国民民主党の森ゆうこ議員の「質問通告」をめぐる問題は、本来注目されるべき国会や霞が関の働き方のあり方で議論が深まらず、森氏サイドが情報漏洩などを主張して“戦線”を拡大して複雑化の一途をたどった。
前回のまとめを出した後、野党の合同調査チームが国会で追及の材料とした資料に致命的な誤りがあったことが判明するなど、新たな動きもあったが、マスコミが相変わらず、朝日新聞のように野党側の肩を持つか、ネット上の騒ぎとして詳しい経緯をほとんど報じないこともあって、「ついていけない」という読者も少なくない。そこでアゴラ編集部ではまとめの続編を制作した。
① 森ゆうこ「質問通告」問題とは?
台風19号の上陸前夜の11日、「森ゆうこ議員の質問が来ないので答弁が作れず、家に帰れない」と、ツイッターなどで官僚を名乗る匿名アカウントによる怒りの告発が相次いだ。これに対し、森氏は「質問通告は提出期限に出した」と反論、翌12日には原口一博・国対委員長も援護射撃のため参戦し、ツイッターを舞台に“政官バトル”の火蓋はここから切られた。
参照:【働き方改革】台風接近の中、官僚にブラック労働を強いる野党の国会議員さま→開き直って政府陰謀論を展開へ(togetter)
後日、森議員や霞が関の現場から話を聞いた玉木雄一郎代表は、
- 期限の17時までに、通告大臣も含めて質問概要は参院予算委員部に届いてはいた
- 一方で、役所の側では、実際にすべて答弁が出揃って解除になったのが22、23時と行った役所が多いことも事実
- いくつかの追加の質問、詳細な説明が出てきて、出揃うのに時間がかかった結果、台風が接近する中、なかなか帰れなかった人がいるのもまた事実
といった事実関係を16日の会見で明らかにした。 また日本維新の会の足立康史議員も、参院内で入手した質問要旨に基づき、
- 16時半に森事務所から参院予算委員部に送付された質問項目(項目名のみ、問合せ不可)は、暫定版を理由に政府への展開は不可とされた
- その後、項目毎の要旨が五月雨式に委員部に伝えられる
- 22時に委員部に正式送付された質問項目(問合せ不可)には、更に追加の詳細要旨を送付する旨、つまり質問通告は終わっていない旨が明記
- 項目名が正式に出そろったのが22時、詳細説明が出そろったのが24時近く
などと玉木氏の確認した事実関係に解説を加え、その質問要旨もツイッターで公開した。
以上の一連の騒動については、アゴラでも霞が関の現役官僚の方々から意見を募集して議論を深めてきたが、その中で問題の根源として浮上しているのは、与野党間のかけひきのせいで委員会を開くこと自体が直前に決まるという「日程闘争」である(参照:池田信夫、霞が関の声①)。
これは玉木氏自身も前述の会見の中で認めており、「与野党が協力して根っこの仕組みから改めて、霞が関の働き方改革につなげよう」という機運を生んでいるのが、一方での「質問通告」問題であったと言えるだろう。
② 内閣府から高橋洋一氏への「情報漏洩」疑惑とは?
