相次ぐ大型台風で被災なさった多くの方々に心からお見舞いを申し上げつつ、新天皇の即位礼正殿の儀が恙なく執り行われたことは国民一同大いに喜びとするところだろう。高御座にお姿が現れるや一瞬雨が止んで虹さえ架かるご威光に、世界中から祝福にお越しの各国元首もさぞかし恐懼したに違いない。
他方、専用機からタラップを降りる際、一陣の神風?が吹いて傘が破壊される憂き目にあった来賓もいた。ご存じ中村梅雀激似の李洛淵首相だが、彼がまた韓国国会でウンザリさせてくれた。日本の態度に「やや変化の兆しが垣間見える部分もあった」と述べたのだ。念のため、菅官房長官の発言ではない。
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さて、ここへきて焦りぶりが顕著な南北朝鮮だが、とりわけ来春に総選挙を控える韓国は経済成長率の低迷(7-9月は前期比0.4%)や雇用の悪化が隠しようもない上に、疑惑塗れを承知で法相就任を強行したチョ・グクの辞任で、香港民主化デモと競うかのような反文政権の大規模デモにも拍車が掛かる。
日韓関係の致命傷になる徴用工判決での差押え資産の現金化も待ち受ける上、米韓関係でも、5倍増を吹っ掛けられた在韓米軍費用の負担交渉を前に、米大使館に不法侵入して足を引っ張る輩が現れたところへ、来月23日が期限の日韓GSOMIA廃止に異を唱える米国が具体行動に出始めた。いよいよ青瓦台の尻に火がついた。
韓国でGSOMIA不延長が取り沙汰され始めた8月1日、筆者は「韓国が破棄したいと言っても、米国が要ると言うなら継続すれば良いが、そうでないなら、日本はどうぞと言えば良い」と書き、8月22日の廃止公表直後に「GSOMIA破棄:コケにされたアメリカは、韓国にお仕置きを!」と書いた。
報道を読めば素人の筆者にすら、米国主導で締結された日韓GSOMIAが日米韓揃ってこそ威力を発揮する軍事情報共有と判る。日本が黙っていても米国が看過するはずないし、法的拘束力のないTISAはGSOMIAの様には機能しない。だのに後先を考えない韓国の行動、伝統芸とはいえ度を越している。
で、スティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が26日に東京で、「GSOMIAは韓米日の安全保障にとって非常に大きな意義がある」、「GSOMIAに戻ることを韓国に促したい」とし、来月5日の来韓予定を明らかにした。マーク・ミリー米統合参謀本部議長も11月中旬に日韓訪問を検討中という。
韓国各紙は28日、同次官補訪韓を伝えた。どれも7百字前後で事実関係を伝えた東亜日報とハンギョレと中央日報に比べて、7月から中断していた社説やコラムの日本語版を9月から再掲載した朝鮮日報は、ワシントン特派員の2千字近い記事を載せた。空気を読んでか、青瓦台批判にリキが入ってきた。
同紙はシュライバー米国防次官補の「GSOMIAに対する米国の立場は明確だ」との発言を引いて、「政府は、米国を通じた韓日間での間接的な情報のやりとりを定めた韓米日情報共有約定(TISA)があるからGSOMIAを補えると主張してきたが、米国の反応は否定的だ」とし批判色を滲ませる。
更に、ある政府高官が25日、「先に原因となったのは日本の報復措置だ。GSOMIA中断決定を一方的になかったことにした場合、それは国民が納得しないだろう」と主張したとし、「政府は今なお日本が先に輸出規制を解除しない限りGSOMIAは延長しないとの立場を変えていない」と嵩に懸かる。
そして青瓦台の趙太庸国家安保室第1次長が、「GSOMIAの終了を決めこれを発表したのは、米国から(仲裁を)引き出すためだったと考える」とする一方、「結果が出ていないのは望ましくないと言えるだろう」と述べたとして、どう読んでも青瓦台の焦りと混乱ぶりを難じている。
極め付きは以下の記述だ。その通り!と一声掛けたい気分だ。
