議員を仕分け・淘汰するフィルター機能も期待できる。
森議員の人権侵害が濃厚な予算委員会質疑
まずは、10月15日の予算委員会から、問題となる質疑部分を以下の通り抽出・記述する。(引用元はユーチューブの動画、筆者文字起こし。太字も筆者。)
・文中略語等
「WG」…ワーキンググループ
「HP」…ホームページ(ウェブサイト)
「!」…特に強い文言の場合終止符の代わりに使用した。
森裕子議員(以下森議員)
(毎日新聞6.11の一面の図と記事をフリップで提示し)国家戦略特区WG座長代理原さんと密接な関係にある会社が特区提案者からお金を受けてコンサル業務をしていた。こりゃどういうことですか。問題を作る試験官が(冷笑)生徒に、問題の、解き方を教え、そして、その、採点までしていた。これはおかしいじゃないですか?
森議員
ところが、毎日新聞の報道があり、そしてWGの有志が反論して、「審査・選定しません」つったら、HP、堂々とかきかえちゃったんですねえ。大臣、なんでHP変えたんですかあ?
安倍内閣総理大臣(以下安倍総理)
大変解り易くこの表を作られたと、おっしゃっているんですが、あの(ウフッと失笑し)、森議員は、募集要項を掲載しておりますが、なぜかこれ、タイトルは削除されておられるんですね。タイトルを見ますと、「国家戦略特別区域等における規制改革事項にかかる提案募集要項」つまり個別の事業ではないんですよ(笑)。つまりこれは規制改革についてのどういう規制を改革すべきか、ということについての募集でございまして、つまり、この特区における規制改革事項にかかる提案募集要項であり、まさに規制改革事項の追加、というWGが担当する第一段階についての募集要項でありまして、用語上は「選定」となっていますが、それは「事業者の選定」ではなくて、「規制改革項目の選定」であり、「WGは事業者の選定に関わらない」としたこれまでの内閣府の説明と矛盾するものではない、ということでありますので、全部載せて頂ければ、もっと分かり易かったのではないかな、と思います(笑)。
森議員
(指名も受けず、座りながら、「質問に答えてない!」「なんで書き換えたのか聞いているんです!」と言いながら手で来るように命じる仕草。)
北村誠吾内閣府特命担当大臣(以下北村大臣)
「選定」という言葉は、提案された内容が補助金の要望であるなど、規制改革事項でないもの、また、厳密に解釈したところ、既存制度のもとでも実現可能なものなど、必ずしも規制改革の議論をする必要がないものについて整理をするということを指したものでございます。「選定」と言う言葉が誤解を招くとのご指摘もあったことから「選定」という言葉を削除したものであり、これにより、運用の実態が変るものであるとは認識しておりません。
森議員
(座りながら)「原さんは業者を選んだのか」って聞いたんですよ~。ちゃんと答えてよお~。質問に答えてよお~。原英史さんは業者の選定に関わっていないのかって聞いてんだよお~。
北村大臣
そもそも、制度的にWGは事業者の選定に関与するという仕組みにはなっておらない、ということでございます。
森議員
原さんのこと聞いてるんだよ!(怒気を抑えながら)じゃ、誰が事業者の選定をしたんですか?例えば加計学園。
安倍総理
分科会、区域会議、そして最終的には諮問会議で決めるということ
森議員
ワーキングは決めていない、でもね分科会のメンバー見ると、民間有識者、原英史!原さんが決めてるんですよお~。おかしいじゃないですか、分科会があ、決めてるから問題ないってえ!利益相反じゃないんですかあ?普通だったらこれが国家公務員だったら!あっせん利得!収賄で!刑罰受けるんですよっ!
森議員の3つの質問
質問1:HPをなぜ書き換えたのか
北村大臣回答:「選定」と言う言葉が誤解を招くとのご指摘もあったことから「選定」という言葉を削除した
質問2:誰が企業を選定しているのか
安倍総理回答:分科会、区域会議、そして最終的には諮問会議で決める
質問3:原氏が決めていて公務員なら刑罰相当の利益相反をしているのではないか
(時間的に最後の発言であり、この質問への回答はない)
↓
これらを見れば、答えるべき質問には、政府側は丁寧に適切な回答をしていることがわかる。
森議員質問の2つの問題点
問題点1:根拠とする毎日新聞の記事は虚偽記載であり、そもそも論拠が破たんしている
森議員は、6月11日の毎日新聞一面の報道を根拠としているが、この記事は、毎日新聞自身が内容を否定している記事である。そのことは、原氏自身が提起した訴訟の第一回口頭弁論(8月27日)において「6月11日記事の見出し『特区提案者から指導料』『200万円、会食も』は、いずれも原氏のことではない。」と毎日新聞自らが主張している。(訴訟の観点からみれば、毎日新聞は議員に訂正を求めなければならないだろう。)
係争案件を国会で扱う場合、訴訟の進行状況は当然確認するはずだが、そうであればとてもこの立論はできない。つまり、確認作業をおろそかにしているか、まともに資料が読めない偏向視点の持ち主か、または論理的な議論ができない人ということである。議員としての資質に疑念を抱かざるを得ない。
問題点2:原氏の人権を侵害し、実質的に名誉を毀損する言動がなされている
ここは重要論点である。憲法第51条の「国会議員の免責特権」と第11条の「国民の基本的人権の尊重」が激突している。(最近では高須クリニックの高須氏が名誉毀損で議員を訴えたが予想された通り敗訴した。)この問題を放置していても良いのであろうか。国会議員はこれこそ身を切るべきではないか。
国会運営の問題点
上記2点も大問題であるが、その更に上位に、国益の観点から一層重大な問題がある。「虚偽に基づく主張で時間を空費し、国会本来の議論が殆どなされていない」という現状である。これこそ現代日本の大問題である。
政府をオロオロさせ、大臣を論破する自分の姿をテレビに映すためにのみ意匠を凝らした質疑など、本質的に日本のために全くならない議員が後を絶たないのは、現在の運営方法に欠陥があるからである。このような「国会で議論を深めることを妨害して日本の国益を毀損している人」を駆逐できないものだろうか。
国会を改革すべき時
今や、国会運営の手法を諸々改革すべき時である。情報の保存・伝達・拡散等、情報通信技術は、国会制度を設計した昔から比べると、飛躍的に発展している。より効率的で実のある議論の仕方を研究し、議会政治の運営方法も更新すべきときではないか。
これもまた、与野党を超えたタスクフォースを結成して研究して頂きたいと願う。
この問題の扉を開いたのは国民民主党所属の議員である。従って「受領は倒るる所に土を掴む」というが、玉木代表にはこのピンチを大きなチャンスとして、与野党を巻き込んだ国会改革を推進して欲しい。そうなれば日本も政治主導で、劇的な展開が期待できるだろう。
田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。