野党の「日程闘争」が官僚のブラック労働を生む

池田 信夫

参議院インターネット中継より

森ゆうこ議員のパワハラ問題に、産経新聞以外のマスコミは沈黙を続けているが、朝日新聞は「論座」で米山隆一氏の「森ゆうこ議員の質問漏洩問題から見える日本の劣化」というコラムを掲載している。彼は「官僚を自称する複数のアカウント」のツイートについてこう書く。

私は、そもそも事実ではなくそれ自体不当な非難であったことを前提としたうえで、理由はさておき、台風を前に帰宅もできず、愚痴の一つも言いたくなったことは理解できます。しかし、相手の事情を確認もせず、あらゆる結果を仕事の相手方に帰責する形で個人を特定してあげつらったのは、通常の職業倫理からはおよそ考えられず、霞が関の劣化以外の何物でもないと思います。

これ以降の彼の議論は、官僚の情報が「事実ではなくそれ自体不当な非難であった」という前提で官僚を批判するものだが、この前提は誤っている。「森ゆうこ糞」などのハンドルネームで行われた批判は正確であり、質問通告は24:25までかかったことが確認されたので、米山氏の話はナンセンスである。

この事実関係は、アゴラに寄稿された他の官僚の指摘とも一致している。こういう長時間の待機は霞ヶ関では日常的であり、それが官僚の労働条件を著しく悪化させている。今回はそれが大型台風の接近の前夜になったので、多くの官僚が「家に帰れない」という怒りを ツイッターでぶつけただけだ。

「待機しなければいい」とか「質問通告は必要ない」 という意見もあるが、行政の細かい部分まですべて通暁している大臣はいない。ぶっつけ本番で質問したら「今は手元に資料がないので答えられない」という答弁ばかりになり、国会審議には膨大な時間がかかる。

それは野党には有利だ。 審議が長引くと、会期内に成立する法案が減るからだ。そこで自民党は野党に妥協する代わりに、重要法案の成立に協力してもらう。こういう裏取引をするのが国会対策委員長会談で、そういう「貸し」をつくるのが審議を止めるゴロツキ野党議員の役割だ。

アゴラでもう一人の官僚も指摘するように、諸悪の根源はこの世界に類をみない日程闘争である。野党はなるべく審議を引き延ばそうとし、与党は短くしようとするので、審議日程は毎週開かれる議運の交渉で決まり、1週間先の審議日程しか決めることができない。

だから野党の質問も行き当たりばったりで、項目だけ出して中身は後から考える議員も多い。審議を止めて大臣をどなりつけたら、テレビ中継では目立つが「野党は政府の仕事を妨害するだけで建設的な仕事は何もできない」という印象が強まり、いつまでも政権はとれない。

もう一つは、国会質問で名誉毀損に問われないという憲法の規定を悪用した疑いだ。森議員は憲法51条の免責特権を繰り返し強調しており、国会内で意図的に「収賄罪」という言葉を使った疑いが強い。これは国会を侮辱する脱法行為である。詳細は原英史氏の記事にゆずる。

米山氏のコラムは取るに足りないが、これが朝日新聞の立場だとすると問題は深刻だ。いつもは長時間労働を批判する朝日新聞も、官僚はいくら長時間労働してもいいと思っているらしい。彼らを「情報漏洩だ」と攻撃するゴロツキ議員から官僚を守る気もない。日本のジャーナリズムの劣化は救いがたい。

しかし今回の騒ぎは、国会運営を改革するチャンスである。国民民主党の玉木代表も、官僚OBとして事情を知っているはずだ。議員特権を悪用した森議員を処分し、日程闘争をやめて生産的な国会審議をすべきだ。その鍵は野党が握っている。