財政制度分科会(平成30年10月)の防衛予算に関する資料を読む⑧

財務省の財政制度分科会(平成30年10月24日開催)において防衛予算に関しても討議されまた。その資料を財務省がHPで公開しています

引き続きこれについて重要な指摘とその解説を行います。資料では米国防総省の調達ポリシーについて説明、防衛省の有るべき調達姿勢を示唆しています。

防衛費の硬直性をここでは指摘しています。

Wikipedia

防衛関係費の構造(P36)

○ 防衛関係費は、義務的経費である①人件・糧食費と②歳出化経費(過去の装備品等の調達の後年度負担)が、その8割を占めており、硬直的な構造になっている。

○ 特に、新規の後年度負担(国庫債務負担行為等)は、翌年度以降の歳出化経費として予算の硬直化の要因となるため、その水準はできる限り抑制していく必要がある。

30年度の後年度負担合計50,768億円です。 ツケ払い、「リボ払い」を減らす必要があります。無論装備は発注してから完成・納入まで何年も係るものありそれについては仕方がない。ですが当年支払いゼロで全額後年に回すようなケースが多々見られます。何でもかんでも後払い、というのは常軌を逸しています。

これによって予算が硬直化し、無人機やネットワーク、サイバーなどへの投資が、導入が遅れているとも言えます。予算の硬直化は変化に対応する対応力も奪っています。

米国における防衛装備品調達に関する人材育成(P47)

米国の装備調達の実態を紹介しています。

○ 国防総省契約監査局(契約監査や契約管理等を行う機関)の職員の3分の1程度が公認会計士等の有資格者。また、国防総省のEVM(Earned Value Management)分析官の半数近くが企業財務を専門分野としている。

○ 米国会計検査院は、国防総省による装備品の効率的な取得を促すため、民間企業の取組等を踏まえて作成した評価指標に基づき、プロジェクトマネジャーの人材育成について評価を実施している。

国防総省契約監査局の職員構成
職員合計 4,640人(100%)
公認会計士 1,130人 (24%)
その他の資格 508人 (11%)

公認会計士の資格者が多いことがわかります。また財務省は英独仏など我が国と予算規模が近い国の調達システムを分析して、それを公表して欲しいと思います。

国防総省契約監査局(The Defense Contract Audit Agency)(P48)
○ 国防総省契約監査局(DCAA)は、1965年に設立され、米国防総省の下で契約監査や国防総省内の調達や契約管理を実施する部局に対し、財政上及び会計上の観点から監査・助言を行う機関。

○ 契約前及び事業終了後の契約価格の精査を実施しており、活動の成果は毎年議会に報告することとされている。

米国においては議会の監視が強いことがわかります。更に各議員は多くの政策スタッフを雇用しています。対して日本では議会が弱い。政治家がマトモに情報を得ていません。これの原因の一つには、我が国の国会では秘密会議が開けないからです。会議に参加した議員や官僚からあっという間に秘密が漏れる。これもなんとかする必要があります。

あとは記者クラブも問題です。記者クラブメディアには専門記者は少ない、防衛省に詰めているのは若手の記者で軍事の基礎的な素養もなく、役所としての防衛省を担当しているだけです。このため予算や装備に興味ない。そしてその記者クラブが、他の媒体やフリーランスのジャーナリストを締め出している。

締め出しているのは会見だけではありません。各種レクチャー、視察ツアー、勉強会、交流会など殆どの取材機会は記者クラブに独占されています。そして記者クラブは基本当局との良好な関係の維持だけを重要視しますから、厳しい情報開示を要求しません。ですから防衛装備に関しても防衛省は何でも秘密扱いにします。記者クラブ制度は報道の癌といっても過言ではないでしょう。

原価監査の強化(P49)

財務省は原価監査の強化を提言しています。

○ 原価監査付契約は、あらかじめ金額を確定することが困難な場合に採用することとされており、試作品の製作や量産初期段階の装備品の調達等に活用されている。

○ 三菱電機等による過大請求事案を受けて平成24年12月に防衛省が公表した再発防止策に基づき、原価監査の体制・手法の強化(常駐監査の拡大、抜打ち監査の励行等)がなされた一方で、原価監査付契約がコスト上振れのリスクを企業側に負わせると同時にコスト実績を積み上げる動機ともなっていることに鑑み、確定契約への移行が進められたことなどにより、原価監査付契約は近年減少傾向にある。

○ 調達の効率化を図るため、原価監査を強化するべきではないか。例えば、対象範囲を拡大し、量産中期以降の確定契約についても定期的に原価監査を行うこととし、監査結果を以後の契約に活用してはどうか。

○ また、原価計算や監査実務の経験がほぼ無く退職が近い者が原価監査官となっているケースも見受けられる。原価監査の質を高めるため、実務に精通した民間人の活用や職員の人材育成の強化を図るべきではないか。

現状防衛省の原価計算は大変甘い。それは専門知識と経験を有している職員が少ないことと、そもそも職員数が少ないことも問題です。部隊を削減してもこれらの要員の量と質を確保すべきです。

本来、装備庁ができるときには、外部の調達の専門家を入れるという話があったはずです。また財務省もことあるごとに外部の専門家を入れろとアドバイスしてきたと聞いております。やはり防衛省には当事者意識&能力が欠如しているのでしょう。またこのような状態を放置してきたNSCにもその責任があるかと思います。

そもそも普通の国であれば他国の7~10倍もするような火器などを買うことはできません。そのような野放図な調達が何故続いているのかをキチンと政治も考えるべきです。

■本日の市ヶ谷の噂■
防衛医科大学校では私室はもちろん、図書館を含めてWiFiがない(防大ですら居室に無料のWiFiがある)、昭和の軍医養成機関だと学生から不満が強いとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。