この記事は、前回の「体育会系の文化は日本の後進性の元凶か?」の続きです。
前回は、「体育会系の文化」は、「インテリの個人主義者」から見るとメチャクチャ許されざる諸悪の根源みたいに見えてしまうが、そういう文化を持った中間集団が生きていることによって、「とくにトクベツなところのない個人」が、「グローバル資本主義の中の無力な砂粒」にされてしまうことなく、「自分たちのトクベツさ」を発揮できるようにしていく力があるんだ…という話を、色々な私のクライアントの事例を導入しながらしました。
とはいえそういう文化が最先端のグローバルな経済の流れを無視しがちなことによるマイナス面は当然あるので、大事なのは「お互いの違いを活かす連携」をすることなんですね。
そうすることで、インテリとソレ以外が果てしなく分離してしまい、破滅的な「社会の分断」が決着不能の言い争いに発展してしまっている「欧米的社会の悪癖」を超えて「違いを超えたコミュニケーション」を実現し、あたらしい「みんなで豊かになる」経済構造を生み出していける希望に繋がるんだ…という話です。
その具体的な話として、最近中小企業に広がりつつある「あたらしい人工知能利用の機運」の話を後半ではします。
システム側が進化して、中間集団を破壊(ディスラプト)しない新しいムーブメントが生まれつつある。
先日、NHKを見てたら、伊勢神宮前の飲食店の二代目さん(といっても娘婿さんらしいですが)が、株式会社ですらない有限会社でおそらく一店舗だけの規模でありながら、自前でAIシステムを構築して、その日の来店者数予測で95%以上のシステムを構築し、食材購入や社員配置の最適化を実現、売上も2倍になった…みたいな話をやってました。(ネット記事がありました→コチラ)
テレビで見てると、それこそ高校の部活みたいに朝礼時間に社員が輪になってリーダーが何か述べる時間があったりする「フツーに日本の中小企業感」があるところだったんですが、その店の奥にマックブックで起動してる「来店数予測・注文されるメニュー予測」が表示されてるモニターがあって、一日の注文数が人気メニューでも20とかなのに、各メニューが出る回数が1−2回の誤差で的中していたのは壮観でした。
昔は「なんらかの先端技術を導入する」となったときには、こういう「現場的中間集団」を破壊して大資本が根っこからコントロールして更地の上にビルを建てるようなことになりがちでしたが、最近はこのシステム側の進歩が大きくて、むしろこういう「部活みたいな中間集団」に寄り添うような「最先端技術」の導入…が実現しつつあります。
上記の番組で紹介されていた有限会社ゑびやさんは、月額8000円のサブスクリプションで、小規模店舗用の来店・注文数予測システムを外部販売もしているそうで、日本中の小規模店舗でiPadと薄いノートパソコンさえあれば最先端AI技術を導入した来店予測システムを導入する例が出てきているようです。
私のクライアントを見ていても、AIブーム!!!と言われていて東京の一部先端IT企業だけがお祭りになっていたころは、私のクライアントから見れば「あんな高いカネ払ってこんだけの成果とか…ちゃんと数字見てエクセルで計算した方がよっぽど改善効果あります」みたいな感じでした。
一方で最近は、「汎用AIソフトを自分たちでイジって自分たちだけの導入事例を格安で作る」みたいな例が増えてきている実感があります。また、以下の記事↓などで私が毎回触れているキャディ株式会社のように、「東京発の最先端技術企業」でも、「中間集団をディスラプトしない」あたらしいタイプのビジネスが生まれてきている。
サブスクリプション型のお手軽AIシステムを開発する企業は、ある種の「個人主義者のインテリ」の雰囲気で運営できるはずです。
が、それをサブスクリプションで利用する「現場」側では、ある程度「ウッス!!アザッス!!!」風の文化を持つ中間集団を維持することで、「一握りのインテリだけが栄えてソレ以外は本当に絶望的なカオスに飲み込まれる」欧米社会の破滅の道から逃れる希望が見えつつある。
「中間集団をディスラプト」してしまうと、一部のインテリは果てしなく活躍できますが、現場レベルの人間は本当に「創意工夫の余地が全然ない手足」にされてしまうんですよね。「ウッスアザッス」型の中間集団に技術が「よりそう」ように導入できれば、マイルドヤンキー型人材が携帯アプリゲームやパチンコの攻略情報を交換して遊ぶような文化の先に「最先端技術と現場共同体のシナジー」が可能になる。
それは、インテリと「それ以外」が果てしなく分離していって後者の生きる価値が消滅してしまいがちな、欧米社会的仕組みの盲点を補完するあたらしい可能性となるはずです。
余談ですが、娘婿さんを含めたこの日本企業の「世襲的事業承継」問題は、原理主義的なサヨク思想から考えるとかなり問題があるように思いますが、逆にこの「マイルドヤンキー的共同体が社会の末端をカオスな状態に陥るのを防止する機能」と「インテリ世界の論理」をシナジーさせる仕組みとして非常に優秀な効果を発揮している例も多いように私は感じています。
