最近、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の協定期限が今月23日0時まで迫っている中、アメリカの次官級要人3人とミリー統合参謀本部議長、エスパー国防長官、インド太平洋司令官が相次いて韓国を訪れ、在韓米軍司令官と韓国国防長官と緊密な協議が行われている。
ミリー氏は12日、専用機の機内で「アメリカの一般国民はなぜ、米軍がお金持ち国である韓国や日本に必要なのか、費用がどれだけかかっているのかを疑問に思っている」と言及した。すなわち、在韓米軍の存在を疑問視した訳である。
「夕刊フジ」(11月15日)の報道によれば、ミリ氏は韓国に対し、「在韓米軍の撤退」と言うカードをチラつかせて、「防衛分担金の増額(5倍増)」「GSOMIA維持」を迫ったとみられる、と分析した。これと関連して筆者は電話インタビューを通して次のように解説した。
「文政権が『GSOMIA破棄』に踏み切るかは、五分五分だろう。破棄を通告して、在韓米軍の縮小・撤収まで求める恐れもある。それが『反米・離米』の文政権の狙いかもしれないが、韓国世論は『文政権は国防音痴だ』『安全保障を任せられない』と猛烈に反発するはずだ。致命的打撃となり、文政権が倒れるかもしれない。トランプ政権は、文政権を見限っているが、中国や北朝鮮とのパワーバランスを考えると、在韓米軍の縮小はあっても、完全撤退はあり得ないだろう。強烈な圧力を加えているのは、文政権を倒すためではないか」
ちなみに、駐韓米軍の兵力減少はあり得ると思うが、全面撤収は考え難い。というのも、韓半島の38度線を中心とした休戦ラインは、Land Power(大陸勢力:中国、ロシア、北朝鮮)とSeaPower(海洋勢力:イギリス、アメリカ、日本、韓国)の力のバランスを保つCenter Lineだからである。センターラインが崩れた場合は、世界平和と地域安保環境に地殻変動が発生して安定した国際秩序が崩れる危険性が潜在している。
従って、駐韓米軍の全面撤収は考え難いテーゼになると考えられる。
韓国の有識者の中には、「文政権がGSOMIAを破棄するのを歓迎すべきだ」と指摘する専門家もいる。裏を返せば、それこそ、文政権の政治生命が短縮されかねない火種になることを物語っている。日本からの輸出優遇対象国から排除され、韓国経済が破綻したら我慢できる。しかし、GSOMIA破棄は韓国民が生きるか死ぬかと言う生死を左右する問題だから韓国民は命掛けで文政権を倒すことになるだろう。
韓国は歴代大統領が亡命、暗殺、懲役、自殺した前例がある。いい意味で韓国民は粘り強い反骨根性を持つ底力がある。文政権が政治生命を伸ばして安定した政局運営を果たすためには、大勢国民の世論と日米の同盟国の意思に足並みを揃える選択肢しかないと考えざるを得ない。
自分の手で自分の首を絞める自殺行為をやめるこそ、文政権が生き延びる近道なのだ。
—
高 永喆
拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員、分析官歴任
【おしらせ】高永喆さんの著書『金正恩が脱北する日』(扶桑社新書)、好評発売中です。