日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延期が決まった。GSOMIA破棄を一方的に表明した韓国の文在寅政権にとって今回の破棄の撤回決定は大きな試練だったかもしれないが、正しい決定だ。
当方はこのコラム欄でGSOMIAに関連したコラムを書いてきたが、多くのことを読者から教えられた。その一つは、日本国民が韓国側の執拗な反日攻撃に呆れ、辟易するのを通り越して怒り心頭に発しているということだ。当方はウィーンにいて母国・日本人がソウルから連日配信される根拠なき反日批判、中傷・誹謗にどれほど傷つけられ悩まされてきたかを充分には理解していなかったことに気が付いた。
韓国側は「日本は加害者だから叩いても問題がない」と誤解しているが、韓国人が生身の人間であるように、日本人も叩かれれば痛い。それも自身が直接犯したことがない過去の内容で、これでもかこれでもかと叩かれれば、やはり頭にくるし、反撃したくなる。しかもその相手は感情的に対応してくるから、相手にするには疲れ切る。
日本人は韓国のサンドバッグではない。韓国の為政者は、日本というサンドバッグを叩くボクサーのようだ。それだけではない。彼らの多くは直接の被害者ではなく、被害者の代弁という形を利用して反日を繰返してきた。生存者が30人を割ったいわゆる「慰安婦」の代弁者として、韓国の為政者やその代弁者たちが日本を批判してきた。
第2次世界大戦が終わって70年以上の年月が経過した。大戦時の被害者の多くはもはや生存していない。その生存していない被害者を代弁する人々はどのような権利があって自身が体験もしていないことで相手(国)を批判、中傷できるのか。
それが正当というのならば、世界至る所で過去の問題を遡上に挙げて紛争、対立を繰り返すことになる。幸い、時間は経過し、被害者も加害者も歴史の舞台から姿を消していく。新しい世代は新しい歴史を綴るチャンスが出てくる。にもかかわらず、為政者はその若い世代に対して過去の重荷を負わせ、「これが武器だ。戦いを始めよ」と発破をかけているのが現代の韓国の為政者の姿ではないか。
戦争中とはいえ、不法に扱われた女性は痛みを与えた相手を批判する権利はある。韓国の慰安婦問題を見ていると、声を大にして叫んでいるのは慰安婦自身でもその家族でもない。
戦時中、性的犠牲になった女性を抱える家族、遺族たちは、世界に向かって「私の娘、母親は慰安婦にされました」と叫び、相手を糾弾したいと思うだろうか。それには痛みが余りにも深いはずだ。自身の娘、母親が慰安婦だったということを米国、ドイツなどに慰安婦像を輸出してまで知らせたいと考える本人やその家族がいるだろうか。
「女性の権利保護」という理由を持ち出して日本を批判するのならば、ベトナムに派遣された韓国兵士がベトナム女性に犯した蛮行を忘れたのか。このコラム欄でも何度も指摘したが、韓国兵士によって蹂躙されたベトナム人女性の数はいわゆる“慰安婦”の数より多い。「女性の権利保護」というのならば、現代の韓国では人口比で性犯罪件数が飛びぬけて多い国だ。
戦争、紛争で生じた様々な痛み、苦しみは時間に委ねるべきだ。時間は痛みや恨みを癒す力を有している。癒しのプロセスで恣意的に過去の痛みを呼び起こす事は間違っている。世界中で戦争、紛争は絶えず起きてきた。痛み、苦しみは世界至る所に刻み込まれている。朝鮮半島はその痛みを掘り起こして新たな紛争、対立を先鋭化させている世界でも数少ない地域だ。その責任の多くは韓国の為政者にある。
隣国からの反日攻撃で多くの若い日本人は傷ついたが、もはや黙っていない。傷つくのは韓国人だけではない。日本人は痛みを感じながら耐えてきているのだ。それが限度を超すと、「嫌韓」となって跳ね返ってくる。
日本人が戦後、世界で果たしてきた人道支援、経済支援を想起してほしい。そして優秀な科学者がノーベル賞を受賞する度に、日本の若い世代はその日本を誇りに感じているのだ。
韓国の為政者も自国の若い世代に「ヘル朝鮮」ではなく、「韓国を誇る」と感じさせるためにそのエネルギーを投入すべきではないか。愛国心を育成するためには、国家が世界に尽くした実績を積み重ねていく以外に道がないのだ。
いずれにしても、日本は韓国のサンドバッグとしての役割を止め、「徴用工」問題でも自国の立場を明確し、反撃した。GSOMIA破棄問題は日韓両国に新しい関係を構築する機会となった。日本だけではない。皮肉にも、反日の権化、文在寅大統領時代になって韓国も過去の呪縛から解放されて、新しい時代の新しい関係を模索していかなければならなくなってきた。
朝鮮半島の米軍プレゼンスも近い将来、再考されるかもしれない。北朝鮮、中国の軍事脅威が高まる中、日韓両国の指導者は主体的に課題に取り組み、若い世代のために未来を開いていかなければならない。幸い、韓国のGSOMIA破棄、撤回、そして延長決定は日韓両国にとって大きな教訓を与えてくれた。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年11月23日の記事に一部加筆。