森裕子議員の質問通告が事前に漏洩されたのではないかと、騒動になっている。しかし、結論から言うとそれは誤認である。高橋洋一氏の紛らわしい話法に、森氏らの野党議員が引っ掛かってしまっただけである。
まずは事実の確認のために10月14日配信の虎ノ門ニュースの該当部分を引用する。
高橋洋一氏(以下高橋氏)
えーっと、私も通告書、見ましたよ。そしたらね、あのー、まあー箇条書きでポンポンポンって書いてあって、すんごく広(酷?)かったんだけど、それに更に追加が来て、うん、なら、あれはっきり言うとね、あの質問通告で最終通告書で終わりで良かったってレベルだと思いました。 なあに考えてんだこの人はって感じだね。
まずは、「通告書を見た」と断言している。
高橋氏
要するにそんな最初からアバウトなわけ。だからこれはこれでいいんで、それで後で色々となんかバタバタして来たっていうからそれは悪かったんだと思いますね。最初の質問通告だけで、まあ、あの、終わりにしておけばよかったんだなと私思いましたけどね。その中にね、私の関連も入っていた(笑)。だから、ちょっと、役所の方から、役所の方から来たんですよ。関連ありますよっつって。だから私思わずあれっあれっあれっと思っていたんだけど、…
「役所の方から」と曖昧に言っている。これと前段の「通告書」とを合わせて考えると視聴者としては、「官僚が高橋氏の元にやってきて(またはメールなどで)、『通告書の写し』を見せたのだろう」と認識するのは自然である。
これで終わらない。
田北真樹子氏(月刊「正論」編集長、以下 田北氏)
因みに高橋さんは、それは省庁の方から担当の人からいつ連絡がきたんですか?”
高橋氏
えーっとねえ、これは質問通告が終わった後ですからね。”
田北氏
12日?
高橋氏
えーっと12日だったかな、金曜か、どっちだったかな、なんか、うん、土曜だったかな。”
田北氏
あ、結局土曜日だやっぱり。
高橋氏
だからもちろんね、省庁の人も来てすぐはね、こんなのと思って言わないでしょ、うん。
(以上、DHCテレビ・アーカイブ、虎ノ門ニュース10月14日より引用。筆者文字起こし、太字は筆者)
なお、誤解のないように補足すると、田北氏は本件については事の次第を知らないただの共同出演者に過ぎないと思われる。
表現上の2つの問題点
高橋氏の語った言葉には、2つの問題点があった。
問題点1:「役所の方から来ました」
「~の方から来ました」は、典型的な詐欺的商法の話法である。「水道局」「消防署」の方から来ました、と言えば、水道局の人、消防署員だと多くの人が誤認してしまう。今回高橋氏が使った表現も、「役所⇒原英史氏(民間人)⇒高橋氏(民間人)」という経路だということだが、原氏を経由したとはいえ情報の発信元が役所であるなら100%の嘘とは言えない。(実質的にはほぼ嘘であるが。)
問題点2:「役所の担当の人がいつ来たか?」を修正しない
田北氏はもともと産経新聞の記者として活躍された敏腕ジャーナリストであるが、さすがに事実確認の要諦を抑えており、すかさず日時の確認質問をしている。
田北氏は「省庁の担当の人からいつ連絡が来たか?」と確認した。ここで田北氏は「役所の担当者が高橋氏に連絡した」と誤認していることが明確に見て取れる。
これを承けて高橋氏が誤認部分を適切に訂正せず、「えーっと12日だったかな、金曜か、どっちだったかな、なんか、うん、土曜だったかな、(略)省庁の人も来てすぐはね、こんなのと思って言わないでしょ」とややとぼけながら「役所の担当者からの連絡」という文脈を生かしたまま回答している。この点も質が悪い。
ところで、日時特定に関する質問に対して、高橋氏がややうろたえている感じで慎重に回答しているのが印象的であった。この部分について高橋氏は、21日の虎ノ門ニュースの中でも言及し、「天候不良でホテルに連泊になったため、どちらかすぐにはわからなかった」旨補足していた。
野党が誤解するのは当然だが
これらを見れば、野党が「通告書(の写し)を、官僚が民間人に見せている」と認識するのもやむを得ないだろう。ただし、その質問通告書が機密文書にあたるとは筆者には思えない。足立康史議員が自身のツイッターで質問要旨を開示したが、それは複数の項目名と質問相手が記されただけの目次のような質問リストであった。(なお、足立氏自身の入手元が開示できないようなのでここには掲載しない。)
まとめ
当初「漏洩」が騒がれ出した時点では、「原英史氏が、機密情報の取り扱いを間違えるなどあり得ない」と感じたが、同時に微かな不安を覚えたのも事実だ。しかし原氏はやはり間違い(漏洩)などしなかったことは、上記の経緯を精査すれば確実である。
それはともかく、この紛らわしい表現のせいで、「漏洩問題」だとして論点をずらし被害者ポジションをとる一部議員に、不用意な攻略口を与えていることは事実だ。国会の運営資源の浪費につながりそうな本件を放置することなく、高橋氏は発言の訂正をすべきである。それはまた、インターネットメディアの健全な発展のためにも必須である。
自戒も込めて法律で縛られないからこそ、皆で事実に忠実な報道を心がけて行きたい。
田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。