「桜を見る会」安倍首相の説明は納得できる

加藤 成一

安倍政権打倒を狙う主要野党

11月8日の参院予算委での共産党田村智子議員の「桜を見る会」に関する安倍首相に対する追及をきっかけに、「私物化疑惑」や「虚偽答弁疑惑」「公職選挙法違反疑惑」問題等が浮上し、連日マスコミ等でも大きく取り上げられ、事態は予想外の展開を見せ、政府は来年度の「桜を見る会」の中止に追い込まれるに至った。

立憲、民主、共産などの主要野党は、「疑惑は一層深まった」として、安倍首相に対して、「前夜祭」(夕食会)の明細書など関係資料の提出を求めると共に、衆参予算委での説明を要求している。主要野党はこの問題を徹底追及してあわよくば政局に持ち込み、安倍政権打倒を狙っている。

安倍首相の記者会見での説明

ぶら下がり会見で釈明する安倍首相(15日、官邸サイトより)

安倍首相は、15日及び18日の記者会見で、次のように述べた。

(1)「桜を見る会」の運営に関して、招待客が年を経るごとに多くなったことを反省し見直す。

(2)夕食会を含め、旅費、宿泊費などすべての費用は参加者の自己負担で支払われている。安倍事務所や後援会としての収入、支出は一切ない。旅費、宿泊費は参加者が旅行代理店に支払った。

(3)夕食会費用は会場の受付で安倍事務所職員が一人5000円を集金した。ホテル名義の領収書をその場で手渡し、集金した現金をホテル側に渡す形でホテル側へ支払いがされた。

(4)夕食会の一人5000円の価格設定が安すぎるという指摘があるが、出席者は約800人で大多数が当該ホテルの宿泊客である事情などを踏まえてホテル側が設定した。したがって、安倍事務所からの補填は一切ない。

(5)公職選挙法や政治資金規正法の違反は一切ない。

安倍首相の説明の法的検討

上記安倍首相の説明(1)~(5)について法的に検討する。

(1) の招待客が年々増えたことについて率直に反省し、制度の見直しを述べていることは評価できるであろう。

いわゆる「功績者・功労者」に限らず、議員の後援会員や支持者なども広く招待されていたことは、2010年の旧民主党鳩山政権時代においても大同小異の慣行となっていたため、安倍政権における招待客の増加等の「桜を見る会」の運営について、特段の「可罰的違法性」は認められないから、公職選挙法違反の買収や寄付には該当しない(2019年11月17日付け「アゴラ」掲載拙稿「桜を見る会疑惑の法的検討:買収罪は成立するか」参照)。しかし、今後、招待規準を厳格化する必要性はあると言えよう。

(2)の夕食会費や旅費、宿泊費などすべての費用が参加者の自己負担であった事実、したがって、安倍事務所や後援会としての収入・支出が一切なかった事実については、これに反する事実を認めるに足りる証拠は存在しない。そうすると、収入、支出の事実が無ければ、政治資金収支報告書に記載する特段の必要性がない。

(3)の夕食会費の集金の方法は、安倍事務所職員がいわばホテル側に代わって集金したと解され、しかも集金した金額をそのままホテル側に渡しているから、安倍事務所の収入とはならず、ホテル側の収入であり、法的には何らの問題もない。

ホテル発行の領収書は、あらかじめ金額も出席者数も確定しているから、安倍事務所職員がホテル側に代わって出席者に渡しても、法的には何らの問題もない。

なお、ホテル側が、金額を受け取らずに領収書をあらかじめ発行し、安倍事務所側に渡すことはあり得ない、などと指摘する向きもあるが、そこはホテル側と安倍事務所との信頼関係があれば十分に可能である。法的には何らの問題もない。

(4)の夕食会費5000円は旅行代理店又は安倍事務所とホテル側との交渉に基づく契約で決定されたことであり、出席者の大多数が当該ホテルの宿泊客であることも考慮されたと考えられる。ホテル側としては、契約通りの一人当たり5000円に相当する飲食を提供すれば、ホテル側としての債務は履行されたことになり、法的には何らの問題もない。

なお、ホテル側が安倍事務所に対して、1人当たり5000円の価格設定について特別の配慮や便宜を図れば、贈収賄や政治資金規正法違反等の可能性があるとの説があるが、特別の配慮や便宜を図った事実を認めるに足りる証拠は存在しない。

かえって、当該夕食会に参加した前田晋太郎下関市長は、18日の定例記者会見で、「意外と中身は質素で、そんなに過剰にふるまっているわけではない。必要最小限度と思うし、そこに全く違和感はない」と述べているのである(11月18日 朝日新聞デジタル)。

以上の事実によれば、夕食会費一人当たり5000円は、あくまでも当事者間の契約に基づき合意された金額であり、これが不相当である事実を認めるに足りる証拠は存在しない。

(5)の公職選挙法違反及び政治資金規正法違反については、以上の法的検討の結果、これらを認めるに足りる事実も証拠も存在しない(上記拙稿参照)。

結論

以上の法的検討の結果、「桜を見る会」に関する上記安倍首相の説明は、法的に正当であり納得できるものである。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。