スポーツの秋に:我々がもらう最高の勇気とは

【起】

今年は大きな被害をもたらした台風をはじめ、非常に雨天の日が多い。「スポーツの秋」という表現があるが、我が家では、そんな言葉も暴風に吹き飛ばされてしまった感がある。例年だともう少し日曜などに子どもたちと公園でキャッチボールをしたりバドミントンをしたり、という機会があるのだが、今年はそれもかなわず、子どもたちの運動会も中止や短縮実施に追い込まれている。

きなこもち/写真AC(編集部)

ただ「する」スポーツはともかく、今秋は「観る」スポーツは盛んであった。毎年恒例のプロ野球の日本シリーズが「かすんで」しまうくらい、10月は日本中がスポーツ観戦に明け暮れた。男子が4位、女子が5位と日本勢が大活躍したバレーボールのワールドカップ(余談ながら最近知ったのだが、4年に1度の祭典ながら毎回日本でやるそうだ)、競歩で二つの金メダルを日本勢が獲得した世界陸上(2年に1度の祭典)、タイガー・ウッズ(1位)と松山英樹(2位)の死闘が繰り広げられた日本初開催のゴルフの米ツアー選手権などなどに多くの日本人が手に汗を握ったことと思う。

【承】

しかし、おそらく国民的に最も強烈なインパクトをもたらしたのが、日本初開催のラグビーワールドカップでの日本代表の活躍であろう。ティア1と言われる強豪チーム(10チーム)の強さが圧倒的で、番狂わせがないと言われるこの競技で、アイルランドやスコットランドといった難敵をなぎ倒してベスト8に進出したのは掛け値なしに凄い。日本は予選A組を1位通過しており、実質的には5〜6位であろう。現在の世界ランクは8位であり、ティア1の一角に食い込んだのは「あっぱれ」としか言い様がない。

ラグビーワールドカップ公式Facebookより:編集部

強いチームが予定調和的に勝利するのを味わうのも一興ではあるが、やはり、個人的にはスポーツの醍醐味は、「無理な状況」「勝てない状況」からの逆転だ。自分より強い者に立ち向かい、あきらめずに勝利を得る姿に我々は最高の勇気をもらう。これこそがスポーツ観戦の最大の魅力ではないか。

ラグビーというスポーツは、泥臭い肉弾戦が繰り広げられるという意味で、最も象徴的な「挑戦」「勇気」のスポーツだ。特に、私のように父親の影響で物心ついた時からラグビー観戦をしていて、日本の世界での立ち位置を知っている身としては(例えば95年に日本は、ワールドカップでの最多失点(145点)という不名誉な記録を作り、未だに破られていない。。。)、涙が出る一か月であった。

【転】

少し昔の思い出話にはなるが、スポーツがくれた勇気という意味では、個人的には19歳の時に忘れられない記憶がある。不本意にも大学受験に失敗して浪人することになり、沈んだ気持ちで予備校に通っていた19歳の夏。高校野球の埼玉県大会でノーシード校である自分の母校が、まさかのベスト8進出をしていることを知った。

写真AC:編集部

母校はかつて強豪校だったが、野球特待生制度も廃止され、有名監督は去り、当時の監督はサッカー経験しかない普通の体育教員が務めていた。1回戦で第二シードの学校に負けるはずの母校が何故か逆転勝ちをした際、不思議な歯車が回りだしたようだ。なんと一度も先取点を取ったことがなく、全試合逆転勝ちをしていたのだ。

たまらず予備校をサボり、ローカルテレビから流れる選手たちを食い入るように見た。自分と1〜2歳しか違わない後輩たちが、あきらめず白球にくらいつく様子。四番を含め、チーム打率は強豪校に比べて低くともチャンスが来ると不思議につながる打線。結局、母校は、9回ツーアウトまで追い込まれた際も逆転し、「予選全試合逆転勝ち」という異例の形で甲子園出場を決めた。

どんなに追い込まれても勝てることはある、そう実感した瞬間だった。その後、私は大学入試センター試験で信じられない大失敗をしたが、母校の野球部の雄姿を胸に、志望校を落とすことなく二次試験にチャレンジ。逆転で第一志望校に合格した。「挑戦する」という人生のダンスのステップの踏み方がわかった気がした。

【結】

その後、ラグビー日本代表とは比べるべくもないが、自分なりに霞が関の中や外で、何か大きなものと闘う形でのチャレンジを重ね、今は、縁あって、リーダーシップ(=始動力)論を青山社中リーダー塾や青山社中リーダーシップ公共政策学校などで教える身となっている。つくづく感じることは、始動するとは即ち挑戦することであり、挑戦とは、「無理なこと」「当たり前でないこと」を「当たり前」にするべく必死に汗をかくことである。

このダンスのステップを踏むことは、考え方によってはとてもしんどいが、やり切った時の爽快感はまた格別だ。ただ、我慢する、頑張るのではない。誰も見たことのない景色を見るために「挑戦」するのだ。その意味で、ラグビーの日本代表は、信じられない光景を見るため、見せるために「挑戦」してくれたのだと思う。

ラグビーワールドカップ公式Facebookより:編集部

実力が伴わない、日本ではファンが少なくて盛り上がらない、などと陰口を叩かれながら何年も前から招致活動をして運営をしてくださった選手以外の方々も含め。

朝比奈  一郎    青山社中株式会社  筆頭代表(CEO)

1973年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。経済産業省ではエネルギー政策、インフラ輸出政策、経済協力政策、特殊法人・独立行政法人改革などを担当した。 経産省退職後、2010年に青山社中株式会社を設立。政策支援・シンクタンク、コンサルティング業務、教育・リーダー育成を行う。中央大学客員教授、秀明大学客員教授、全国各地の自治体アドバイザー、内閣官房地域活性化伝道師、内閣府クールジャパン地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授なども務める。「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」初代代表。青山社中公式サイトはこちら