12、13日市ヶ谷で行われた恒例の装備庁の発表会に行ってきました。講演はみるべきものがないのでパスしました。
19式自走榴弾砲に関してはあれこれ聞いたけど、結局は無理してC-2に搭載するために25トンに無理やり収めようとしたこと、極力安くしようとしたのが問題と感じました。恐らく携行弾数は諸外国のそれよりかなり少ないはずです。
そもそもC-2の調達予定数は30機に過ぎず、それが22機まで減らされていたわけです。16式機動戦闘車や19式を戦時に輸送する余裕なんって有るはずがない。そのフィクションに合わせて開発をしたわけです。仮に空輸するならばC-130で空輸可能なモデルにすべきだったでしょう。
キャブは一部が装甲化されていますが、フルに装甲化されていません。このためCBRNシステムがついていないでしょう(説明員は明言を避けましたが)、また冷房もついてないでしょう。逆にキャブにCBRN、冷房ついているならば、中央の粗末な席の装填手は冷房にもあずかれず、CBRN環境下では戦死確実です。しかも座席はシートベルトがあるだけでクッションもありません。長距離移動はどうするんだといったら、別な車に乗る可能性もあると。
それから武装ですが、試験中のビデオではM2が搭載されている画像が流されていました。ところが調達されたものには武装はついていない。
どういうことかと尋ねたら、導入してから改良点があれば改良するというお話でした。
無論、導入後に不都合が分かる場合がないとは言えません。初期の生産レートを低く抑えるのもそれが理由の一つです。ですが、機銃を載せるか載せないか、という話はそれ以前の問題でしょう。
穿った見方をすれば安めに単価を設定しておき、採用されたら単価を上げる作戦ではないか。そうでないなら用兵側も調達側も素人同然ということです。
また弾薬車を何故、作らなかったかと尋ねたら、弾薬補給は一旦下がって行えばいいというお話でした。つまり激烈な砲兵戦は想定していない。であれば、別にFH70でもいいじゃないですか。火砲の数を200門ぐらいに減らしてもいい。本格的な機甲戦闘や大規模な戦闘の能力は種火程度でいいわけです。
主に想定されている島嶼防衛、ゲリコマには19式は必ずしも必要ないでしょう。まだM777でも導入した方がマシです。
これは大臣にも質問しましたが、航空観測の手段がないのに新型自走砲いれてどうするんでしょうか。それに精密誘導砲弾の導入予定もない。むしろこれらの充実を先行させるべきでしょう。
更に申せばソ連が崩壊して10年もたってから99式という冷戦向けの装軌式の自走榴弾砲を導入する必要があったか。仮に必要だったとしてもごく少数でとどめておけばよかったでしょう。代わりにカエサルでも導入しておけばよかった。ところがつい最近まで延々と調達が続いたわけです。当事者意識と能力の欠如以外なにものでもない。
海自関連の展示では護衛艦の窓ガラスの防弾化の研究が展示されていました。聞いたら、ガラスとポリマーを積層したコンベンショナルな防弾ガラスの導入しか検討してない。ですが諸外国では全ポリマー製、透明セラミックの防弾ガラスもあります。それぞれ一長一短あるのですが、採用する、しないは別にしても検討はすべきだったでしょう恐らくその存在を担当者が知らないのだと思います。
それに諸外国の軍艦の例を直接リサーチはしていないように思えました。普通に考えたらまずはそれをやるべきでしょう。更に申せば、窓ガラスだけではなく、ブリッジの壁面などの強化も必要でしょう。海賊は23ミリ機関砲やRPGで武装している場合もある。壁面と、ガラスの強度を考えるべきです。その場合は複合材料の導入も検討すべきですが、全く考えてもいないようです。壁面全部を複合材にするのは技術的にも難しいが、外側や内側に貼り付けるのならば比較的に容易に可能です。仮に壁面も強化するならば防弾ガラスを据え付けるための基部も変化します。展示を見る限りそのような要素は検討していないようでした。
民間企業の展示で面白かったのは川重の偵察用バイクのハイブリッド化です。相変わらずエンジンはガソリンですが、これは、ディーゼルは重たいなど、なかなか難しいところが有るとのことでした現場で色々お話したのですが、電動バイクはどうかと聞いたら、やはり航続距離が短いのが難点だと。であればATVと組あせて使用すればいいのではないか。
ATVに電動バイクを搭載して、途中まではATVでいき、最後だけは電動バイクを使えばいい、そうであればATVのエンジンあるいは搭載発電機で充電もできる。更に申せばATVにドローンを搭載してバイクと組み合わせて運用も可能でしょう。そういう話も盛り上がりました。川重は今度オスプレイ搭載用のATVも開発してこれはDSEIジャパンでも展示される予定です。
いつもアブダビやユーロサトリなどの見本市で川重の偉い人に輸出が最も容易なのはATVだ、世界中に販売・サービス網が既にあるじゃないか、しかもこれから軍隊でのATVの導入は無人型も含めて需要は増えるだろう、度々そう申し上げてきたんですが反応が鈍い。所詮、軍事部門の主力は航空機と潜水艦であり、あまり積極的ではないようです。それは三菱重工がデパートならば、川重はショッピングセンターで、それぞれの部門の独立性が高い、悪く言えば仲が悪い。全社を挙げてプロジェクトを立ち上げにくいという社風にも問題があるでしょう。
ぜひともATVやハイブリッドバイクなどは世界の市場で販売して欲しいものです。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
日本人は防衛予算の正しい見方をわかってない:2020年度は「5.3兆円超」でなく6兆円前後に?
■本日の市ヶ谷の噂■
河野太郎防衛大臣は「自衛隊員は基地のトイレットペーパーを『自腹』で買う」という胡乱な本に付箋を貼って猛勉強中で、空海幕僚監部では「そりゃ、陸自だけだよな」と嘲笑され、大臣官房では失笑が漏れているとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。