ある女性経営者いわく「キャリアプランはいらない。」

出版業界の異色の女性経営者の本が出ます

ワタクシ、来年1月に5年ぶりの新刊を出すんですが、そこでお世話になっているディスカヴァー・トゥエンティワンの社長、干場弓子さんがご自身の本を(別の出版社から)出されまして↓。

今アマゾンランキングはこんな感じで、結構売れてるみたいです。

1位 ─ 起業・開業ノンフィクション
2位 ─ 起業家関連書籍
1位 ─ リーダーシップ (本)

一般的な知名度はそれほど高いとは言えないかもしれませんが、干場さんって超凄い人だと私は個人的に思っているので、書評がてら本(と干場さん本人)の紹介記事を書こうかと思っています。

三つの「干場さんはここがすごい!」

ここが凄いその一・出版社をゼロから起業して35年、取次を通さない直販モデルという独自スタイルを貫いて順調に成長させてきた

出版社と書店の間には「取次」という業者さんが入るのが日本における基本なんですが、干場さんが起業した当初無名出版社は取次に相手にされなかったり、取引条件が大手出版社とはかなり違う不利な条件を飲まされたり…という状況に憤慨し、本屋さんと出版社が直接取り引きをするモデルを推し進めて来て、全国5千店の書店と直取引をし、売上高は非公開なものの100名を超える社員を抱える中堅出版社にまで育て上げた。

…これ、確かに「規模」はそんな凄い大きくなったわけじゃないんですが、「直販」っていうビジネスモデルをゼロから作り上げて、今では直販といえば…という業界内での不動の地位を築いているのが凄いんですよ。

また、日本の出版のグローバル化みたいなのにも熱心で、海外のブックフェアにおける日本出版社連合ブースを仕掛けたり、中国の出版社と共同の企画をしたり、電子書籍が普及するかなり前から全部の本を電子書籍化したり・・・「とにかくなんでもやる」行動力が凄いです。

そうやって強烈に「普通と違う」モデルのビジネスを築き上げた人ってどんな人なんだろう?って思いますよね?

でも干場さんって会うと…(②につづく)

ここが凄いその② すごい謙虚、ニコニコしてる、めっちゃ元気そう、そして若い!!!

あんま人の(特に女性の)外見のこと言わないでいるべきと常々思うタイプなんで普段は言いませんが、(ただ干場さんご自身が結構こだわっておられるようなので言うんですけど)世代的にはもう定年退職してもおかしくない年齢なのに見た感じめっっちゃ若いです。フェイスブックで高校の同窓会しました・・・とかいう写真見るとオジイサンの間にチョコンとホステスさんが座ってるかのよう(笑)

「一代で普通じゃないビジネスモデルの出版社を作り上げた女性社長」っていう前評判だけ聞いて会いに行くと、びっくりするぐらい偉ぶらないし、いつもニコニコしてるし、給料のほとんどを使い込んでしまったと自分でネタにされるシャネルの服を着こなしていらっしゃるし、まずそういう「会った感じ」からして”規格外”感あるんですよ。

今でも毎週のようにあちこちの山に登ったり、新入社員に混ざってカラオケを熱唱したり、かと思えば出版社の社長でありながらいまだに編集実務も全部ひとりでちゃんとやり、このお年で校了前に徹夜した・・・みたいな話があったりとか(笑)

いやいや元気すぎるやろ…という感じです。でも、ニコニコしてるだけの人じゃないっていうのは話してるとわかって…(③につづく)

ここが凄いその③  決断力とか胆力とか、選び取る力とか・・・そういうのが凄い

僕が干場さんと知り合ったのは、僕が昔出した本をどこかで見つけられて、「すごい!!付箋貼りまくって読みました!!!ぜひお会いしましょう!!」みたいなメールが突然来たのがキッカケだったんですが。

