れいわ新選組・共産党の「消費税廃止」の主張
れいわ新選組(前参議院議員山本太郎代表)と共産党は、もともと「低所得層に負担が重い不公平税制」などを理由に、「消費税廃止」を主張していたが、今回、消費税が8%から10%に引き上げられたため、当面は消費税5%への減税を主張し、立憲・国民などの他の野党に消費税5%での共闘を呼びかけている。
さらに、最近では、「れいわ新選組」の山本代表と元国土交通相・馬淵澄夫衆議院議員が、消費税廃止等を目指す「消費税減税研究会」を共同で立ち上げ、一部野党議員らもこれに参加している。
大企業・富裕層への課税強化は妥当か
2019年度の一般会計予算では消費税収は約20兆円である。れいわ新選組や共産党は、現行の消費税収20兆円に代わる新たな財源は、主として大企業や富裕層への「応分の負担」即ち、課税強化等によって確保できると主張している。
しかし、2019年度の日本の法人税の実効税率(国税と地方税の合算)は29.74%であり、これは、米国25.89%、スペイン25.00%、スウエーデン21.40%、英国19.00%などの欧米先進諸国に比べて相当に高い。
さらに、日本の大企業は、税金以外にも、従業員の社会保険料半額負担、高額な退職金支給、社内年金、「山の家」「海の家」など各種福利厚生等、従業員のために諸々の負担出費をしている。
また、2015年以降の個人所得税は、富裕層とされる所得4000万円超で税率45%であり、地方税10%を加算すると最高税率55%になる。これはOECD35か国中4番目の高さである(内閣府資料)。
そのうえ、2015年以降の相続税の最高税率は55%であり、3代が相続すると遺産は20%しか残らない。これは、米国40%、英国40%、フランス40%、ドイツ30%の最高税率と比べて高い。相続税のない国も多く、イタリア、カナダ、オーストラリアなどはない。スウエーデンは2004年廃止、ニュージーランドは1992年廃止された。
大企業・富裕層への課税強化で財源確保は到底不可能
このように、日本では、すでに大企業、富裕層への税率は先進諸国に比べて相当に高い。そのうえ、日本の大企業は、前記の通り、税金以外にも、従業員のために諸々の負担出費をしている。したがって、大企業、富裕層への課税強化による税収増には限界があり、消費税廃止分の財源20兆円を確保すことなど到底不可能である。このことは、れいわ新選組も共産党も百も承知であるに違いない。
のみならず、法人税の課税強化は、世界各国における法人税引き下げの流れに完全に逆行する政策であり、大企業の価格競争力すなわち国際競争力の著しい低下を招き、日本経済に深刻な打撃を与え、経済全体を悪化させる。そのため、かえって、所得税、法人税など、税収全体を減少させる。
また、大企業や富裕層への課税強化は、人、物、金、知財、企業の海外流出を促進し、日本の国力を低下させる(2019年8月16日付け「アゴラ」掲載拙稿「共産党による大企業課税強化は日本経済に深刻な打撃」参照)。
消費税は世界152か国で導入実施されている
消費税は、ヨーロッパでは「付加価値税」、米国では「売上税」と呼ばれているが、いずれも買い物をしたときに支払う税金である。
「全国間税会総連合会」によると、世界で消費税を導入する国は、2017年4月時点で152か国にも達している。標準税率は、スウエーデン25%、デンマーク25%、フランス20%、英国20%など、ヨーロッパ諸国は概ね20%~25%であり、食料品など生活必需品は概ね0%~5%の軽減税率となっている。アジア諸国では、中国17%、ニュージーランド15%、フィリピン12%、韓国10%、などとなっている。
北欧などヨーロッパ諸国で消費税の標準税率が比較的高い理由は、社会保障・社会福祉が手厚く充実し、その重要な「安定財源」として活用されているからである。
「消費税廃止」で大企業は課税強化分を商品価格に転嫁
れいわ新選組や共産党は、「消費税廃止」に代わる財源は大企業などへの「応分の負担」即ち、課税強化等で確保できると主張している。
しかし、大企業への課税強化は、企業にとっては、経営コスト※がその分増加することを意味する。したがって、企業経営上の経済合理性からすれば、大企業は課税強化分を商品やサービスの価格に上乗せし転嫁するのは当然であり、結局、大企業の商品やサービスを購入する一般消費者が、大企業への課税強化分を負担することになる。
よって、一般消費者にとっては、「消費税廃止」は名目だけであり、実質は大企業への課税強化により商品価格に上乗せ転嫁された商品の購入により、「実質消費税」を負担することになるから、「消費税廃止」の実質的メリットは極めて乏しいのである。
「消費税廃止」は目先の大衆迎合・選挙目当ての暴論
以上の通り、(1)「消費税廃止」により現行の消費税収20兆円に代わる新たな財源確保が到底不可能であること、(2)消費税を廃止しても、大企業は課税強化分を商品価格に上乗せ転嫁し、結局は商品を購入する一般消費者が負担すること、(3)「消費税廃止」による大企業への課税強化は世界の流れに逆行し、日本の国際競争力を低下させ日本経済に深刻な打撃を与えること、(4)「消費税廃止」による大企業・富裕層への課税強化は、人・物・金・知財・企業の海外流出を促進し、日本の国力の低下させること、など「消費税廃止」は極めて深刻な悪影響がある(2019年10月7日付け「アゴラ」掲載拙稿「れいわ・共産の消費税廃止で社会保障は破綻しないか」参照)。
そのうえ、消費税は、景気の動向に左右されない、社会保障・社会福祉のための合理的且つ有効な「安定財源」として、広く世界各国で活用され、実に世界の152か国でも導入され実施されている極めて重要な税制である。
よって、れいわ新選組や共産党が主張する「消費税廃止」は、上記の極めて深刻な悪影響があるのみならず、消費税を社会保障・社会福祉の極めて重要な「安定財源」として活用している世界各国の流れに逆行し、日本の社会保障制度を根底から破壊し破綻させる、目先の「大衆迎合」「選挙目当て」の「暴論」と言わざるを得ない。
有権者には特に冷静で賢明な判断が求められるのである。
※編集部より(訂正 5日朝):「生産コスト」としていましたが、筆者の申し出により「経営コスト」に訂正しました。
加藤 成一(かとう せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。