人気芸人チュートリアル徳井氏の納税漏れ問題はまったく収束せず、社会保険にさえ未加入、銀行口座の差し押さえを受けていたことまで確認され、活動自粛とのことだ。
チュート徳井、社会保険にも未加入、銀行預金も差し押さえられていた…吉本興業が新たな事実を発表(スポーツ報知)
事件発覚直後、かなり早いタイミングで開かれた徳井氏本人の会見は、かなりクレバーなものだと感じた。自分の非を完全に認めた上で、きちんとした納税している世間の人々が抱くだろう不快感に対して申し訳ないという論旨は的確なもので、往々世間が謝って欲しい場所、痒い所に手が届かない謝罪会見が多い中、確かに謝るとしたらこう謝るべきという見本のような佇まいを感じた。
逆に、うがった見方をするとすれば、優秀なビジネスマンとしても通用しそうな端正なルックスやロジカルで破綻しないトークの技術が、この際自分が早々に謝ればコトを収束させられるというちょっとした過信のようなものの臭いを感じないではなかった。
当初は芸人ならではの破天荒さと情状酌量したい気分もあったが
それにしても、3年間無申告である。
おぎやはぎ、チュート徳井の会見は「想像の上をいった」(サンケイスポーツ)
ミッツ、チュート徳井の申告漏れに「1円でも手元に残したい人は無申告なんてバカなことはしない」(読売新聞)
同じ芸人仲間たちも驚いているが、確かに合理的に考えればリスクの割にまったく間尺に合わない話で、実際に早々摘発されこの騒ぎを引き起こしていること考えると、理解しがたい行為としか言いようがない。
徳井氏自身が会見で「想像を絶するだらしなさ。」と解説するあり様が確かにもっともしっくりする。
実際に過去レンタルビデオ延滞の常習犯だったとの報道もあり、整合する話ではある。
チュートリアル徳井「ビデオ延滞金も10万円」のルーズな金銭感覚(アサ芸ビズ)
そういうことであれば、なんだかんだと芸人の「だらしなさ」や「破天荒」に世の中は多少の情状酌量があり、端正なルックスとビジネスマン顔負けのコントロールされたトークに意外にも「破天荒」な本性とは、なかなか面白いタレントさんがいるものだと、ことさら芸能人に非日常性・普通でない過剰さを期待している私としても一度は納得したものだった。
秋月涼佑過去記事:ショーケン、内田裕也 破天荒が去った日本の寂しい風景
ドバイをタックスヘイブンと絶賛し移住を推奨
しかし世間はそれで収まらなかったようで、徳井氏が自身のラジオ番組で、
「ドバイに関していうと、税金というものが一切ないのよ。所得税、法人税、消費税、何にもいらんのよ」
などと過去発言していたことが報じられた。
巨額申告漏れチュート徳井が、5年前に語っていた税金の“抜け道”(AERA dot.)
こうなると私の心象もグッと変わってきてしまった。
多分本人にとっては何気ない発言だけに、これは意外と根深いところに税を忌避するメンタリティーがあるぞと感じた。
人の金銭感覚というのは本当に人それぞれデリケートなもので、よく結婚の条件に「金銭感覚の合う人」という発言が言われたりもするが、それほどに譲りがたく繊細かつ決定的なものであるとも言えるだろうし、普段は本音の部分は胸の奥深くにしまわれてうかがい知れないとも言えるだろう。
私個人の経験で言えば、学生時代ならでは気の合う仲間同士でのアメリカ縦断旅行で、どうしてもチップを払いたがらないメンバーを思い出した。普段は気の良い男で価値観の多くを明らかに共有していたのだが、レストランでチップを置く、ベッドメイキングにチップを置く段になると絶対に払おうとしない。
曰く、「どうせ旅の恥はかき捨てで今後二度と会わないし、オフィシャルな明細に金額がないものは払いたくない」と主張する。こちらは「チップを払うのが当地の習慣だし、実際にそれで食べている人々がいる限りは払おうや。」と説得してもテコでも嫌がる。
実際にチップを払わなければ、レストランでは追っかけてきてちょっとしたいざこざになりもする。要は、チップという体裁ではあるが、よっぽどはっきりしたサービス側の落ち度でもなければ払わなくてもよい類のものではないのだ。当時習慣の違いもあり往々チップを払わない日本人向けには、チップ金額まで記入済みの伝票が渡されたぐらいだ。
そんなことも肌で知る私としても、一生懸命説得したものだが結局無駄であることを悟らざるを得なかった。大きな金額ではないが、仲間内で公平に負担しないちょっとした不満が募ったことを今更ながらに思い出しもする。
税金を払いたくない性根に理屈はない。
まして納税に対するメンタリティーはまさに人様々で、十分すぎるほどの稼ぎがある人ほど、ナショナリティという非常に身近なアイデンティティをかなぐり捨ててでも税の低い国に移り租税回避を図ろうとする。まさに先ほど徳井氏のラジオでの発言などはそんな奥底での本音が如実に露呈したものという他ない。
世間的な打算から遠い場所にいるがゆえに珍重されてきた芸人や芸能人が、売れた嬉しさでチマチマリア充を満喫し、後輩へのおごりさえ豪気よりも計算づくとすれば、何ともシラけた気分しか浮かばない。
そう言葉で表せば「興覚め」。そんな気分だ。
理屈を言えば、徳井氏などは公共の電波というそれでなくても既得権者に優遇が過ぎると批判される公共財をフルに利活用しての活躍だ。便益者負担の考えを持ち込めば、税金など人の数倍負担しても罰があたらないのである。でもそんなしゃらくさい理屈を、世知辛い世の現実から束の間気をそらしてくれることが役割の芸人に対して考えさせられること自体が業腹だ。
チップを払いたくない、税金を払いたくないという人の性根というのはどこまでいっても人知れないものだし知りたくもない。
芸人として致命的なカネにまつわる盛大なやらかし興ざめ興行
それにしても最近の芸人たちのリア充ぶりはどうだろう。小ぎれいな家に住み趣味を謳歌し、特に吉本のイケメンランキングで常に上位にランクインする独身貴族徳井氏などは稼げるようになって楽しいことこの上なかったはずだ。ちょっとしたウェイ系サラリーマンの乗りである。
稼げない時代があっての今があり、というのはそれも芸のうち、豪気に使って欲しいものだし、伝説級の豪快逸話にこと欠かないも芸能を非日常のハレの場たらしめてきただろう。また、それを世の中が受け入れてきたのも、お店に居合わせただけでも顔見知りの払いをするほどの気遣いがあってのことだろう。なぜそんな気遣いがされてきたかと言えば、芸の世界にカネという日常の煩わしさを表象するモノを客に感じさせたくないからだ。芸人がカネがらみで許される話題があるとすれば、度を超した散財話ぐらいに違いない。
カラテカ入江氏や宮迫氏の闇営業の件に関しても、芸人のカネがらみ一番ヘタクソな楽屋落ちを見せられた感が世間の心象に影響を与えたに違いない。
残念ながらリア充芸人として知られていたチュート徳井氏、今回まさにカネがらみでの盛大なやらかし騒動に対しては見たくもないものを見せられた興覚め感のむなしさだけが湧いてくる。
寄席なら「金返せ」と捨て台詞の場面だろうが、「金払え」と言わされたのではますますたまらない。
秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。秋月涼佑のオリジナルサイトで、衝撃の書「ホモデウスを読む」企画、集中連載中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
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