財政制度分科会(平成30年10月)の防衛予算に関する資料を読む⑥

財務省の財政制度分科会(平成30年10月24日開催)において防衛予算に関しても討議されまた。その資料を財務省がHPで公開しています

引き続きこれについて重要な指摘とその解説を行います。資料では米国防総省の調達ポリシーについて説明、防衛省の有るべき調達姿勢を示唆しています。

装備品の優先順位付け(戦略的な視点)

○ 米軍では、国家安全保障戦略(NSS)や国家防衛戦略(NDS)などの戦略体系に基づき、必要とされる統合作戦能力を定義し、軍全体の作戦能力・装備品要求を管理するとともにその優先順位付けを行う軍種横断的なシステム(JCIDS)が存在。

○ 我が国においても、陸海空の各幕が要求を積上げるのではなく、島嶼防衛や弾道ミサイル防衛の観点から、統合運用の観点を踏まえ装備品の優先順位を明確化し、必要性が認められても優先順位が低いものについては、調達時期の先送りなど適確なメリハリ付けを行っていくべきではないか。

米軍の取組(JCIDS)

・ 米軍では、冷戦後の不確実性の高まる状況に対応するため、装備品調達においても、戦略構想に基づき様々な脅威に対処可能な統合作戦能力(capability)を定義し、装備品の要求性能や必要数量をトップダウンで決定する能力ベースのアプローチ(Joint Capabilities Integration and Development System: JCIDS)を2003年に導入。

・ JCIDSの主要目的は、各コマンド・軍種からの統合作戦能力の要求につき、識別・評価・立証した上で、優先順位付けを行うこととされている。特に、作戦能力のポートフォリオマネジメントを通じ、軍全体の作戦能力要求の管理と優先順位付けが最も重要な目的と位置付けられている。

・ JCIDSの運用は統合参謀本部を中心に行われており、統合参謀本部副議長と各参謀本部次長で構成される統合要求監査評議会(Joint Requirements Oversight Council:JROC)が親組織となり、実務を担う下部委員会と各種作業部会で構成されている。

・ 装備品調達においては、こうしたJCIDSのプロセスを経た上で、その後の予算・調達プロセスにつながることになるが、状況変化によるプロジェクトの修正・中止等も見据え、これらのプロセスは循環的なものとされている。

JCIDSに期待される成果

例えば、2000年代初頭、陸軍が開発していた自走砲クルセーダーについて、冷戦時代の欧州に配備すれば効果的も、陸上目標の攻撃効果の観点で見た場合、大重量(40t以上)の自走砲より、戦闘爆撃機と誘導ミサイルの組み合わせの方が展開速度や効果に優れており、地域紛争等に介入しなければならない冷戦後の米軍には後者の方が適切であると判断され、開発中止に追い込まれたとされる。

米国会計検査院(GAO)の評価(2012年)

・ JROCでは、提案プロジェクトにつき、能力不要、能力削減、配備スケジュール見直し、追加調査などの見直しが一定程度行われている。

・ 他方、分析手法に改善の余地があり、例えば、優先度の高い統合能力と軍種固有能力の峻別、過剰能力の削減による節減、延命により現有プログラムを延長した場合と提案プログラムのコスト比較などを見れば、活用できるリソースとバランスの取れた要求となっているか審査する上で有益。

財務省はコストパフォーマンスの重視すべきと主張しています。

装備品の優先順位付け(コストパフォーマンスの視点)(P23)

○ 特定の作戦能力が必要とされても、装備品の調達においては、コストパフォーマンスの観点からの検討が不可欠。

○ 例えば、陸上偵察においては安価な小型無人偵察機(ドローン)が主要国の軍隊で普及しており、旧来装備品中心の我が国においてもその活用を図っていくべきではないか。

○ また、装備品のコストパフォーマンスを的確に把握するため、ライフサイクルコストのみならず、他の基準を用いた分析も行うべきではないか。例えば、米国防総省の取組のように航空機を飛行時間1時間当たりのコストで比較することで、より費用対効果の高い装備品調達を行うべきではないか。

率直に申し上げて、防衛省自衛隊は世界の趨勢を知らないし、知ろうとしない田舎者です。しかも自分たちが賢いと思い込んでいるからたちが悪い。そのうえ装備調達に無関心で専門記者を取材機会から排除している記者クラブ制度のせいもあって、情報開示が他の国家より遅れておりメディアや政治が検証することが難しいのが現状です。

すでにご案内のようにぼくは約10年前に技術研究本部の海外視察費用は約92万円でぼくの取材費よりすくなく、それも将官の退職慰労の「卒業旅行」に使われており、情報収集する気がないことを暴露しました。これを何度も執拗に繰り返した結果、海外視察費は増えていますが、未だに不十分です。

世界の動向に無関心で、組織内の「ムラの政治」と「ムラの事情」だけが優先されます。無人機、ドローンの導入が途上国よりも遅れているはそれが大きな原因です。

上の表のように軍オタさんたちが絶賛するC-2輸送機のコストパフォーマンスはたいへん悪い。

一機あたりのライフサイクルコスト(LCC)はC-2が635億円、C130Jが94億円、C-17が349億円ですが、最大ペイロードで割ってみるとC-2は(表では36tとされていますが26t程度ですから26tで計算する)、24.42億円、C-130Jが(同様にジェーンズの年鑑によれば約19t)4.94億円、C-17が(同様に77t)4.53億円です。

C-2のLCCは他の二機種に比べて5.4倍も高い、ということになります。

同様に1機あたりの単価もペイロードのトン数で割ってみると、C-2が8億円、C-130Jが4.47億円、C-17が2.94億円です。C-2の価格はC-130 の1.8倍、C-17の2.7倍とこれまた極めて高いということになります。

そして1機あたりの1時間あたりの運用・維持管理コストをペイロードトン数で割ってみると、C-2が10.53万円、C-130Jが3.25万円、C-17 が1.95万円となります。C-2のコストは3.24倍、C-17の5.4倍です。これもまたC-2が飛び抜けて高い。

果たしてこのような極めてコストの高い航空機を国産開発する必要があったか。調達数は上をみても30機(+電子戦機など数機)ですが実際は22機で調達終了です。開発コストを頭割りすれば高くなるのは子供でも分かる話です。そこまでして大型軍用機を国産開発する必要性が本当にあったのか、もっと安く調達できる手段はなかったのか検証する必要があるでしょう。しかもその技術の継承もP-1を同時に開発したのでこれも難しい。

更に申せば、C-1退役による少量輸送を行う機体がなくなるし、C-130Hも老朽化する、更に諸外国では当然保有している特殊作戦用輸送機すらないのに空幕は輸送機のポートフォリオの構想を持っていない。防衛省、空幕に当事者意識&能力が欠如しているとしかいいようがありません。金勘定ができず、国産機欲しいと駄々をこねるならそこいらの程度の悪い軍オタと同じです。

■本日の市ヶ谷の噂■
海自のおおすみ級輸送艦の仕様作成時、陸幕は間抜けにも車輌搭載の要求だけを出し、ヘリの運用要求を出さなかったので陸自ヘリの運用をまともに考えておらず、後に海外災害派遣時にCH-47は飛行甲板に野ざらしとなって塩害をもろに受けることとなったとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。