こんにちは、都議会議員の鈴木邦和です。東京五輪のマラソン・競歩の札幌開催案について、IOC委員長から信じがたい発言がありました。
・IOC示唆 札幌移転経費、都税でまかなう可能性も:日刊スポーツ
IOCは東京都と一切の協議なく札幌への開催地変更を突然決定したばかりか、札幌開催にかかる追加費用を実質的に東京都が負担する可能性まで出てきています。さらに、官房長官、北海道知事、札幌市長なども相次いで東京都負担の考えを示しています。
もし札幌への開催地変更が決まった場合には、少なくとも340億円以上の追加経費が新たに発生する見込みです。それを都民の税金で負担すべきというのはあまりに不条理です。都議会としてもその予算執行を到底容認できません。
ドーハよりも遥かに涼しい東京
今回の札幌開催案は、先日ドーハで行われた世界陸上に端を発します。特に、女子マラソンでは気温32.7度、湿度73.3%と厳しい条件下で実施され、出場選手のうち4割超が途中棄権となりました。この悲惨な結果を受けて、アスリートファーストの観点からさまざまな選択肢を検討するのは妥当です。
しかし、札幌開催が本当にアスリートファーストなのか、IOCがどこまで精緻に検証したのかは大いに疑問が残ります。そもそも先月のドーハと比較すると東京の方が5度近く気温が低く、湿度に限っては札幌よりも東京の方が低いというデータがあります。さらに、マラソン・競歩の条件は単純に気温・湿度だけでは決まりません。
札幌開催のリスク
例えば、警備計画一つとっても、大型マラソンは通常3年近く準備にかけるほど大変なものです。実際に2013年のボストンマラソンでは爆弾テロが発生し、3人が死亡、282人が負傷した悲惨な事件がありましたが、何十万人もが集まるマラソン競技はテロの標的になります。アスリートファーストを謳うならば、選手や観客の命を守るための警備体制を絶対に軽視してはいけません。
また、札幌は11月から4月頃まで雪となるため、今からではテスト大会の実施すら危ぶまれます。IOCがマラソンの発着地点に提案している札幌ドームは出入り口の幅が非常に狭く、スタート直後の団子状態でアスリート同士が接触・転倒する危険性もすでに指摘されています。こうした1つ1つの課題を洗い出し、事前のテストと改善を積み上げなければ五輪大会はとても開催できません。
東京開催の新提案の方がリスクが低い可能性も
私が危惧しているのは、IOCのこれまでの声明を見る限り、こうした検証を行った形跡が全く見られないことです。日本陸連含めて現場関係者へのヒアリングも一切なく、ただ「札幌の方が気温が低い」という点を根拠に、重大な意思決定をしてしまったように見受けられます。しかし、もしその通りであれば、なおさら札幌開催のリスクは高まります。
東京都もIOCの提案を受けて、より気温の低いマラソンの午前5時スタート案や、競歩についても日陰の多いルートの変更案を検討しています。五輪マラソン・競歩の開催地は、今月30日からの調整会議で最終的に決まる見通しです。わたしたちも、それまでに出来る限りの検証と現場関係者からのヒアリングを続けたいと思います。
編集部より:この記事は東京都議会議員、鈴木邦和氏(武蔵野市選出、都民ファーストの会)のブログ2019年10月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は鈴木氏のブログをご覧ください。