れいわ・共産の「消費税廃止」で社会保障は破綻しないか

れいわ新選組と日本共産党の「消費税廃止合意」

れいわ新選組(山本太郎代表)と日本共産党は、9月12日党首会談を行い、共産党提唱の「野党連合政権」の成立に向けて両党が協力すること、「消費税廃止」を目標とし、消費税に代わる財源などは継続協議とすることで合意した(「しんぶん赤旗日曜版」9月22日号)。「消費税廃止」は、れいわ新選組のいわば「看板政策」であり、共産党も従来から「消費税廃止」を主張してきた。

野党連合政権へ協力合意した志位氏、山本氏(赤旗Facebookより=編集部)

消費税に代わる新たな財源20兆円をどうするのか

2019年度の一般会計予算は、歳出101兆4564憶円のうち社会保障費は34兆587 憶円で33.56%を占める。これに対し、歳入は税収62兆4950憶円、その他の収入6兆3016憶円、国債32 兆6598億円、国債依存度32.2%である。税収のうち消費税は19兆3920憶円であり、消費税依存度は19.5%である。

したがって、仮に消費税を廃止した場合は、約20兆円もの消費税に代わる新たな財源がたちまち必要になる。

両党の消費税に代わる新たな財源対策

れいわ新選組の消費税に代わる新たな20兆円の財源対策は、デフレ下での新規国債発行による大胆な金融財政政策による景気回復・経済成長により税収を増やすこと、及び大企業・富裕層に対する「応能負担」による財源確保を主張している。

一方、共産党の消費税に代わる新たな20兆円の財源対策は、大企業と富裕層への優遇・不公平税制を見直し「応分の負担」を求めることにより6~7兆円。富裕層優遇の証券税制を是正し最高税率引き上げで3兆円程度。為替取引税・富裕税・環境税の創設により2~3兆円。膨張する軍事費や無駄な大型開発削減により3兆円。消費税減税・暮らし応援の政策転換で経済の好循環を実現し、税収を数兆円~10兆円規模で増やすと主張している(「しんぶん赤旗日曜版」10月6日号)。

日本の大企業・富裕層に対する税率は先進諸国よりも高い

両党の消費税に代わる新たな20兆円の財源対策の中心は大企業・富裕層への課税強化である。しかし、2019年度の日本の法人税の実効税率(国税・地方税の合計)は29.74%である。

これは、イタリア 27.81%、韓国 27.50%、カナダ 26.80%、米国 25.89%、オランダ 25.00%、オーストリア 25. 00%、スペイン 25.00%、イスラエル 23.00%、トルコ22.00%、デンマーク22.00 %、ノルウェイ22.00%、スウェーデン 21.40%、スイス 21.15%、フィンランド 20.00%、英国 19.00%、リトアニア 15.00%、アイルランド 12.50%、ハンガリー 9.00%の各国の実効税率に比べて、日本の実効税率は明らかに高い(出典:OECD -TAXDATABASE)。

一方、2015年分以降の個人所得税は、富裕層とされる所得4000万円超で税率45%であり、これに地方税10%が加算されるから、最高税率は55%になる。これはOECD加盟35か国中4番目の高さである(内閣府資料)。そのうえ、2015年分以降の相続税の最高税率は55%であり、3代が相続すると資産は20%しか残らない。

このように日本は個人所得税・相続税共に先進諸国に比べて高いため、これを回避するための海外移住や資産の海外移転が増加している。2016年には海外長期滞在者87万人、永住者46万人に達した(外務省調査)。

大企業等への課税強化は、日本経済に深刻な打撃

このように、日本では、すでに大企業及び富裕層への税率は先進諸国に比べて明らかに高い。それにもかかわらず、さらに両党が主張するような、更なる課税強化を強行した場合には、大企業の国際競争力の低下や海外移転、富裕層の海外移住や資産の海外移転等が起こり、日本経済の成長発展にとって深刻な打撃となる。大企業等への課税強化で経済が悪化し、かえって、法人税、所得税をはじめ、税収全体が落ち込む恐れが大きい。

よって、両党の、主として、大企業・富裕層への課税強化などにより消費税に代わる新たな財源が確保できるとの主張は、極めて非現実的であるのみならず、日本経済にとって深刻な打撃となる(2019年8月16日付け「アゴラ」掲載拙稿「共産党による大企業課税強化は日本経済に深刻な打撃」参照)。

大企業への課税強化は世界の流れに逆行

近年、法人税率の低下傾向が世界各国の流れであるところ、両党のような大企業に対する課税強化は、日本だけがこの流れに完全に逆行するものとなり、大企業の価格競争力、すなわち国際競争力を低下させることは確実である。

のみならず、仮に消費税を廃止しても、その分を大企業への課税強化で賄えば、大企業は経営上課税強化された分を商品価格に転嫁せざるを得ないから、結局は課税強化された分を消費者が負担することになり、消費者にとっては消費税廃止の意味も効果もなくなるのである。

「消費税廃止」で社会保障制度破綻の危険性

社会保障制度の財源は、その時々の景気動向によって大きく左右されない安定財源が必要とされる。法人税や所得税は景気動向によって大きく左右される。しかし、消費税は景気動向に左右されにくいため、社会保障制度の安定に欠かせない極めて重要な財源である。

このように社会保障制度の安定に不可欠な消費税を廃止し、主として、景気の動向に左右される大企業や富裕層に対する課税強化などで、消費税に代わる新たな財源を確保すると主張する、れいわ新選組と日本共産党の政策は、前記の通り、財源確保が極めて非現実的だ。

日本経済に深刻な打撃を与える恐れがあり、日本の社会保障制度を破綻させる危険性が極めて大きいと言わざるを得ない。有権者には冷静な判断が求められよう。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。