日産が後押ししたフィアットとプジョーの合併協議

フィアット クライスラー オートモービルズ(FCA)とフランスのグループ(PSA)が合併する方向のようです。早ければ明日にも発表されるとされています。これに一番驚ているのはルノーの幹部と日産ではないかと思います。「逃げた獲物は大きかった」かもしれません。

Martin Abegglen、Ivan Radic/flickr:編集部

FCAは亡くなったカリスマ的経営者だったマルキオーネ氏の遺志をジョン エルカン会長が引き継ぎ、積極攻勢をすべく展開をしていました。欧州自動車再編についてはFCAが台風の目で当初PSAとの合併話があったのですが、一旦流れ、その後、ルノーグループとの交渉に入りました。これは大きく報じられていたのでご記憶にある方と多いと思います。

仮にFCAとルノー/日産が一緒になれば販売台数だけを見れば世界ダントツの一位となるところでした。ところが一般に言われているのはルノーを持つフランス政府が主導権を取りたかったことでFCAが嫌がったということになっています。本当でしょうか?ならば今回のPSAについてはどう説明できるのでしょうか?

PSAの株主はプジョー家、フランス政府、中国の東風自動車がそれぞれ13.68%持ちますが、フランスのフロランジュ法で2年以上株主なら議決権2倍ですからこの3者がほぼ経営をコントロールできます。こうみるとルノーとFCAの幻に終わった合併劇の破談は日産との確執に主因があったとみるべきでしょう。

あの破談劇の後もFCAとルノーは水面下で再交渉を探っているとされており、それはルノー/日産/三菱の確固たる体制と各社の経営の見込みを分析していたとみられます。その間、日産は西川氏をゴーン体制の名残として切り、山内康裕氏を暫定CEOとします。その間、経産省の天下りの豊田正和氏が委員長の指名委員会で新経営陣の選定を行いました。ゴーン体制なら絶対に経産省の天下りがそこに入り込む余地はなかったはずです。

その結果、新CEOに内田誠氏、新COOにアシュワニ グプタ氏を選任、1月からこの体制で行うと発表しました。エルカン会長がPSAとの交渉を進めることを決めたのはこの人事を見たのだと思います。

内田誠氏(日産サイトより:編集部)

申し訳ないのですが、内田氏は全く無名で業績についてもサラリーマン的出世街道です。同志社神学部卒業、日商岩井に12年勤め、その後、日産に移りルノーサムソンに出向したり近年は東風日産に籍を置いていました。また、COOのグプタ氏はルノーの在籍は短いのですが、一応、ルノーからのお目付け役ということなのでしょう。FCAはこの人事で苦境の日産は復活しないとみたのではないでしょうか?

日産はこのところ、一人負けの状況にありますが、それは新型車が出ない点にあります。売れ線だったエクストレイルもトヨタのRAV4に食われました。(来年にエクストレイルのE-Power版が出るので回復するかもしれませんが。)技術の日産としてスカイラインに先端技術の盛り込みましたが、今、スカイラインの時代ではありません。近年は月に200台程度しか売れなかった車に今更スポットライトを当てるマーケティングがさっぱりわからないです。

要するに自動車会社がMaaSの時代においてハードからソフトにシフトしていく中でそのピクチャーを描ける大役を新経営陣が担えるのか、これが見えない中、ルノーと日産の綱引きが水面下で引き続き行われることをリスクと見たとも言えるのでしょう。

世界の自動車会社は新たなる再編に向かう可能性はあります。それは時代の変化が業界の在り方をそっくり変えるからです。例えばテスラを評価するかといえば車自体の性能ではなく、人々の電気自動車への認識を変えたという点で画期的なのです。日本にいる方にはあまり感じないかもしれませんが、北米ではテスラがあまりにもプレゼンスが大きいのです。

自動運転もコネクティビティもそれは進化の一環でそれらが組み合わされてどこでどのような最終形を示すのか、模索しているのが現状です。それに向かうには自動車会社の地球レベルでの影響力をより広く、深く持つことで生き残るという選択肢は正しいのでしょう。ならば今回のFCAとPSAが仮に合併すればルノーは次の戦略をすぐに打ち出さねばならないということになります。その時、日産が主導できるか、それには車が売れ、利益出て、配当ができる力が必要です。今の日産にはそれには5年以上、後塵を拝しているという感じがいたします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年10月31日の記事より転載させていただきました。