全国注目の兵庫・西脇市図書館「読書通帳サービス」。地元に切望する理由

先日、起き抜けにスイッチを入れたテレビ画面に寝ぼけ眼が釘付けになった。ATMに似た機械に子供が通帳を差し込むと、ズラッと文字が印字されて出てくるではないか。何かと思えば図書館で借りた本の一覧と読んだ文字の数が打ち出されてくるというのだ。

ワイドショーだったがどれも同じようなので番組名は忘れた。が、図書館の名前はしっかり覚えた。兵庫県西脇市図書館。なんと素晴らしいアイデア!と感心していたら、このサービスが奏功し図書館の年間?利用者がここ数年で4倍(2万余→8万余)になったそうだ。(※ツイッターはTBS グッとラック!公式アカウントより:編集部)

ネットで調べると西脇市の人口は4万人余り。全市民が年に2回は図書館に足を運ぶ計算だが、他所と比べてどうなのかは判らない。が、近隣の市と連携した広域貸し出しなど、この通帳サービス以外にも利用を増やす工夫が様々されている様子が垣間見える。

ところで読者諸氏には、筆者がなぜこの読書通帳サービスにこれほど執着するのかとの疑問が湧くだろう。実はそれには筆者と横浜市とのほろ苦いやり取りがある。以下にその顛末を紹介したい。

社会に出てから現役でいた間は足を踏み入れた記憶がないので、筆者が5年半前から図書館に通いだしたのはおよそ40年振り。カードを作って不定期に数冊ずつ借りるうち、しばらくしてネット予約ができることを知った。なるほど便利な時代になった。

それまでの数ヵ月は書棚だけ見て、大して読みたい本が置いてないなあ、と思っていたところ、横浜市図書館のサイトからキーワード検索すると、市内に数ヵ所ある館の蔵書からピックアップして数日で最寄りの館に届けられ、それがメールで通知されてくる。

1度の貸し出しは6冊、1週間以内に借りに行けば2週間借りられる。読み切れない時は更に2週間の延長がネットで可能。その時点で別の予約が入っていない本に限るが、延長できなかったことは皆無。筆者が読むような本はきっと誰も興味がないのだろう。

さて、そうこうして5年が経った今年の5月、カードの更新が必要とのメールが届く。更新のついでにある要望を伝えた際、読書通帳と関係する事件(大袈裟?)は起きた。それは本の借り入れ履歴、すなわち自分の読書履歴を知りたかったことだ。

リタイヤ後の有り余る時間を勉強に使おうと3年間に600冊ほど不見転で買った。全てアマゾンの古本ゆえ本代と送料はそれぞれ10数万円ほど(本代が若干多い)。単価は1円のものも可成りあり4桁台は1割ほどか(今では本も送料も相当値上がった)。

このデータは3年経った頃にアマゾンの購入履歴をエクセルに張り付けて作った。そうして気付いたのは、題名だけでは題名倒れの本を買ったことと同じ本2冊を5度も買ってしまったこと。我ながら驚いたが、買ってもほとんどはツン読なのでこうなる。

これに懲りて4年目からは先ず図書館で借りて読み、手元に置きたい本だけを買うようにした。が、そうなると図書館での借りた履歴も知りたい。そこで履歴の調べ方を司書の方に聞いたのだが、その返事に筆者は仰天、貸し出し履歴は返却と同時に抹消しているというのだ。

カウンターで司書に理由を聞いても埒が開かず中央図書館に聞いてくれ、となった。そこでメールで「なぜ貸し出し履歴を消去するのか」聞いてみると、横浜市中央図書館の企画運営課長という方からこういう返事か返ってきた。

次に貸出履歴の閲覧についてお答えします。市立図書館では、個人情報保護の観点から、図書が返却された時点で貸出記録を消去しています。このため履歴一覧をご提供することはできません。ご要望に添えず申し訳ありませんが、貸出履歴の確認は、貸出の際にお渡しする貸出レシート(図書貸出票)をご利用いただきますようお願いいたします。

なお、ホームページの「利用状況」画面から貸出中の資料のデータをダウンロードし、貸出記録としてお使いいただくこともできますのでお試しください。

アゴラに投稿するくらいだから筆者も一言居士、こんな木で鼻を括ったような返事に、はいそうですか、とは恐れ入らない。改めてこう問うた。

個人情報保護と仰いますが、私の個人情報を誰から保護するのですか? 図書館の職員からですか? であるなら過去にお借りした本の履歴以上の個人情報(住所や電話番号)を提供していますね。住所や電話番号はなぜ削除しないのですか?

というのも、先述の通り事は図書カードの更新に出向いた時に起きた。それには氏名や住所や電話番号などの情報があり、更新時に改めて用紙にそれらを書いて提出するが、筆者が用紙への記入がなぜ必要かも問うたので、返信に「次に貸出履歴の・・」とある訳だ。で、返事はこうだった。

個人情報が大量に収集、蓄積されることによってプライバシーが侵害される危険性も高まっています。このため、本市では「横浜市個人情報の保護に関する条例」を制定し、市が個人情報を保有する時は利用目的をできる限り特定し、必要な範囲内で保有することとしています。

図書館ではこの条例のもと、貸出等の図書館サービスの効率的な運営を行うことを目的として、利用者の住所や電話番号等、範囲を限定して個人情報を収集しています。どなたがどんな本を読んだかという記録について、その本が返却された時点で保持しないのは、上記の理由からとなります。

依然「個人情報を誰から保護するのか?」には答えていないが、仕方なく「横浜市個人情報の保護に関する条例」に当たってみた。が、目次を見ただけでも余りに膨大なので諦めた経緯がある。そこへ今回の西脇市図書館の「読書通帳サービス」のことを知ったという訳だ。

何かにつけ個人情報保護が付きまとう時代になった。が、本の貸し出し履歴まで保護する意味があるか。漏れるとすればアクセス権のある職員からしか考えられない(ハッキングがあるかな)が、住所や電話番号の方は手付かずだ。実に馬鹿げているという他ない。

西脇市図書館の読書通帳サービスを知ったからには、横浜市に「貸し出し履歴の抹消」を市立図書館に指導しているのかどうか、そして「通帳サービス取り入れ」を指導する気があるかどうか聞いてみたい。もしこの投稿のイイネが3桁に乗るようなら、その結果もご報告したいと思う。

この話は些細に見えて結構重要だ。というのも、本貸し出し数を増やすという図書館本来の役割よりも、個人情報保護などを隠れ蓑に保身と従来のやり方に固執する役所体質が見え隠れするからだ。極めて確率の低いリスクを気にして、利便性や経済性を損ねる意味では原発行政にも通底する。

仮に読書通帳サービスにまつわって事が起きるとしよう。例えば利用の少ない子供がイジメに遭うとか。するときっと一部の保護者がそんなサービスをするからうちの子がイジメられたとか言い出して、馬鹿なメディアがそれを煽り、サービスが中止になったりする。

馬鹿げたことだが、似たようなことはあちこちで起きている。その結果、西脇市の文化度や民度の向上は上げ止まり、横浜市のそれは停滞したままだ。そういった風潮を筆者は正常と思わない。是非とも西脇市図書館の読書通帳サービスが無事に永続し、他にも広がることを願ってやまない。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。