【霞が関の声④】職員の無制限労働に依存した国会運営と解決策

アゴラ

【編集部より】森ゆうこ氏の質問通告騒動を機に国会改革や霞が関の働き方改革の必要性が指摘されていますが、騒動の本質がマスコミで十分に報じられず、国民的な理解が進んでいません。アゴラ編集部では、霞が関で働く皆さんから匿名での投稿による意見を募集中です(募集告知はこちら)。

第4弾は、最初にご投稿いただいた40代課長補佐の方が「森議員個人への攻撃や、通告の漏洩の犯人捜しなど、「国会改革」からは明後日の議論がなされている」と苦言を呈され、続編を投稿されました。

永田町から見た“不夜城”霞ヶ関方面(写真AC:編集部)

国会の役割は、提出された予算や法律案について、審議を通じその意義や問題点を明らかにし、成立させる/させない、というが教科書的答えですが、現実には、「権力闘争」という側面も無視できません。国会で審議している姿を有権者にアピールし、次の選挙を有利に戦うわけです。政治は、政策論争に名を借りつつ、いかに多数派を形成するかというゲームでもあります。小難しい政策論争よりも、どの有権者にもわかりやすい「政治とカネ」や、「大臣の資質」に焦点を当てるほうが、与党への票を減らす近道だったりします。

こうした見方に立ったうえで、「日程闘争」問題をさらに深堀すると次のように言えるかと思います。

与野党それぞれにとっての質問通告問題の本質

まず、野党の議員にとって、国会における質疑の中で何らかの提案をしても、それが受け入れられる可能性はゼロに近いので、政策論争は、政策実現のためではなく当該議員ないし政党の自己PRの場です。また、権力闘争という意味では、揚げ足取りやクイズのような質問を通じ、テレビの前で大臣がまごつくする姿を有権者に印象付けられれば、内閣支持率も下がり次の総選挙で野党が有利になるかもしれません。しかも、現在のような一強多弱体制では政権交代は起こりませんので、野党議員にとってみれば、非人道的な対応をして役人に恨まれるようなレピュテーションリスクを恐れる必要もありません。

与党はどうでしょうか。こうした野党の攻撃からいかに防御するかが与党国対の仕事です。与党の国対は、大臣にしっかり答弁させ続けたうえで、一定の審議時間が経過すれば採決を図ります。野党議員に対し、次の選挙で有利にならない程度に多少花を持たせ(例えば、政府を追求する姿をアピールするのに好都合な総理入りテレビ入り審議を容認するなど)、最後は、予算であれば年度内、法案であれば会期内で処理できれば、国対としては満点なわけです。

こうしてみると、質問通告問題は、与党にとってはささいなことです。いままさに大臣が攻撃されている最中に、「担当職員が子育て中で帰ってしまったので〇〇議員の質問内容はよくわかりません、あとは大臣よろしくお願いします」という対応が容認されるでしょうか?

会期末の法案処理のために、何らかの取引の結果急転直下与野党間で合意に至り、突如委員会をセットしたにもかかわらず、通告が遅いので答弁はいたしません、という対応が許されるでしょうか?とにかくしっかりしろ、とその省庁の事務次官や官房長が与党国対や官邸から叱責されるだけです。

つまり、役人の残業問題”ごとき”で、大臣をお支えする役割を放棄することなどあってはならないことなのです。特に、予算の可決間近、法案処理を控えた会期末間近であれば、国会の緊張感は最大となり、答弁書の一層丁寧な作成はもとより、資料要求への対応をはじめ、失言も含め、水をも漏らさぬ対応が求められます。

完璧主義の国会対応にも限界

「答弁書の作成」は、所詮行政内部の事務の一環にすぎず、 大臣がしっかりしていれば答弁書など丁寧に作らなくとも本来は何の問題もありません。しかし、政策課題は多岐にわたり複雑なものとなっており、その分野の専門家が大臣であったとしても、答弁書なしに答弁するのは困難です。

加えて、野党は、クイズばかりでなく、真剣に質疑する中で通告にない質問をその場で思いつき追加で質問することもよくあり、そうした「更問い」にも備えなければいけません。このため、質問通告が不明瞭なものであったりしても、当該議員の過去の質問や、ブログやSNSもチェックしたうえで、質問の傾向を予測することまで求められます。

こうした「完璧主義」は、ある意味で我々官僚の習性ともいえるものでもあり、野党議員からすれば「別にそこまでしなくとも」「役所が勝手に過剰な対応をしているだけ」と思うかもしれません。しかし、間違った答弁をして、委員会審議が遅延したり、あとで謝罪・釈明をしたりするようなことは、やはり、限りある会期の中で予算や法案が「人質」にとられている状況下では、どうしても避けなければいけません。

