銀行をスルメではなくイカとして扱う金融庁

生きたイカとしての人間を客観的諸属性に還元すれば、死んで干からびたスルメになる。金融庁は、金融機関に顧客本位の業務運営の徹底を求めているが、その主旨は、顧客をスルメではなくイカとして扱えということである。

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さて、金融庁自身は、金融監督庁としての発足以来、徹底的に銀行をスルメとして扱ってきたのであるが、前長官の森信親氏のもとで革命的な方針転換が断行され、現在では、銀行をイカとして扱い、生きたイカと対話することを目指しているのである。

森氏は、金融行政の目的を再定義して、金融力の強化を通じて経済の成長を実現し、国民の厚生の増大を図ることとし、その目的を実現するには、銀行を外側から自己資本規制等の厳格な数値規制を課すだけでは不十分で、対面して内側から議論することが不可欠であるとしたわけである。

つまり、銀行の現況を示す客観的な数値規制を静的に課すスルメ規制を脱して、生きている銀行の動態を対話によって把握して適切な対応をしていくイカ監督に移行すると宣言したわけだが、監督という伝統的な用語は、今では、やはり伝統的な用語である検査と統合されてモニタリングと呼ばれていて、それは対話と同義と考えられている。

静的な数字は、死んで干からびてスルメに化しているから、それとは対話できない。対話は、生きているイカとの間でしか成立しない。こうしたイカの動態のモニタリングという考え方は、銀行だけでなく、全ての金融機関に対して適用されている。

しかし、金融庁の人は、古い検査や監督のもとで、イカを殺して切り刻んだり、スルメに干したりすることは得意中の得意だったろうが、新しいモニタリングのもとで、イカの言語を話せるのか、イカとともに泳ぐことができるのか。

イカの言語を話し、イカとともに泳ぐことのできる金融庁を目指す、そこに現在の金融庁自身の改革の要諦があるのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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