GSOMIA破棄発表後の展開は、韓国のもくろみ通りに行かなかった。米国は韓国に対して堂々と圧力を加え、執拗にGSOMIAの延長を要求してきた。しかし日本はGSOMIA終了を阻止するため新たな交渉に応じる意向がないことをすでに表明している。
李洛淵首相と安倍首相が会談した後も、日本政府は「韓国が国家間の約束を守らないと両国関係は改善しない」として「徴用問題の解決が必要」との考えを明確にした。安倍首相も今月9日「GSOMIAが終了しても、日本の防衛に直接の支障はない」と発言した。最終的に韓国だけがGSOMIA終了期限に追われるという自縄自縛状態に追い込まれたのだ。
同記事は、元駐日大使のシン・ガクス氏の「GSOMIAを延長しなければ、日本はもちろん米国でも外交面で大きく問題視され、韓国は双方から困難な状況に追い込まれるだろう」、「全体的な破局に直面する前に、政治的な意志を持って解決に取り組まねばならない」との指摘で結ばれる。
事ここに至って文大統領もさすがに拙いと焦り始めたか、李首相に安倍総理への親書を持たせたり、来月の大嘗祭での首脳会談を模索したりと日本政府に秋波を送る。が、朝鮮日報が報じる様に「韓国が国家間の約束を守らないと両国関係は改善しない」と堅い意志の日本政府は、過去のそれとは違う。
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一方、北朝鮮の焦り振りも明らかに露骨になってきた。トランプ大統領も中国やロシアやトルコや中東など世界中を相手にしている上、内政でも弾劾だなんだと抱えていて、金正恩だけを相手にしている訳でない。それで北もミサイルを十数発も撃って気を引こうとするが一向にかまってくれない。
トランプは言葉づらこそ優しいが、その割に制裁は1mmも弱めてくれないし、制裁破り用の船舶が次々拿捕されるわ、高級ドイツ車の密輸ルートは解明されるわで、まさに泣き面に蜂状態。白頭山で白馬に跨ろうが、金剛山の韓国製観光施設を破壊しようが、南が騒ぐだけで米国は歯牙にも掛けない。
そこでとうとう強面No.1の金英哲朝鮮労働党副委員長を、アジア太平洋平和委員会委員長の肩書で再登板させた。2月のハノイでの米朝首脳会談決裂後、粛清されたとか責任を取って再教育させられているとか言われていた金氏だが、それを引っ張り出さねばならぬほどに金正恩が焦っているということだ。
28日の東亜日報が報じた英哲氏の27日の発言は、「米国が以前にも増して悪辣な方法により(北朝鮮を)孤立させ、圧殺しようとしている」、「今すぐにも火と火が行き交いかねない」というもの。威勢だけは滅法良いが、前段は「孤立しそうだ、圧殺されそうだ」という弱音に聞こえ、むしろ哀れを誘う。
英哲氏は更に「米国が首脳間の個人的な親交関係に乗じて時間稼ぎをし、年末を無難に越そうとするのは愚かな妄想だ」、「何事にも限界がある」とし、「朝米首脳間の親交関係は決して民心を無視できず、朝米関係の悪化を防いだり補償するための担保ではない」と述べたそうだ。が、これも「このままでは年越し出来そうもない」と困窮ぶりを訴えているように聞こえる。
英哲発言に対し、韓国の青瓦台関係者は27日、「北朝鮮が非難を強めたものの、対話の意向を明らかにしたという点は肯定的に見ることができる」と評価したそうだ。金王朝にへつらうばかりの青瓦台、先述の李首相発言もそうだが、この国の方は悲しいほどに自分に都合の良い解釈しか出来ない。
だが、英哲発言を知ってか知らずかトランプ大統領は同じ日、IS指導者のバグダディを急襲して始末したことを自ら会見して公表した。韓国のGSOMIA破棄も一連の米国の行動で撤回せざるを得まい。南北朝鮮の両首脳にとっては、米国の有形無形の圧力の前に震えながら迎える令和元年の年の瀬になる。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。