ベネズエラ:チャベス前大統領の娘の資金洗浄と豪華な生活の実態

ベネズエラは、食料難、強度のハイパーインフレ、医師と医薬品不足などで今年末までに外国への脱出者は600万人を越えるまでになると予測されている。石油の埋蔵量は世界最大級とされ経済も成長していたのに、チャベスとマドゥロの二代の大統領による「社会主義革命」と称する独裁政治で国家は一挙に崩壊した。

豊かだった国を僅か20年で崩壊させたは異例である。

そして皮肉にも、ベネズエラ一の富豪が国を崩壊させたチャベスの娘マリア・ガブリエラ・チャベスだというのは皮肉である。彼女はチャベス前大統領の遺産を受け継いだのである。彼女の異母妹レシネスもその恩恵を受けてはいるが、マリア・ガブリエラほどではない。

ベネズエラは国のGDPの6割以上をタックス・ヘイヴンに隠していたされている。IMFの報告によると、2007年にはその額は1380億ドル(14兆9000億円)にまで及んだと推定されている。同年のGDPは2300億ドルだった(24兆8400億円)。(参照:alnavio.com

それを指揮したのはチャベスとマドゥロの2人だ。彼らそして彼らを囲む側近らはそこから私腹を肥やしていたというわけだ。ちなみに、同じようにGDPの45%を隠してるのがロシア、サウジは50%、アラブ首長国連邦は70%と推定されている。(参照:alnavio.com

チャベスの娘が「富豪」だというのもチャベスがそのようにして貯めた資金を譲り受けたということだ。

その彼女が使っていた銀行口座が見つかっている。彼女が国連でのベネズエラ大使代理に任免されてから2週間後にマイアミのMercantil Commercebankに開設された口座だった。それが資金洗浄に使用されていたという疑いが発生した2016年に閉鎖されるまでの動きが明らかにされたのであった。口座の名義人は彼女のフィアンセとされていたベネズエラ人で弁護士のロベルト・レイバだった。(参照:diariolasamericas.com

この口座から引き落とされることになっていたクレジットカードが使用された場所としてシャネル、ルイ・ヴィトン、ウーゴ・ボス、マイケル・コス、ケネス・コールといった高級ショップが名を連ねていた。

例えば、2015年10月23-26日の僅か3日間に彼氏のレイバと一緒にマンハッタン・ミッドタウンのシャネルのショップで9000ドル(97万2000円)を使っている。そこは国連本部から12分の場所にあり、香水、時計、財布、靴、サングラス、宝石類などが販売されている。2015年と言えば、いろいろな社会問題による生活苦のためにベネズエラの市民が外国に移民を積極的に始めた年であった。その年にマリア・ガブリエラ・チャベスは父親が違法に貯めた資金で豪華な生活を謳歌していたのであった。

彼女が好んでいたショップにはフォーエバー21で2回の買い物で2300ドル(24万8000円)、ランジェリーのヴィクロリア・シークレットで3回訪れ1000ドル(10万8000円)、タイムズスクエアーのMACを4回訪問して1600ドル(17万3000円)といった買い物をしている。

バッグ類のショップトゥミでは4000ドル(43万2000円)の買い物をしている。

また著名なシューズショップへの訪問も欠かすことなく3か月で2300ドル(24万8000円)を使っている。

2015年末から2016年半ばまでキプロス銀行から数十回の送金の入金が記録されている。船の買い付けに絡む手数料の支払いだとされている。それ以外に複数の送金で総額125万ドル(1億3500万円)の入金がある。フェリーの購入に絡む法的コンサルタント料だとしている。

彼女が国連のベネズエラ代理大使だった時はマンハッタンのダウンタウン地区に住んでいた。給料は8500ドル(91万8000円)、マンションはベネズエラが米国にもっている石油企業CITGOが支払っていた。彼女の国連での出席率は悪かった。その理由のひとつに当時のベネズエラ国連大使ラファエル・ラミレスとは仲が良くなかったのが理由として挙げられている。

2年前にマドゥロ大統領が国連を訪問した時にも彼女は欠席した。それをベテランの外交官が匿名という条件で明らかにしたそうだ。なお、彼女は2019年2月に大使代理の任務を辞任している。マドゥロはチャベスのお陰で大統領になった身だ。その娘の前では何も批判は言えない立場にある。

彼女が代理大使に就任する前の2014年6月にアルゼンチン紙「Clarin」がベネズエラの食料を輸出したアルゼンチンの企業ビオアート社に彼女が絡んでいたことを暴露したのである。

その翌月に反政府派の二人の議員アベラルド・ディアスとオメロ・ルイスが調査の結果、マリア・ガブリエラ・チャベスがコメ41000トンとトウモロコシ28000トンの輸出にその総額1550万ドル(16億7400万円)に彼女への30%が手数料として上積みされていたことを明らかにしたのであった。ビオアート社の役員がカラカスで彼女と会ってから契約が決まったということだ。(参照:diariolasamericas.com

この出来事が公に知られるようになってから、メディアは彼女のことを「コメの女王」と呼ぶようになった。

彼女の彼氏レイバにも同じような出来事があった。彼が銀行にフェリー船の購入で1160万ドル(12億5300万円)の融資を依頼した時にそのコストは500万ドル(5億4000万円)であるということを彼の仕事仲間が告発したことから銀行で赤信号が点灯したという出来事があった。

マリア・ガブリエラは2018年11月には当時の検事総長だったルイサ・オルテガ・ディアスから起訴された。10億ドル(1080億円)以上の賄賂をもらったアンドゥラデから恩恵を受けていたというのが理由だった。そして彼女には資金洗浄で二つの容疑が科せられていた。しかし、ルイサ・オルテガ・ディアス自身もマドゥロらの汚職を追跡しようとして解任されて彼女の夫と一緒にコロンビアに亡命した。

今年4月にまた彼女のことが話題になった。ベネズエラに送還するように15万人の署名が集まったのだ。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家