僕のような本の書き手にとって、「編集者」の後ろに「企画会議」的な会社の決断みたいなのが別にあると、ほんと疲弊するんですよね。

私は経営コンサルティングのかたわら、「文通を通じて個人の人生の戦略を考える」みたいないわゆる”コーチング的”な仕事もしていて、(ちょっと業界は違いますが)ある「有名アイドルグループの曲も書いてる」作曲家さんもクライアントにいるんですが、話聞いてると年間100曲も完パケレベルの曲を仕上げて採用されるのは5曲!!!とからしく(笑)

…こういうのがほんとうに「疲弊」するのはみなさんご想像いただけると思うんですが。

だから干場さんのような「社長さん兼編集者さん」から、「良いと思ったらトコトン良いって言ってくれる意志」みたいなのをいただけると、無駄な営業とかに力使うんじゃなくて、ちゃんと意味ある蓄積をしていこう・・・っていう気持ちになれるわけです。

社長というポジションの権限もさることながら、「言葉に重み」があるから勇気を持ってその仕事に取り組めるという感じで。

とはいえ、来年1月に出る本が完成するまでの2回ぐらい「原稿まるごとボツ」みたいになってるんですけど(笑)そういうところで「どういうのが良くてどういうのが悪いか」みたいなのを、経営レベルでの決断力でバシッと言ってくれるんで、そのへん凄い勉強になっています。

つまり、なんというか、凄く「中小企業の頼れるボス」体質なんですよね。これは僕が経営コンサルタントとして出会う「優秀やなあこの人」っていう感じの中小企業の経営者に共通する素質です。

そしてその「中小企業のボスっぽさ」がこの本の良さにも繋がっていて…

本の内容はどんな感じ?

たとえば「キャリアプラン」とか「ワークライフバランス」とか「リーダーシップ」とか、ビジネス書には「流行り言葉」がたくさんあるわけですが、それらはもちろん大事なことを言ってるけれども、その「言葉だけ」にこだわりすぎると良くない影響もあることってよくありますよね?

多くの「今の働き手」は、そういう「これが正解」という流行言葉に自縄自縛になってるところがある。

この本は、そういう「よくある流行言葉」を10個あげて、それぞれについて、

・人工的な「キャリアプラン」にこだわりすぎると、「縁」が繋がって仕事が自然に広がっていくのを取り込めなくなることがある
・「リーダーシップを取れる人材にならなければ」と思いすぎると、そもそも逆に「優秀なフォロワーシップを取る」方が向いている人材まで無理に「リーダーであらなくては」と思わせていないか?

…などの、ついつい頭でっかちに「こうでなくては」という風に考えてしまいがちな10個の「ビジネス書の流行り言葉」に対して、それを頭ごなしに否定するんではないけど、「現実とのバランスの取り方」についてひとつひとつ述べてくれる本という感じです。

読んでて思ったんですが、前から知ってたけど干場さんってほんと「中小企業のボス」体質だなあ・・・っていう感じです。あんまり概念的に整理しきって本一冊をスキなく構成するっていうタイプではなくて、むしろスポーツ選手が語ってるのを聞くような文章(笑)

でも、そうやって語られる文章の背後に「たくさん決断してきて今がある人なんだなあ」っていう感覚が染みてくるところがあって、

読んでいくうちに今まで自分がどれだけ「流行語」にとらわれてきたか・・・に気づける本

という感じでしょうか。

「リアルなこと」と「ステキなこと」が一致する社会に

日本の中小企業の中には、ほんと「こういうのこそ日本の良さだよなあ…」っていう良さを持ってるところも実はかなりあります。

「日本はカイゼンはできてもイノベーションはできない」とか言うのも実は嘘だな、って思うような「独自の強みへのこだわり」をちゃんと持っていたり、インテリの社員もヤンキー社員もそれぞれの価値を引き出せるような仕組みづくりであったり、長期的視点から「こういうことはしてはいけない」的な美学のようなものがちゃんとあったり…

ただ、そういう「マトモな会社だなあ!」って思う会社ほど、案外採用で苦労してたりする現状ってあるんですよね。一方で、メディア受けする華々しさがあって、若い世代の就職希望者が殺到してるような会社が、数年後に問題がアレコレ噴出してポッキリ消滅してしまったりもする。