加えて、「〇〇大臣は….と述べたが、総理も同じ考えか」「政府としての統一見解は」といった具合に、野党がその失言をとらえて攻勢に出てくれば、「それは△△という趣旨を述べたものであり、これまでの政府の方針と齟齬はない」といった具合に言い訳まで我々官僚の側が考えさせられる羽目になります。やはり、野党側の通告の内容如何にかかわらず、「完璧」な対応が求められます。

これはある意味で一例であり極論かもしれません。ですが、現在の国会運営は霞が関の末端の職員の無制限労働に依存しており、かつ、与党の政権維持のための歯車として分かちがたく組み込まれてしまっています。こうした現状に、一部の議員を除き、与党は見て見ぬふりをしています。霞が関の役所の幹部も同罪かもしれません。

霞が関の職員も人間です。特に近年では子育てしながら働く職員も男女問わず多くおり、昭和のように職員の無制限労働に依存したやり方は持続不可能です。

日程の決め方を抜本的に変えよ

解決策(改善策)として、今回も、森議員の通告問題を契機として、与野党間で何らかの対応がなれるかもしれません。ですが、 質問通告は審議の2日前までという与野党間での申し合わせは、過去幾度となくなされ、その都度、形骸化し破られてきました。罰則もありません。

今回も、「申し合わせの確認」といった顛末になれば、これまでと何も変わりません。霞が関の多くの職員は落胆することでしょう。よくよく考えれば、議員が十分な準備をしたうえで2日前に通告しようと思えば、最低1週間前には日程が決まっていないといけないはずです。

つまり、「日程の決め方」を抜本的に変えない限り、事態は何も改善しません。なお、少数野党にとっては、複数の委員会を掛け持ちしている場合が多いので、突然の委員会セットには対応不可能です。この点からも、やはり1週間程度前には審議日程が決まってないといけません。

私案ですが、改善案はシンプルです。国会の日程、具体的には、法案提出、本会議・委員会審議日程、採決の日取りまで、あらかじめ決めておくことです。 地方議会では、半年くらい先まで議案の提出、審議、採決日程まで決めてしまっており、国会にできないはずはありません。 そのうえで、質問通告を質疑日の〇日前と決めておき、期日を過ぎれば、文書回答でも当該議員への個別のご説明でも可とすればいいと思います。

採決日は自動的にやってくるわけですから、質問の機会を失いたくない野党は、期日までに通告するはずです。また、「日程闘争」に割いていたリソースを、いい質問づくりひいては次の選挙後のための政権構想を練るために充当できるわけですから、野党も悪くないと思います。

与党は、採決日程が事前に固められるのは現行と比べ相当有利になりますので、もっと譲らなければいけません。例えば、与党議員の質問時間をすべて野党議員に譲るのはどうでしょうか。事前審査制のもと、現在の政策立案の仕組みでは与党議員は政府提案の政策に自身の主張を盛り込む機会が与えられているわけですから、わざわざ国会で質問などしなくてもいいはずです。

どうせ、現在の与党議員の質問なんて、政府のヨイショ質問がほとんどじゃないですか。ひどいものになると、なにを質問すればいいかということまで、役所に考えさせる議員もいます。

この案は、なるほど霞が関の職員に都合のいいものかもしれません。しかし、これまでのような霞が関の職員の無制限労働に支えられた現行の運用は持続不可能です。残業代やタクシー代の問題ではなく、職員の身体というリソースが国会対応で費消されてしまい政策立案に充当する余裕がなくなることが問題です。野党議員の中には、傾聴に値する政策提案をなさる方もいらっしゃいます。そうした声を拾い上げることも可能となるはずです。

犯人探しの脅しでも漏洩はなくならない

繰り返しになりますが、今のままでは持続不可能です。これを放置しておけば、炎上を目的として、通告の遅い質問やくだらない質問、団体の要望丸写しの質問を次々とツイッター等で事前公表し晒しあげるという事態が続出してもおかしくありません。

いま国会では通告を漏洩した犯人探しが行われていますが、そんな脅しで漏洩はなくなりません。こうした官僚の”反乱”は、野党にとっては不愉快かもしれませんが、国会運営の在り方について、自分のこととして危機感を持たざるを得ないのではないでしょうか。

また、採決日程までフィクスしては、という提案に対しては、特に護憲を主張する政党は敏感に反応するでしょう。採決までセットしてしまえば、憲法改正の国会発議を止められなくなってしまいますので。

しかし、予算や法案は政府が提出することが憲法上予定されているわけであり、国会が発議する憲法とは異なります。すなわち、政府提出の予算や法案については日程をあらかじめ確定させておくのであり議員提案の法案や議案はこの限りではない、という運用をするのであれば、護憲を主張する政党も呑めるはずです。

某官庁勤務  40代課長補佐