岩下志麻さんが出演していたこともあり、昨夜「ドクターX」を見た。2004年に紫綬褒章を受章した際に、同時に受章されたのが岩下志麻さんだった。読売新聞にインタビューを受けた記事が並んで掲載された際には、私の部下に「極道と姉御」の対談かとからかわれた。授章式で拝見した際には、背筋がきりっと伸びて、その姿にはオーラがあり、しかも「極道の妻のイメージ」も強かったので、近寄りがたい雰囲気があったのを覚えている。
(※編集部より:ツイッターはテレビ朝日宣伝部から引用)
ドラマは、看護師協会のトップが、背中にある刺青を見られたくないので検査を拒否していたが、最後には血を吐いて倒れ、大門美知子に命を救ってもらうというたわいもない設定だった。
刺青には金属成分が含まれていることがあるので、MRI検査を受けることができない。MRI検査を受けると、磁気で高熱が発生して火傷を負うリスクがあるというのは、一般の方にとっては驚きだったかもしれない。電子レンジには、金属成分を含むお皿を利用できないのと同じようなものだ。以前にも紹介したが、さつまいもをラップでカバーしないで、電子レンジにかけ、ボヤを起こした研究員がいた。さつまいもの皮には金属成分が多く、高熱になって発火したためだ。
番組では、女性の背中一面にある刺青を傷つけないために、背中からメスを入れるのを避け、側胸部からメスを入れて、難しい手術に挑む設定だった。看護師として世話をしていた患者さんだった極道に恋をして、子供をもうけ、愛した人の思い出として背中に刺青をした女性という役柄を岩下志麻さんが演じるという設定は面白かった。
そして、刺青を避ける手術の場面を眺めながら、40年近い前の患者さんを思い出した。女性の患者さんで、肋骨に沿ってメスを入れる方が手術が容易だったのだが、患者さんから「絶対に刺青に傷をつけないで」との強い要望があって、脇の下から縦にメスを入れたのだ。
岩下志麻さんの演ずる女性が、愛した男性の思い出に傷をつけたくないと言っていたが、その当時の患者さんも同じような理由だった。私の場合には難しくない手術だったので、ドクターXほどの腕がなくても問題なかったが、外科医には手先の器用さが重要だ。
人工知能が外科手術をガイドする時代になっても、瞬時の判断と手術手技は代用できない能力だと思う。わずかな判断のミスが命に関わるが、この瞬時の判断力と度胸は努力だけではカバーしきれない天性のものだと思う。AIホスピタルプロジェクトのリーダーをしているが、天才的な外科医は絶対に必要だと信じるのは自己矛盾なのだろうか?
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。