フェミニズム等の人権派と日本社会のあたらしい協力関係
最近ネットを開くと人権派やフェミニズムとかそういう「意識高い系ムーブメント」が「日本社会」を徹底的に呪詛する声が溢れています。
しかしこの「日本社会の古い部分」は、ここまで書いたようにうまく育てていけば現行の欧米社会の行きづまり的な「破滅的社会の分断」を超えて、「インテリの個人主義者とソレ以外の共同体」との間のあたらしい関係を取り持ってゆく次世代への希望を含んでいたりするわけです。
フェミニズムはフェミニズム自体はいいとしてそれと「ネオリベ」が結託するから反発を受けるんだ…という指摘を最近ちょいちょいネットで見ますが、これは結構色んなフェミニストが考えるべき課題である気がします。
こういう「中間集団のまとまり」は個人主義者のインテリから見ると本当に憎たらしくてたまらなくなりがちな構造なんですが、しかしソレが破壊されるとグローバル資本主義の中の孤立無援の砂粒にされる「ほんとうの弱者さん(男だろうと女だろうと性的マイノリティであろうとなかろうと)」がたくさんいらっしゃる問題なので、恵まれたインテリ階層はむしろ「彼らがどうやって自分たちの価値を発揮できる経済構造を実現するか」に真剣になる「責任」があるように私は思います。
要するに、ダメなとこダメって言ってるだけでは解決しないってことですね。
私はフェミニズムが言ってる色んな「問題」は徐々にでも解決していけばいいなと思っているしそれに対してできる協力はしたいと思っていますが、そのためにはその「ダメに思える部分」が「どういう理由で必要とされているのか」について構造主義的に深く理解して、個人主義的インテリから見てもOKな範囲内で再構築できるかどうかを考えていくチャレンジが必要だと思っています。
こういう「構造的背景」の経済的意味を理解せずに、単に「その男個人のゲスさ」に還元して叩いているようではどこにも出口のない罵り合いが激化するだけで終わるでしょう。
フェミニズムが問題視する色んな問題に限らず、日本の「オリジナリティ」を血も涙もないグローバル資本主義から守る障壁になっている要素には、意識高い系の人間からすると諸悪の根源みたいに見えるものが色々詰まっています。
が、巨大なグローバルIT企業や原理主義的な金融資本主義への厳しい批判がなされるようになり、「時代の振り子」が逆側に振れてきている今、その「中間集団を維持しようとするオリジナリティ」の先に世界最先端の繁栄の形を見出そうとする日本の挑戦には大きな価値があるはずです。
資本主義が嫌だからって、トランプに対抗する米国民主党の過激派が主張するような空想的社会主義風のビジョンに現実性があるようには私には思われません。そういう空想に熱中してソレ以外をバカにしまくるから私達はアベやトランプやその他過激な欧州右派政党みたいなのに勝てなくなってしまうのではないでしょうか。
とはいえじゃあ民主主義とか諦めて中国みたいにやるべきか???って言われて言い返せなかったら困りますよね。
以下は私の5年ぶり新刊「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」からの図ですが、
「ダイヤ」として、「現場レベルの中間集団を維持してトクベツでない個人のトクベツさを引き出す仕組み」さえ、最先端AI技術や最先端経営手法と噛み合うように持っていくことができたら、はじめて日本は「意識高い系の個人が嫌がる文化」の嫌な部分をやめられるようになっていくでしょう。
欧米社会の文化の「隠れた独善性」を中和し、しかし彼らの文化の美点を否定してしまうことなく非欧米文化の土着性の中にしっかり基礎づけること。そういうムーブメントが今必要とされているのです。
中国という「巨大な別の選択肢」が厳然とした存在感を放っている現在、民主主義的理想を本当に守りたいなら「この領域」にまで踏み込むことが重要なんですね。
そのための私の5年ぶりの新刊、
「みんなで豊かになる社会」はどうすれば実現するのか?
が、来年1月にディスカバー21社から出ます。長く時間をかけただけがあって、本当に自分の「すべて」を出し切れた本になったと思っています。
現在、noteで先行公開↓しており、無料部分だけでもかなり概要がつかめるようになっていますので、この記事に共感された方はその無料部分だけでもお読みいただければと思っています。
同時に、その話をさらに推し進めたところから、日韓関係をはじめとする東アジアの未来の平和はこの視点からしかありえない・・・と私は考えている提言については、以下をどうぞ。日本語できる韓国人や中国人へのメッセージもあります。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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