今の日本はこの「見た感じにステキと思われやすい」軸と、「ほんとうに長期的に意味のある」軸の間の相関がかなり怪しくなってしまって、単に「ステキさを求めるエネルギー」だけに任せてしまうと社会本来の強みがグチャグチャに崩壊してしまう危機感みたいなものを多くの人が抱いてしまっている現状があると私は感じています。

その結果として、女性とか外国人とか、そういう「古い日本社会」の「外側」からのゼロベースの意見に対して一緒くたな抑圧をしてしまっている現状がある。

私の新刊から、ここ最近何度も使っている図で言うと、

干場さんの本で言う「わかりやすい流行語」と「それが取りこぼしてしまっている現実」がそれぞれバラバラになってしまっていて、どちらを重視するかで果てしない罵り合いみたいになってしまっている現状があるんですよね。

干場さんのいいところは、実際に会ったり喋ったり本を読んだりすると、笑ってしまうほど「中小企業のボス体質」なのに、見た感じと会社のイメージが凄い「ステキな最先端風」でもあるというところだと私は思っています。

これ、男が社長だと、「流行語が取りこぼすリアリティ」とか言い始めるとすぐちょっと「時代遅れ感」が出てくるんですよね(笑)干場さんというキャラクターの中にそれが結実しているからこそ、新卒採用人気も出るような「ステキさ」と、「日本企業の本当に良い部分」的なリアリティが分離せずに同居することができている。

昨今、インターネット上では、フェミニストの人や色んな人権思想的な「意識高い系の欲求」と「古い日本社会」との間の仁義なき罵り合いが続いていますけど。

私はそういう「意識高い系からの要望」は最終的には日本社会の中に実現させていきたいと思ってはいますが、ただその「古い日本社会のまとまり」を崩壊させた先に生まれる社会が、グローバル資本主義の暴力の中でほんの一部のインテリの個人主義者以外生きてる価値もないような殺伐とした社会・・・というのでは困りますよね。

この記事などで述べてきたように、日本社会の「ある種の閉鎖性」は、逆に言うと「一部のインテリとソレ以外が果てしなく絶望的に分断されていってしまう欧米社会の悪癖」を中和させる希望の種だったりもするわけです。

だから欧米社会みたいになんでなれないの?と怒ってるだけでは、日本社会の側にも”拒否する正義”もあろうかと思います。

干場さんの本が描こうとするような、「流行語とリアリティの間」に、本当に「みんなのためになる社会運営の方法」を日本オリジナルにちゃんと作るという課題に向き合うとき、日本社会と「意識高い系のムーブメント」ははじめて「敵同士」であることをやめ、罵り合いをやめ、一歩ずつ意味のある「対話」の中で社会を改善していくことができるようになるでしょう。

そういう観点から、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」という直球なタイトルで、私の5年ぶりの新刊が今度でます。

以下のリンク先↓の無料部分で詳しく内容の紹介をしていますので、このブログに共感いただいた方はぜひお読みください。

みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?

また、同じ視点から、紛糾続ける日韓関係や香港問題などの「東アジア」の平和について全く新しい解決策を見出す記事については、以下のリンク↓からどうぞ。(これも非常に好評です。日本語できる韓国人や中国人へのメッセージもあります)

この視点にみんなが立つまでは決して解決しないで紛糾し続ける…東アジア問題に関する「メタ正義」的解決について

たとえば日韓関係とかですら、こういう「大きなビジョン」の中での日本の役割…という視点で見ないと読み解けない時代なわけです。「荒ぶる夜の女王の暴走」に対してあたらしい秩序の回復を目指す日本…という構造が徐々に明らかになってくることを私は確信しています。(とはいえできればあまりヘイト的なことはせずにその意志が実現できるようになっていけばいいのですが…詳しくは上記リンク先でどうぞ)

倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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