他方、森議員が実際に参院・予算委での質問を終えた後の16日、森議員や原口国対委員長らは緊急記者会見を開き、「森議員の通告していた質問内容が外部の民間人に漏洩していた」として、この漏洩問題の追及チームを立ち上げると発表した。
森氏らが問題視した「外部の民間人への漏洩」とは、14日のネット番組「虎ノ門ニュース」における嘉悦大学教授・高橋洋一氏の発言だった。高橋氏は番組のなかで「私も通告書みましたよ」「役所の方から来たんですよ」などと述べてたことを受けて、森氏らは「細かい役所とのやり取りまでもが(高橋氏に)さらされていた」「国家公務員が通告内容を漏らすのは大問題」「質問を外部に漏らしてその質問を封じ込めようとするのは、国会議員の質問権の侵害」などと、“意図的な漏洩”があったと強く主張した。
しかし、森氏自身は質問項目の一部を11日の時点で自身のツイッターで公開している。
それでも、原口氏らが同じ会派を組む立憲民主党と合同で立ち上げた調査チームはその後も追及を強めていき、「原氏すら持っていないはずの追加資料の図を高橋氏が事前に見ていた、内閣府から情報漏洩していた疑いがある」として、北村規制改革担当相に辞任を要求。23日の衆議院内閣委員会では、今井雅人氏と柚木道義氏が質問を行って北村大臣の辞任を迫る発言をした。
野党側の致命的なミスで形勢逆転
ところがこの後、野党側の致命的なミスが判明する。情報漏洩の根拠にしていたのは、高橋洋一氏が予算委員会前日の「2019年10月14日19:57」にツイートしたとする内容だった。
ところがネット上で複数論証され(参照:以下略ちゃんの逆襲、KSL-LIVE!)、またアゴラでも池田信夫が投稿したように、高橋氏が実際にツイートした時間は15日11:57だった。
これは、ツイッターにログインしないでツイートを見るとアメリカ太平洋標準時間(PST)で表示されるので、野党調査チームがそれを知らずに勘違いして証拠提示してしまったものと思われる。高橋氏が15日の国会中継を見た後に感想を書いたことは明らかだろう。
これにより形勢は一気に逆転。今井氏や柚木氏はバツが悪いのか週明けの29日夕方まで本件について一切言及せず、別のツイートをしてネット民に痛烈な批判に晒されている。
一方で、高橋氏が「役所の方から来たんですよ」などと述べたことについては田村和広氏がアゴラで指摘したように、「ある種のセールストーク」として誤解を招きかねないものだった。高橋氏はこれを受けて、原氏らと出演した動画番組で謝罪した。
高橋氏が謝罪して発言内容を訂正したこともあって、野党側の追及材料はまた一つ減少。今度は逆に「野党調査チームの証拠捏造疑惑」に対する追及を求める声が高まっており、誤った事実認識に基づいて情報漏洩を主張した今井氏や柚木氏らの発言を議事録から削除するかどうか論点に浮上しつつある。29日時点での形勢は野党側にさらに不利になってきたと言える。
③ 原氏に対する森ゆうこ氏の「断罪」発言
なお、今回の事態が錯綜した理由のもう一つの理由は、森氏の原氏に対する「断罪」発言を巡る動きだった。
森氏は15日に参議院予算委員会で質問した際、原氏について「(原氏が)国家公務員だったらあっせん利得、収賄で刑罰を受ける(行為をした)」などと発言。これに原氏が反発し、森氏の懲罰を議長に求める署名活動をネット上で開始。29日18時時点で6万人近い署名を集めている。
国会議員による不当な人権侵害を許さず、 森ゆうこ参議院議員の懲罰とさらなる対策の検討を求めます。
こちらは、野党側が主張する情報漏洩などの論点とは別に、原氏と毎日新聞の間で係争中でもある特区制度の問題をめぐる森氏の質問の中身の妥当性が問われている。
玉木代表は混乱を収拾できるのか?
森氏らが「情報漏洩」を主張し始めたが、官僚と思われる匿名アカウントの発信は森氏の質問の中身を暴露するような性格のものでは全くなかった。松井孝治氏が入手してツイッターで見せた質問者の「バッター表」も、公開の目的は「霞が関の働き方をめぐる疲弊を訴えること」であって、野党調査チームが主張するような「質問を封じ込めようとする意図的な漏洩」でなかったことは明らかだろう。
玉木氏が強いリーダーシップを取り、野党が今回の「質問通告」問題の発端にもう一度正面から向き合うことができるのかどうか。少なくとも今井議員らは国会で誤った情報をもとに質問を行った疑いが強まっており、議事録削除などの対応が求められることも十分考えられる。
また、新聞、テレビなどの政治記者たちもネットの動きを傍観するだけでなく、実際に報道することで、国会改革や霞が関の働き方改革論議につなげるべきではないだろうか。